111.忙しいのが楽しいわ(SIDEベアトリス)
*****SIDE ベアトリス
急に夕食が会食になったと連絡がありました。驚いたのが半分、不安が少し……残りは期待です。私は大賢者の娘として虐げられて来ました。エリクが舞踏会を開いてくれたので、淑女として参加する大きな集まりも無事こなせましたが。
本来は貴族ではないのです。公爵令嬢として躾ていただきましたが、それも完璧ではないかもしれません。私が立ち直るまで、エリクは時間をかけていいと言ってくれました。私が大切なのだと、その言葉にただ甘えるのは心苦しいのです。
たくさんの宝飾品を選び、私を着飾ることはお好きなのに……人前に出そうとしない。それは私がみっともなく、まだ実力不足だと思われているのではないかと。不安でした。
急な会食――きっと大切なお客様なのでしょう。その場に私を伴ってくださる。その決断が信頼のような気がして、嬉しさに頬が緩みました。
「嬉しそうですわね、姫様」
「ええ。エリクは私を接待役として選んでくれたんだもの」
その信頼に応えなくては! 迷ったけれど、ミントグリーンのドレスを選ぶ。品格を重視し、首までレースで覆われ、袖は肘の上まで。黒いレースが入ったショールで肩を隠せば、上着は不要でしょう。手袋を用意し、合わせて靴を選ぶ。時間が足りなくて忙しいのに、ソフィと笑い合ってしまったわ。
だって、こんな経験ないんだもの。今までは公爵家に用意されたものを着るだけで選ぶ権利はなくて、エリクは時間をたっぷり与えてくれた。だから忙しく選ぶ時間がなんだか楽しい。
「首飾りはどうなさいますか?」
「小さめのものをお願い。代わりに耳飾りを大きくしてバランスを取るわ」
「蒼玉でよろしいでしょうか」
並べられたのは、見事な蒼玉のお飾りセット。少し考えて、琥珀に手を伸ばした。
「こちらにしましょう。緑に映えるわ」
「かしこまりました。では髪飾りに緑柱石と蒼玉を使って仕上げます」
ひとつも蒼玉がないと、エリクの機嫌が悪くなるかも。私もそう思っていたので、ソフィの気遣いは素直に受けた。私が蒼玉を身につけなかったら、きっとあの人は拗ねるわ。そう思うと愛されていることを実感する。慌ただしく用意した一式をベッドの上に広げて、いくつか変更した。ショールは明るい山吹色にしましょう。でも琥珀より薄い色で、そうね……いっそクリーム色でもいいわ。
並べ直して頷き、すぐに準備に取り掛かる。だって、私の着替えを済ませないと、女公爵ソフィの準備が始められないもの。まだ日暮れも遠い時間から、私は浴室へ足を運んだ。髪を洗ってもらう間に、手際よく自分の身を洗う。いつもならソフィに任せるけど、今日はいいわよね。タオルで乾かしながら、ふと思いついた。
エリクにもミント色を身につけてもらったら、またお揃いになるわ。ソフィが着替えている間に、ミントグリーンのスカーフかハンカチを探してみましょう。




