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【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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128.噂は上書きが効果的なんだ

「陛下、お耳に入れたいことが」


 夜の執務を終えた僕に、ニルスが難しい顔で切り出した。ヨアキムの件に関する報告書は数日前に受け取ったし、何だろうね。手にしていたペンを片付け、筆入れに蓋を乗せた。光る貝の細工が施された木製の筆入れを、脇に避ける。


「ヨアキムの死体を盗みに来た賊の正体がわかりました」


 捕まえて隣に吊るしたんだったっけ。思いだしながら頷く。遮らずに先を聞く姿勢を見せた僕に、彼は不思議と言い淀んだ。悪い知らせみたいだね。


「悪い知らせ?」


「はい、ヨアキムの首は無事ですが、壁に吊るした肉が奪われました」


「は?」


 ヨアキムの首じゃなくて? 混乱しそうな状況を頭の中で整理する。ヨアキムは処刑され吊るされた。本人が望んだように皇族扱いでね。その死体を盗もうとした男達を吊るした。代わりに下ろしたヨアキムの首を足元に並べて……もちろん警備兵は配置している。その首じゃなくて上の死体を持ち去ったのか?


 あの壁に吊るした死体をどうやって!? ああ、そうじゃない。方法なんてどうでもいい。死体泥棒が何を狙っているかが重要だった。ヨアキムを奉じる連中の仕業じゃなかったのか。


「同時に城下町内で奇妙な噂が……その、新しい皇妃殿下が死体を好むため皇帝陛下が残虐の限りを尽くしておられる、と」


「ふーん」


 奇妙な現象だ。トリシャを貶めて皇妃の座から退かせたい連中は、調べれば山ほど浮かんで来るだろう。皇帝の妻はそれだけ魅力的な地位だ。未婚の令嬢を持つ王侯貴族を調べるだけでいい。噂なんてすぐに消せるけど、問題はそこじゃなかった。


 死体が消えたこと。ニルスが差し出したのは警備兵の勤務状況の報告だった。昨夜の当直は2人、近くの詰め所に5人がいた。大きな物音はなく、当直の1人はトイレに立った程度。もう1人は眠気に勝てず、居眠りをしたと自供した。


 大きな物音を立てずに死体を持ち去った方法は、検証する必要はなかった。ただ犯人を捕まえれば分かる話だ。口を割らせる方法なんていくらでもあった。


「噂と肉泥棒に、因果関係があると思う?」


「ないと思う理由がございません」


 ニルスはきっぱりと断言した。噂が出たタイミング、その内容、すべてが肉泥棒と関係している。死体を盗んだことで、その死体の行方が国民の口に上るはずだ。もしトリシャの噂を知っている者がいたら? 積極的に口にするのではないか。


「手を打つなら噂から、だね」


「噂を流したと思われる女達は調査しております。間もなく捕まえられますが、噂を増長する結果になると危険です」


「簡単さ、おしゃべりな女が消えた噂で上書きすればいい」


 悪い笑みを浮かべている自覚はあった。噂をばら撒いたのは女、つまりどこかの令嬢の侍女だった可能性がある。僕が命じて彼女らを吊るせば、噂は本当だったと肯定した形になった。だから逆を狙えばいい。噂なんて、よりインパクトのある新しい物で上書きするのが、もっとも効果的だった。


「承知いたしました」


 聡い執事はすでに気づいたらしい。余計なおしゃべりをした女達が、行方不明になればよかった。そこへ新しい噂を広げる――嘘を吐いた女は全員、神罰を受けたと。死体が見つからないのは嘘を広めた所為だ。迷信深い奴はもちろん、そうじゃない者も口を噤むだろう? 余計な噂を広げたら、自分も死ぬと思えば……誰しも己が一番大切なんだからね。

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