表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/174

39.名前を付けられない感情(SIDEベアトリス)

*****SIDE ベアトリス




 夜に眠れなかったせいかしら。エリクと一緒に寝てたみたい。目を覚ました私に、彼はとても幸せそうに微笑んだ。整った顔が笑みに彩られると、美しい彫像のような印象が消えて、まるで天使の絵画のよう。


 この方なら誰もが愛する。自分勝手さも可愛い我が侭に見えるし、傲慢さは生まれ持った高貴さで打ち消された。魔女と呼ばれた私を、こんな素敵な場所へ連れてきて、着飾らせて微笑むなんて。少し変わってると思うけれど。いえ、趣味が悪いのかしら。


 ずっと趣味が悪いまま、私を見てくれたらいいのに。


「起きたんだね、トリシャ。まだ眠いなら休む?」


 何も言わないから、心配させてしまったみたい。ぐっすり眠ったみたいで、目覚めは良かった。これ以上眠ると、今度はまた夜に起きてる羽目になるわ。


「いいえ、起きます」


「ならソフィを呼ぶから待ってて」


 ベッドサイドのベルを鳴らし、ソフィを呼ぶ。その間に起き上がり、エリクは上着を羽織った。少し皺になったシャツも、上着を着れば分からない。緩めていた襟元を直し、エリクは先に立ち上がった。


「隣の部屋で待ってるよ」


「はい」


 続き部屋への扉を開けたエリクが姿を消すのと、ソフィが入ってくるのはほぼ同時だった。彼女はお湯やタオルを抱えていて、すぐに髪や化粧を直し始める。


「よくお休みになれましたか?」


「ええ。こんな時間に眠ってしまうなんて」


「旅の疲れでしょうから、眠れて良かったですわ」


 好意的に受け取ってくれるソフィに助けられながら、大急ぎで身嗜みを整えた。エリクに連れてこられた私は仕事がないけれど、皇帝陛下は仕事がたくさんあるわ。あまりお待たせして無駄な時間を使わせるのは悪いもの。それに人を待たせるのは好きじゃないわ。


 婚約者だったあの方はよく、私を呼びつけたのを忘れて出かけてしまわれた。王宮に着くと、いつも客間で待たされるだけ。夕暮れになって、屋敷に帰れば公爵様に叱られたわ。嫌なことを思い浮かべてしまい、きゅっと唇を噛んだ。


「あら、姫様。色がお気に召しませんか?」


「……姫様?」


 今まではベアトリス様じゃなかったかしら。首を傾げる私へ、ソフィが教えてくれた。この離宮で、私は姫様と呼称されるらしい。というのも、エリクが「僕以外がトリシャの名前を呼ぶなんて、不遜じゃない?」と言ったんですって。


「ほ、本当にそんなことを?」


「ええ。執事のニルス様からお伺いしたので間違いありませんわ」


 ソフィが教えてくれた話に、思わず口元が緩んでしまう。塗りにくいのに、ソフィは器用に紅の手直しを終えた。余計な手間をかけさせてしまったわ。


「ありがとう、ソフィ」


「行ってらっしゃいませ」


 彼女の仕事は私の世話だから、隣には別の役割を持った侍女がいる。続き扉の前でひとつ深呼吸して押した。開いた先で、エリクは微笑んで立ち上がる。広げた彼の腕に引き寄せられ、素直に身を預けた。


 私の世界を広げてくれたのは、エリク。優しく包んで、ここまで連れてきてくれた。これだけで本当に幸せなの。だから要らなくなったら捨てていいわ。恨んだりしない。今まで出会った誰より、あなたが大切だもの。この感情に名前を付けたら、欲が生まれるから……エリクの腕の中で音にせず散らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] とうとう名前もエリクだけのものに(≧∀≦) トリシャに欲が生まれたところも見てみたいです♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ