158.執事のいぬ間に悪戯を
戦いの采配はアレスに任せた。今頃あちこちの国が協力を申し出ている頃だろう。どこを連れていくのか、判断はアレス次第だね。僕の部屋の前を守るマルスを手招きした。
「マルスも出たい?」
「いえ。勅命はアレスが果たすでしょう。私は陛下の護衛を……」
「本音は?」
「俺に任せてくれれば良かったのに」
くすっと笑う。本音になると口調も昔に戻るね。でも君の場合、一人称が俺の方が似合うよ。前回マルスが出たから、今回はアレス。分かってても不満なんだろ。
「マルスは容赦しないからね。今回はアレスだけど、代わりにお茶に招待するよ。ソフィもニルスも呼ぶから、手配してくれる?」
「かしこまりました」
一瞬で騎士団長の仮面を被ったマルスを見送り、今頃策略を巡らせているだろうニルスを思い浮かべた。非道な刑罰は帝国の歴史で作られたものが多いけど、僕の手柄とされる作戦のほとんどはニルス発案だった。僕は許可を出して協力しただけ。
まあ、僕のアイディアとほとんど遜色ないけどね。各国の王族を踊らせて手玉に取る手法は見事だ。もう出生を知る親や親族もいないんだから、本当に王兄にしてしまおうか。
思い付いた途端に口元が緩む。知らない間に手配されていたら、きっと怒るんだろう。散々文句を言って、諦めた様子で渋々受け入れる。そんな結末まで見えた。
「急いで手配しなくちゃ」
「エリク、楽しそうですわね」
珍しくソフィは入室せず、マルスに何かを告げて一度離れる。トリシャを送ってきただけみたいだ。
「いいことを思いついたんだ、トリシャ。それよりソフィはどうしたの?」
「後でいいと言ったのですが、厨房の掃除に戻りました」
なるほど。汚れが気になる部分でもあったかな? でもソフィがいないのは好都合だね。この悪戯に、トリシャも巻き込んでしまおう。
「トリシャ、こちらへ。マルスも」
手招きして顔を突き合わせ、ニルスを僕の実兄とする作戦を披露する。少し考えた後、マルスが意外な指摘をした。
「それですと、ご両親の問題がありますね」
「なるほど。でも僕が皇帝の実子じゃなければいいわけでしょ?」
養子だったから両親は同じ。そう登録したら誰も覆せない。おかしいと思っても、他に相続権を持つ皇族はいないのだから、抗議する者も出ない。表向きは両親の公表は不要だし、国家機密扱いにして封印してしまおう。簡単そうに告げた僕へ、トリシャは頬を緩めた。
「エリクにとって、それだけニルスは大切な存在なのでしょう? でしたら私は義兄様ができるのは歓迎ですわ。ソフィは義姉様になるのね」
「そうか、それもいいね」
皇族4人として今後は僕やニルスの子が帝国を動かしていく。うん、悪くない。
「いっそアレスやマルスも兄弟になっちゃう?」
「遠慮いたします」
きっぱり言い切るなんて、失礼だな。口の中でもごもごと「恐ろしい」って言ったの、聞こえてるからね?




