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【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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90.その信頼を裏切らないよ

 手早く身支度を終えた僕は、トリシャに合わせた着替えの襟を直す。ラベンダーのトリシャより濃いめの色だが、同じ紫系の青を身に纏った。


 胸にトリシャと同じラベンダー色のスカーフを付ける。さあ、この罠に引っ掛かるのは誰か。この際だから、邪魔な貴族を一掃してやろう。悪い笑みを浮かべた僕に、ニルスが応じるように頷いた。


 マルスとアレスを連れ、護衛やソフィと待つトリシャの隣に戻る。腕を差し出すと、するりと絡められた。トリシャの腕に手を添えて、僕は歩き出す。ドレスの裾を捌くトリシャは、姿勢を正して顔を上げていた。


「怖くない?」


「エリクが隣にいて、私が何を恐れるでしょうか」


「うん、今度は化粧直しにも着いていくよ」


「まぁ……」


 くすくす笑うトリシャの肩はほどよく力が抜けて、リラックスしていた。背を伸ばした姿は凛として、堂々としている。僕が惚れたのは、こういうところだ。罵られて傷ついた心で、それでも顔を上げて堂々と振る舞える。トリシャの強さに心を奪われた。


「いつもより綺麗だよ、トリシャ」


 いつも綺麗だと思うけど、今の君の輝きに勝る女性を知らない。卑屈さも遠慮がちな仕草もなく、まるで女帝のようだった。僕の隣に立つ女性として、トリシャ以上は望めないな。


 戻ってきた広間の扉をくぐり、堂々と玉座の前を抜ける。会場に用意された円卓には、それぞれの王族が待っていた。舞踏会に参加するにあたり、各国の特産物を集めさせている。それらの説明を聞きながら、ニルスが届けたシャンパンをトリシャに手渡した。微笑んで受け取る彼女は、躊躇いなく煽る。その信頼を心地よく感じた。


 僕も口をつけながら、いくつかのテーブルを回る。穏やかな微笑みを浮かべたトリシャは、王族の挨拶を会釈で受けた。一切の受け答えをしない。僕にとって好ましい態度だ。むっとした顔の王族も、僕のひと睨みで沈黙した。


 5つ目のテーブルを抜けたところで聞こえたのは、罠にかかった獲物の声。


「あの方、さきほど青いドレスで」


「花瓶の水を浴びたとか?」


「あら、そうなの? よく出てこられたわね」


 くすくすと笑い合うご令嬢3人は、派手な赤や黄色のドレスで着飾っていた。この中に立つと、確かにトリシャのラベンダーは霞むだろう。夜はトリシャの髪の虹も見えず、ただの銀髪だと思ったようだ。


 僕が振り返ったため、彼女達は一度口を噤む。しかし咎めずに口角を持ち上げた笑みで、勘違いして頬を染めた。後ろで双子が顔を見合わせる。どちらが動くか、決めたのだろう。だから僕も視線を合わせて頷く。


「ご令嬢方、こちらへどうぞ」


 誘うように促したアレスと僕を見比べ、嬉しそうだ。僕が君達を見初めたとでも? その思いこみの激しさが、今の発言に繋がったのかな。


「皇妃殿下への無礼を働いた者とお知り合いのようです。事情聴取をさせていただきます」


「え?」


「違うわ」


 騒ぐ女性達を近衛兵が牢へ案内する。帝国は恐怖政治を敷いてきたから、拷問係や牢番は優秀なんだよ。ぜひ味わって欲しいね。見送った僕が視線を戻すと、トリシャがきょとんとしていた。


「どうしたの? トリシャ」


「あの方達、先ほどもお見かけしましたわ」


「そう……」


 一瞬氷点下に下がった僕の冷たい声に、ニルスが追加の指示を出す。生きたまま宮廷を出られそうにないね。

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― 新着の感想 ―
排除しても排除しても沸いて出てくる… それだけ帝国は強大ってことなんでしょうねぇ。。 段々とベアトリスちゃんが安心を覚えて、素の彼女が出てきているのが微笑ましい 願わくばこのまま陛下と共に笑って過ごし…
[一言] こういうタイプの作品を読んでいていつも思うんですが何故自分が愛してる女性を貶めて無事でいられると思うのだろうか?今回の皇帝様でなくても社会的に死ぬかもしれないのに。
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