72.第2章 プロローグ
大賢者様の聖図書館、第2章のはじまりです!
時は、あの舞踏会の夜より少し前に遡る。
手入れすらされず荒れ放題になった、色褪せた薔薇のアーチに迷路のような生け垣。
枯れた華奢な噴水は所々崩れてしまっているし、蔦が絡まりレンガ壁すら見えない程に苔むした西の塔は、かつての美しさなど見る影もない。
今目の前にある光景の全てが、古い記憶にある昔の面影をちらちら呼び起こすものだから、らしくもなく寂しさのようなものを感じてしまった。
隣には、きょろきょろと周りを見渡す、金髪に美しい薄紫の瞳をしたこの国の王子。
あまり好ましくは思っていないこの王子の子守を、何故自分がしなければならないのか……と、ちょっと無気力に溜息をついた。
そんな王子と、人知れずオルフィード国王城の奥の奥、今はもう廃墟と化しているこの場所に来ているのには、ちゃんと理由がある。
視線を向けた迷路のような崩れかけの生け垣の先に、ガラスが割れ植物がはみ出しているような有様の温室が見える。
我が親友にして、このオルフィード国の初代国王だったザフィアが、王妃として迎えた隣国の女性の為にと作った温室。
当時の煌びやかさはすっかり消えて、曇り汚れのこびりついたガラスドームには、無数の植物が蔦を這っていた。
ザフィアの末裔であるこのポンコツ王子が、この温室の地下に隠し部屋を見つけ、更にはザフィアの気配がするという本を見つけたとか言い出すから、確認しにくるしかなかったのだ。
作られてすぐの頃、何度かこの温室には連れてこられた記憶があるけれど……隠し部屋なんてものは、なかったはずなんだが。
……俺が引きこもってから、晩年のザフィアが作らせたのだろうか。
色々な事を考えながら荒れた庭を進み、おっかなびっくりといった様子の王子を連れて、温室の扉に手を掛ける。
錆びて多少ひしゃげている扉は、ぎぎいぃぃと耳障りな音を立てて開いた。
途端に、むわりとむせ返るような土と緑の匂いと共に、微かに――ほんの微かに、何か懐かしいマナの気配に包まれる。
「…………」
これは、この猪王子の妄言とも、言っていられないようだった。




