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【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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44.鳥籠の鳥は飛ばない

 扉を開いた女性騎士に頷き、そのまま室内に入った。驚いた顔をしたトリシャをベッドではなく、長椅子に下ろす。この部屋に書類を持ち込んで仕事はしないから、執務机はない。完全なプライベートスペースだった。


 部屋に入る時、トリシャの体が強張った。僕がいきなり襲うとでも思った? 期待だったらいいけど、違うのは知ってるよ。残念ながら、君は強引に迫られると怖い感情が先に立つみたいだ。ならば、僕に依存するまで甘やかすだけさ。


「安心して、トリシャ。皇帝の名と地位に誓って無理強いはしない」


「は、い……でも」


「僕はトリシャの体だけ欲しいわけじゃないよ。そうだったら、旅の途中でとっくに襲ってる。トリシャの気持ちと体、両方欲しい。欲張りだからね」


 わざと付け加えた言葉を茶化して、ウィンクまで添えて安心させる。ほら、握った手の強張りが解けてきた。僕の手を握り返す指先に血が戻って、ほんのり温かいね。持ち上げてキスをした。染めた淡いオレンジの爪の先に、触れるだけ。


「僕と君の婚約式をしなくちゃ。本当は着飾って美しくなるトリシャを誰にも見せたくないけど、皇妃になる女性を誰も知らないのも……問題あるからね」


 振り返った先で、テーブルの上のベルを摘む。ちりんと鳴らせば、ニルスが顔を見せた。今は双子の騎士も含め、彼だってこの離宮に入れる。政敵が片付いて、邪魔をする貴族をそれだけ減らした証拠だ。


 黙って頭を下げて待つ。主君やその妻となる女性を正面から見る無作法を、彼がするはずない。僕の許しがあるまで待ってるだろう。


「トリシャとの婚約が整った。式の準備をして」


「おめでとうございます、皇帝陛下と未来の皇妃殿下のご婚約が整いましたこと、お喜び申し上げます。準備はお任せください」


 少し顔を上げて微笑んだニルスが、また頭を下げて部屋を出ようとした背中へ、トリシャがおずおずと声をかけた。


「あ、の……ありがとう、ございます」


 にこっと笑い返し、ニルスは余計な発言をせずに出た。ほっとした表情のトリシャが愛らしくて、思わず抱き寄せてしまう。強張った肩が緩んで、それから背中にそっと手が添えられた。


 抱きしめ返すと表現するには柔らかく、だけど確かに感触と温もりを感じる。愛してるよ、トリシャ。君が僕を必要としなくなっても、もう離してあげられない。飼い慣らされた小鳥は、鳥籠の窓が開きっ放しでも逃げないと聞く。鳥籠の中にいる安全と快適さを知れば、外の世界に憧れることはないのだろう。


 愛する小鳥が危険な猫に襲われないよう、僕がきちんと守る。だから君は開いた鳥籠の窓で、僕を出迎えて。ひとつ深呼吸して、立ち上がる。残念だけど、君の手はするりと解けてしまった。


「トリシャ、ドレスの色を選ぼうか」


 虹色の銀髪が映える濃色、紺や紫はどうだろう。柔らかく見せるなら深紅? いや、いっそ白で清楚に装うのも悪くない。


 そんな雑談をしながら、僕は婚約者となったトリシャに微笑みかけた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 優しく甘やかされて、トリシャは幸せですね^_^ こどもの頃可愛かったインコを逃がしてしまったことを思い出しました〜エリクの小鳥はきっと大丈夫ですね ところで、ドレスの色はエリクの瞳の青色は…
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