表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

55/174

54.『はい』以外はやり直しだよ

 ベアトリス・カルネウスではなく、ローゼンタール公爵令嬢でもなく。ただのベアトリスとして僕の妻になって欲しい。アストリッドは皇妃に与える洗礼名のようなもの。フォルシオンは我が皇家の家名。どちらも君の物だ。誰も異論を唱えさせはしない。


「……私」


「残念だけど『はい』以外は何度でもやり直しだよ」


 くすくす笑いながら、トリシャに念を押す。そう、君がいいえと首を横に振ったら、まずはその足をもらおうか。この離宮から逃げられないようにね。それでも拒んだら、次は瞳? 綺麗なのに損なうのは勿体ないから、部屋に閉じ込めるといいね。


 鎖で繋いで部屋に閉じ込めて、僕以外は世話をする数人の侍女しか近づけさせない。騎士も姿を見なくても守れるから扉の外に待機だ。いっそお披露目なんてやめてしまおう。僕以外の男を見ない。声も聞かせないし、話しかけさせない。素敵だね、そんな箱庭を用意したくなる。


「エリク、あの」


「お願いだから頷いてよ。僕は君に優しくしたいんだ」


 濃桃の瞳に睫毛がかかって影を作り、色が赤く見える。白っぽい銀髪に赤い瞳なんて、伝説の女神のようだね。美しいトリシャに似合いの色だった。僕という壊れた皇帝を正しく導く女神だ。さあ、頷いて僕を喜ばせて――。


「はい、私はエリクのものですわ」


 恥ずかしそうに頬を染めたトリシャの言葉は、僕の心臓を止めるほどの力があった。聞きたくて焦がれた承諾が、ついに彼女の唇から零れた。見開いた目を和らげて、僕は自然と浮かんだ笑みに困惑する。作らないのに笑顔になる。


「愛してる、トリシャ。大切にするから」


 抱き寄せた彼女の細い腰に手を回し、髪に唇を押し当てる。君が穢れの証だと思っている髪も、この額や頬、唇さえ……全部僕の宝だ。辿りながら接吻(くちづ)けていき、最後に唇を重ねた。薄く開いた唇の表面を舐めて、隙間にわずかに舌を差し込む。


「ふ……んっ、ぅ」


 物慣れないトリシャの手が肩に置かれた。押し戻そうとしたのか、少しだけ力が入る。でも抵抗する気はないみたいで、すぐに縋るだけになった。いきなり深く重ねたら驚かせてしまう。トリシャにいろいろと教えていくのは僕の特権で、怖がらせないようにしなくちゃ。


「トリシャ、ありがとう」


 自然と口をついたお礼に、彼女はふふっと笑った。その笑顔に心が埋め尽くされる。枯れてひび割れた隙間に、彼女の与える感情が沁みた。惜しみなく与えられる温もりと微笑み、優しい眼差しが胸を高鳴らせる。


「私こそ、エリクに拾っていただいて」


 余計な卑下を声にしそうな唇を指先で押さえる。柔らかい唇に触れると、もう一度奪ってしまいたくなるね。出来たら僕はひたすらにトリシャに与えたいのに。君が持つ優しさや愛情に触れると欲しくなる。こんな感情は知らないから、怖いより嬉しくなった。


 さらりと指先で髪に触れる。銀髪は虹のように光を弾き、紫がかった艶を帯びていた。この美しさを世界が受け入れる間は、僕も世界を壊さないでいられる。うっそりと笑う僕の頬を、トリシャの指が撫でた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] エリクのプロポーズには「はい」一択!うん、わかってました(^^;) 羞じらうトリシャも可愛いです。 トリシャの微笑みは恵みの雨ですね、乾いたエリクの心に潤いを与えてくれます^_^
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ