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【WEB版】大賢者様の聖図書館  作者: 櫻井 綾
第1章 大賢者様の秘書になりました

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33.休日は城下街で<1>

いつも楽しんで頂いて、本当にありがとうございます。

ブクマ、評価も大変嬉しく思っております。


更新が一日遅くなってしまい申し訳ありませんでした。

城下街ツアー回開始です!


「何だそれ、お騒がせにも程があるだろ……!」


 お腹を抱えてテーブルに突っ伏し笑い転げるオリバーに、私とシャーロットは揃って顔を見合わせ苦笑するしかなかった。

 お茶会としていつもより少し遅い時間に集まった私たちは、今日一日大変苦労したライオット王子との遭難事件の話題でお茶を楽しんでいた。


「シャーロットは本当に大変だったよね。図書館中探し回っていたんでしょう?」


 午前中の授業の時に来た兵士からの便りが、そもそも城を抜け出した王子を探せというものだったらしい。

 シャーロットは頷いて、力なく肩をすくめた。


「ええ。普段使わない通路や庭の隅々まで……足が棒のようですわ。ですが、私より貴女の方が今日一番苦労したのでしょう?リリー」

「苦労というか、まぁ……うん。私も疲れたなぁ……」


 連日の慣れない淑女のマナー講座や、時間の感覚が狂う場所で彷徨うというとんでもない体験に、さらには王子と焔さんの口論に巻き込まれ。

 思い出してみれば随分と怒濤の一日だったなと、遠い目でテーブルに額を擦りつけた。

 ぽんぽん、と頭を優しく撫でてきたのは、きっとオリバーだ。


「よしよし、お前ら2人ともよく頑張ったな」

「……そういうブリックスだって、今日は忙しかったんじゃありませんの?」

「ああ、まあなぁ」


 ちょっとだけぷいとそっぽ向きながらシャーロットが言った言葉に、オリバーは曖昧に笑う。

 何の事かわからずちょっとだけ首を傾げると、今度はシャーロットがぽんぽんと背中を撫でつつ教えてくれた。


「先日のあの貴族のマナブック作成を、ブリックスに担当してもらっていますの。この男、こう見えて仕事をこなすスピードがとても速いんですのよ」

「そんなことないけどなー。まー、ああいう貴族ってそこそこいるし、なんとかしないと後がうるさいからな」


 あの貴族、という言葉に、思い出すのは貴族窓口を見学した日の最後に見たあの傲慢な男性だ。

 こんなに毎日頑張ってるシャーロットに、ねちねち嫌なことを言っていたやつ。


「……私、あの人嫌い。シャーロットのこと悪く言ってた」


 突っ伏したままぼそりと呟くと、友人の優しい声が聞こえてくる。


「いいんですのよ。悔しいですけれど、あの様に仰ってくる貴族の方は結構いらっしゃいますから。……私には、リリーがいますしね」

「シャーロット……」


 こんなに図書館のために努力している彼女を、どうしてあんな穿った見方しかできないのだろうか。

 そんなことを考えて、なんだか私まで悔しくなってしまう。

 むうっとしているところへ、今度はオリバーの手にわしゃわしゃっと思い切り頭をかき回された。


「わっ!オリバー!」

「こいつがいいって言ってるんだから、いつまでも辛気くさい顔してんなよ、リリー。それより、覚えてるだろうな? やっと週末だぞ」

「あ!城下街……!」


 がばりと顔を上げれば、にっと楽しそうに笑うオリバーの顔が視界に入った。


「なぁシャーロット、お前も明日なら行けるよな?」

「ええ。リリーも、明日で都合はよろしくて?」

「うん、大丈夫!すごく楽しみにしてたの」

「私もですわ。グレア様から当日の貴女のドレスの形や色も聞いていますし、気合いを入れてアクセサリー選びしませんと!」

「おーい、俺のマナペンが最優先だからな。忘れてくれるなよー?」

「あら、そんなものはリリーのアクセサリーに比べたら、どうってことないでしょう? ちゃんと付き合ってあげますから、さっさと選ぶんですのよ」

「はいはい」


 ツンとそっぽ向くシャーロットに、それでも嬉しそうな表情のオリバー。

 城下街は、先週末に焔さんと歩いてしまったけれど、友達と一緒に歩くのとはまた別物だ。

 集合時間や場所などの話題で盛り上がって、気がついた時にはすっかり夕食の時間になってしまっていた。

 また明日、と分かれる挨拶まで、いつもより明るい声が出る。

 こちらの世界で初めての、友人との外出。

 心が浮き立つような気持ちで、私は夕食を待つ焔さんのところへと戻っていった。







 心待ちにしていた、当日の朝。

 目が覚めると外からは雨の音が聞こえていて、一瞬動揺してしまった。

 けれど今日遊び歩くのは向こうの世界だ。こちらの世界が雨でも、向こうが晴れていればそれでいい。

 そわそわした気持ちのまま軽い朝食と身支度を済ませて、アルトと一緒に自宅を後にする。

 いつもの小部屋でワンピースに着替えて、少々呆れ顔のアルトに見守られながら扉を開ける。

 ――と。


「……え?」

「おはよう、梨里さん」


 扉を開けてすぐのところに、見覚えのある質素な服を着た焔さんがにっこり笑って立っていた。


「……え、と。おはよう、ございます……?」


 嫌な予感がする中、ぎこちなく挨拶を返す私に、焔さんは今日も素敵な笑顔でにっこり微笑んだのだった。






「……」

「いやあ、晴れてよかったね」


 約束の時間よりも大分早く着いた待ち合わせ場所のリブラリカ正門前。

 私の隣には、のほほんと青空を見上げる焔さんの姿があった。

 あれからどうしてもついてこようとする焔さんをどうしたらいいのかわからず、最終的には彼の、「梨里さんだって、引きこもりの僕が外出するのは良いことだと思うでしょう?ほら、健康にいいし」という言葉に、返す言葉もなくなり折れてしまったのだ。

 今日はシャーロットとオリバーが一緒だから、その浅いフードでは彼らに顔が見えてしまう、と言っても、本人は軽く首を傾げて、「うーん、まぁいいかなぁ」なんて言う始末。

 本当に、時々何を考えているのか本気で分からなくなる人だ。

 ちらりと見上げれば、視線に気づいた焔さんがにこにこと機嫌良さそうに笑顔を向けてくる。


「ん?」


 ……相変わらず、なんて綺麗な顔で笑うのだろうか。


「……いえ、なんでもないです」


 シャーロットの反応が今から怖いな……、なんて考えながら、ふと視線を巡らせた先に。


「……あれ、リリー?」

「こんにちは、オリバー」


 制服ではなく、貴族が着るようなジャケットを軽く着崩したオリバーが、こちらを見て首を傾げた。


「よう。……あの、このイケメン誰?」


 そうだよね。そうなるよね……。

 予想通りの反応に、もう苦笑するしかない。


「えっと……ついてきちゃって」

「?」


 どう説明したものかと言葉に迷ってる内に、にこにこ笑顔の焔さんがオリバーに軽くひらりと手を振ってみせた。


「ごめんね、ついてきちゃった。リリーの保護者のイグニスだ、よろしく」

「ああそうなのか。俺はオリバー・ブリックス、いつもリリーには仲良くしてもらってる。こちらこそよろしく」


 あっさりと互いに自己紹介して握手まで交わす2人に、私ははらはらと見守るしかできない。

 それにしても保護者って。……いやまぁ、間違ってはいないのだけど。


「いつもリリーと仲良くしてくれてありがとう。今日、城下街に遊びに行くって聞いて。楽しそうだから僕もご一緒させてもらえたらと思ったんだけど、どうかな?」

「全然構わないけど、たぶんリリーとシャーロット……もう1人来る友人の買い物に付き合わされるだけになると思うぞ」

「女の子の買い物に付き合うなら、荷物持ちは多い方がいいでしょう?」

「それもそうだ。ちょっと気が楽になったよ」


 何故そんなにもさらりと打ち解けてしまっているのか。

 オリバーはいつも雰囲気が気さくで気遣いが出来て、人と距離を縮めるのが得意なところがある。

 お茶会の時に、リブラリカで迷子になった子供の相手をしたりとか、利用者の相談事を聞いてあげたりした話もよく聞いていた。

 そういうオリバーの明るい気性が、初めましての人相手でも変な距離を感じさせない要因のひとつなのかもしれない。

 いつのまにか楽しげに会話を続ける2人を見ながらぼんやりとそんなことを考えていると、今度は馬車が近くに停まったのに気がついた。

 貴族が乗るような小綺麗な見た目のクラシックな馬車から、ふわりと淡い緑色のスカートを揺らして金髪の女性が降りてくる。


「シャーロット!」

「リリー!」


 制服ではない彼女を見るのもこれが初めてだ。華美すぎない、シンプルだが仕立ての良いワンピースを着たシャーロットは、いつもよりもきらきらして見える。

 ぱたぱたと軽い足音で駆け寄ってきた彼女は、私、オリバーと確認したあとに、焔さんに視線を向けてきょとんと首を傾げた。


「……ええと、申し訳ありません。どこかでお会いしたことがありまして?」


 何か感じるところがあったのか、不思議そうにしているシャーロット。

 はっと焔さんを振り返ると、どこか悪戯っぽい表情でにこりと微笑む大賢者様がそこにいた。


「やあ、ロイアー。休日だと君も、そんなふうにお洒落するんだね。似合っているよ」

「…………へ?」


 シャーロットが目を点にしながら、ゆっくりと3回、瞬きをする。

 くすりと本当に楽しそうに笑う焔さんに、事情がわかっていないのか頭に疑問符を浮かべているオリバー。

 ゆっくりとシャーロットの視線がこちらに移動してきたので、私はこくりと頷いてみせた。


「……シャーロット、あのね……今日、一緒に回りたいってついてきちゃったの」

「……リリー、あの、それは……このお声……えっと、つまり」

「……イグニス様、だよ」

「………………」


 私の言葉を聞いてから、またゆっくりとシャーロットの視線が焔さんへと戻っていく。


「いつも仕事でしか話したことなかったけれど。今日はよろしく」

「……っあ、あのっ、わた、私……っ」


 やっと状況を理解してきたのか、焔さんににっこりと笑いかけられたシャーロットの顔が、見る間に真っ赤に染まっていく。


「――――っ」


 彼女の身体がぷるぷると震え出したと思ったら、その場で音にならない悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまった。

 感激に身を震わせるシャーロットを宥め、私が彼女を落ち着かせている間。

 焔さんからなんとなくの事情を聞いたオリバーがお腹を抱えて笑い出してしまい、多少復活していたシャーロットに張り倒され、それを見て楽しそう笑う焔さんの姿にまたシャーロットが崩れ落ち。

 やっとのことで冷静さを取り戻したシャーロットに連れられ彼女の馬車に乗り込んだ頃には、待ち合わせ時間はすっかり過ぎてしまっていたけれど、いつのまにやらみんな打ち解けているようだった。


「先ほどは本当に失礼いたしました。お見苦しいところを……」

「いや、僕も意地悪してすまなかった。今日は休日だし、普通に接してくれて構わないんだよ。楽しもう」

「ありがとうございます。ええ、イグニス様がそう仰るのでしたら、目一杯楽しんで良い休日に致しましょう」


 シャーロットと焔さんが会話を交わす中、馬車はゆっくりと動き出して、城下街の商店街へと向かっていく。

 車内では隣同士で座った焔さんとオリバーが、楽しげにマナペンの話をしていて、当初の予定とは違うけれど、4人で過ごすこんな休日も素敵だな、なんて心がふわふわするような気分を感じていた。

 膝の上に置いていた手を握られてふと隣を振り向けば、まだ少しだけ頬を染めたシャーロットがそっと肩を寄せてくる。


「リリー。私、憧れのイグニス様のお顔を見られるだなんて、思っていませんでしたわ。……こんな休日になるなんて、本当に嬉しいんですの」


 こそりと私だけに聞こえるように囁かれた言葉がくすぐったくて、私もそっと囁き返す。


「マスターが勝手についてきちゃっただけなんだけどね。シャーロットが喜んでくれるなら、よかった」

「ええ。本当に……イグニス様のこともそうですけれど、……こんな風に出掛けられる日が来るなんて、思っていませんでしたの。……本当にありがとうございます、リリー」


 そう言って寄せられていた身体はそっと離れていく。

 離れ際の彼女の横顔はとても幸せそうで、私まで心がぽかぽかするようだったのだけど。

 ……あれ?

 彼女が窓の外へと視線をやるまでの間。

 一瞬だけ、柔らかくなった視線でちらりとオリバーの方を見たように見えたのは、気のせいだろうか。

 かたかたと、馬車の車輪が石畳を進む音が聞こえる。

 段々と近づいてくる市場の喧噪に、道を歩く人たちが段々と多くなっていく光景は、先週も見たばかりとはいえ、まだまだとても新鮮に感じる。

 4人で楽しむ休日の城下街ツアーは、まだ始まったばかりだ。




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