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【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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134.ここで何をしている?

 離宮の一部改築手配と、増やす侍従達の選別が忙しい。宮殿に勤める時点である程度の調査は行われていた。身内に罪人がいれば入れない。しかし恋人となると話は別だった。勤めた後に、そのツテを利用しようと言い寄る悪人は多い。そのため、定期的に調査を入れていた。


 今回は数人が解雇され、代わりに新しく平民の侍女が入る。礼儀作法など最低限のマナーは叩き込まれているはずだけど……。


「ここで何をしている?」


 執務室の前にいるはずの騎士が不在なので、足音を忍ばせた。音をさせずに開いた扉の向こうで、侍女と睦み合う騎士を見つけて溜め息を吐く。口をついた声は冷え切っていた。


「陛下、ここは私にお任せください」


「片付けて」


 誘われたと言い訳する騎士が、双子に引きずられて退場する。ニルスが侍女長を呼び寄せる間に、僕は机の上の配置を確認した。書類を積まれた場所、筆箱の位置、印章が入る引き出し……目視で確認したあと、引き出しの中もチェックする。こういった場合、何らかの目的があって行動した可能性が高い。


 僕に何かの書類に署名させようと紛れ込ませたり、都合の悪い書類を処分しようと抜くことも考えられた。印章の朱肉が乾いていなければ、何かに押した可能性も出てくる。ペン先までしっかり確認し、僕は安堵の息をついた。移動した形跡も触れた様子もない。


「陛下っ、私……害をなすつもりはなくて。ただ、あの方に誘われたのです。私の身分では断れず」


「うるさい」


 遮って、処分を決めた。侍女長に預けて躾ける? 牢に入れて反省させる? そんなレベルじゃない。この部屋は皇帝の執務室、国の重要な決定を下す場所で盛るような雌に用はない。二度と目に入らないよう処分しろ――苛立った僕の声に身を震わせた女は、捨て身の懐柔に打って出た。


 はだけた侍女服をそのままに、僕の膝に縋りついたのだ。ぞっとした。僕を産んだ女を思い出す。皇帝の膝に縋り、だらしなく服をはだけ、男にしゃぶりつく姿が浮かんだ。あの女が皇帝の情けを受けて生まれたのが僕だと、そう認めたくない。


「陛下に触れるなっ!」


 叫んだニルスがひっぺがした時、ちくりと痛みが走る。膝に感じた痛みに眉を寄せ、引き摺り出される女の泣き喚く声が遠ざかった。吐き気に襲われ、ぐらりと倒れ込む。


「陛下っ!? 陛下、エリク様!!」


 崩れる呼び声を聞きながら、僕は目を閉じた。熱い、いや寒いのか? 温度の感覚も曖昧で、いろんな物音が体内で反響するようだ。自我が溶けていくような感覚に襲われ、必死で手を伸ばした。忘れてはいけない、忘れられない虹を持つ銀の光――トリシャ、僕は君だけでいい。だから僕の手から消えないでくれ。

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