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【完結】彼女が魔女だって? 要らないなら僕が大切に愛するよ  作者: 綾雅(りょうが)今年は7冊!


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123.セリフを間違えてたよ

「アレス、セリフを間違えてたよ」


 くすくす笑いながら指摘した。真っ赤に汚れていく絨毯はいつも通り、深紅を選んで正解だ。玉座から立ち上がる僕とヨアキムの間に、アレスが立った。敵から目を離さぬまま、心配そうな声を出す。


「間違えましたか?」


「そう、あのパターンの場合は……確か」


「陛下の前で武器を抜くか! でしたね」


 穏やかにセリフを攫ったニルスが、ソフィを背に庇いながら口角を持ち上げた。そこには先ほど婚約者を奪われそうになって焦った男の名残はない。余裕綽々で侍従を振り返った。


「陛下の湯あみの準備をして」


 これが終わればトリシャのところへ行くから、先に湯の準備は大事だよね。本宮なら侍従が出入りできるけど、離宮の僕の自室だと侍女経由で準備することになるから、早めの手配はありがたかった。終わったら少しでも早くトリシャの隣で癒されたい。


「申し訳ございません。パターンが複数あったので、選択を焦りました」


 目の前でソフィに無礼を働いたから、咄嗟にそちらを選んだらしい。まあ大した問題じゃないから咎めなかったけど。ソフィに対して手を上げようとしたなら、先ほどのセリフが正しい。だが腕を掴んだくらいなら、僕の前で短剣を抜く方が事件だから、ニルスが選んだセリフが適切だった。


 他にもいくつか用意したんだよ? でも演技が苦手なアレスは、最低限の量にしたのにね。ソフィやニルスなんて、複数の状況に対応できるよう丸暗記だった。僕はこういうの、嫌いじゃない。


 足元で喚き続ける男を見下ろし、こてりと首を傾げた。


「何をそんなに騒いでるのさ。まだ首も足も繋がってるだろう? それとも……早く楽にして欲しいのかな。ああ、ソフィはもう帰っていいよ」


 残酷な場面は女性の目に毒だからね。知らない方がいい。知らなければ、トリシャに余計なことを口走る心配もないだろう? 穏やかに促すと、彼女は青ざめているもののしっかりした態度で一礼した。気配が遠ざかるのを感じながら、笑みを浮かべる。


 耳障りな叫び声だ。首を刎ねたら静かになるけど、本宮はいま使ってない。好きなだけ喚き散らし、涙でも血でも流したらいいよ。僕はね、慈悲深い皇帝になるつもりはない。表面上は装ってもいいけど、トリシャへの仮面でしかなかった。だから本質は残酷な子供のままだ。


「僕は今まで簡単に処刑し過ぎたと反省していてね。君が改心して反省し、従順になるまで待ってもいいと思ってる。安心してよ、時間は……そう、いくらでもある」


 頷いたアレスがヨアキムを引き摺って、ニルスが用意した椅子に縛りつけた。手首がないのにどうやって縛るのかと思ったら、腕に直接縄を通すみたいだ。無造作に剣で穴を空けて縄を捻じ込んだ。足も同じ方法で固定された。


 直後、アレスが一礼して許可を求める。


「陛下、御前を汚す許可をいただきたく」


「律儀だね、いいよ。任せる」


 アレスは深々と頭を下げた後、無造作にヨアキムの足首を切り落とした。転がる両足首から噴き出す血が、黒々と絨毯に染みを作る。


「それじゃ、反省したら呼んでくれる? 僕は湯浴みしてトリシャとお茶会の約束があるからね」


 書類が出来たら呼んでくれ。そんな気安い声をかけ、まだ絶叫をあげるヨアキムに微笑みかけた。どうせ見えていないだろうけどね。

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