第7話:キラキラ光るものになりたい。
「……あ、」
「…おう。」
入学式の次の日、まだ慣れない通学路を通り到着し、上履きに変えるため靴箱に行った。
自分のクラスの所に行くと、そこには最近お世話になった人が。
「久しぶり…、かな。おはよう、尚志くん。」
「…はよ、同じクラスだったのか。」
「そーみたい。…改めて、これからよろしくね。」
「おう。…、あと君付けいらねー。」
「…そう?あ、名字の方がよかった?穂波ちゃんは今いないし…。」
デパートでお世話になり約一週間、あの時のご恩は忘れてないよ。
穂波ちゃんと喋る時、名字で呼ばなかったけど、最近の中学生は気にするかな?と聞いてみるとなんとも淡白な答えが。
「別に名前でも変わんねぇよ。」
「そ?あ、ナオって呼んでいい?私の事も好きに呼んで。」
「おう。…あー、穂波がまた会いてぇってさ。」
「ほんと?嬉しいな。」
名前呼びが許可されたのでこれからも使わせてもらおう。
田舎で暮らしていた時はみんな名前呼びが普通だったから、慣れている方が楽だもんね。
「あれ、悠妃?…と、?」
「杏里…、」
靴箱から教室に並んで行こうと一歩踏み出すと後ろから話しかけられた。
その声の持ち主は昨日から友人になった杏里だった。
「田辺尚志くん、同じクラスだよ。」
「よろしく、」
「あ、うん!私は佐々本杏里です、よろしく。」
杏里はもちろんだけど、やっぱりまだ始まったばかりのクラスの人は把握できないから、わたしから紹介。
まだそんなに仲良くなってないから変な感じ。
「ナオ、今日の予定ってなんだっけ?」
「あー?…オリエンテーションじゃなかったか?」
「うん、そうだよー。あと部活紹介も!」
私がナオ呼びしたら杏里は少しビックリしていたけどすぐに立ち直り、部活紹介があると目を輝かせていた。
「部活紹介かー。」
「悠妃何に入る?あ、えーっと…」
「…好きに呼んでいい。俺はバレー部だな。」
「!うん!…尚志くんはバレー部?経験者?」
「おう、ガキの頃からな。」
部活紹介…、今回は何やろうかな。
あの頃は部活をするのは面倒だと中学のころから無所属だったなぁ。
……いやいやいや、今回は青春するんだから!
どうしようかな、キラキラしてるのとかかなぁ。
あ、それなら運動部?でもあんまり日焼けはしたくないから室内系かなぁ。
「…悠妃?」
「……ん、なに?」
「またぼーっとしてたでしょう?」
「…してないよ。」
「してたっつの。」
気づいたら二人から顔を見られていた。
そんなによく私はぼーっとしてるかなぁ。
「…それで、何の話?」
「部活の話よ!悠妃はどうするの?」
「んー…まだ考えてないなぁ。部活紹介で決めるよ。」
「そうか。」
そんなこんな話していると教室についた。
「あれ、尚志。お前なに女の子二人もはべらかしてん…っで!」
「馬鹿かお前は。」
着いた途端目が合った男の子は少し…チャラい人。
尚志とじゃれあって(?)るから多分お友達だよね。
「おはよう」
「おー、オハヨ。…だれ?」
「神田悠妃。」
「ふんふん。俺は本郷柊馬。よろしく悠妃チャン。」
「よろしく、柊馬。」
「……なに意気投合してんだよ…。」
「あはは…。」
何となく会話をしただけですが?
軽いけど面白いわね、柊馬。
「お前たちー、廊下並べー!今から講堂だ!」
少し熱血気味な担任の下村清志先生もとい、キヨちゃんに促され適当に並ぶ。
近くにはさっき仲良くなった三人と。
先生がフレンドリーだからもうあだ名できちゃってるよ。
もう少し威厳ないの、お父さんの方が何倍、…いや何十倍もあるよ。
これから講堂で行われるのは簡単に言えばオリエンテーション。
これからの学校生活についての注意事項や校長先生の話や進路部の話に…etc。
それが終わればみんなが待ちに待った部活紹介。
さっきまで眠そうだったみんなは今か今かと目を輝かせていた。
……私は寝てなかったよ、うん。ちょっと意識が飛んでただけだよ。
「部活紹介を始める。」
司会の先生の声で始まった部活紹介。
次々にいろんな部活がステージに立ち、普段何をしているか、どんな成績を収めたか、あとは実践。
どの部活もキラキラしていて、これが青春だと教えてくれているみたい。
ほわーっと見ていたら隣から小さい声が。
「…悠妃のテンションあがってる…」
聞こえてるからね、杏里。私は別にいつもテンション高いから。
ただ表情筋が仕事してないだけで。
「次はダンス部です。」
ドンッと講堂中に響き、始まるアップテンポの音楽とステージの上でキレのあるダンスを踊る人達。
空気が一瞬で変わった。
会場中がわーっと歓声を上げる中、私はただただパフォーマンスを見続けた。
心の中に強く衝撃を受けた気がした。
「悠妃?」
「…あ、…なに?」
杏里との帰宅中も先ほどの部活紹介のことを考えていた。
何かをやろうと決めていたけどほとんど覚えてない。
一気に会場の雰囲気を変えた迫力のあるダンス以外は。
踊っている人のキレの良さ、表現の上手さ。
なにより瞳に宿っていた意思の強さ。
私の気持ちは一気に持っていかれてしまっていた。
かといって私はダンスをすることが出来るだろうか。
もともと運動神経は悪くないけど、特別いいほうでもない。
唯一過去に戻ってきてから始めたストレッチのおかげで体は軟らかいし、美容にも姉のおかげで気をつけている。
私はちゃんとやり続けられるだろうか。
いま、とてもやりたくて仕方なくても、何年かしたらもうやる事さえ苦痛になったりしないだろうか。
前回のような意気地なしになるつもりはない。
途中で辞めるつもりもない。
だけど、本当に?
さっきからその事がぐるぐる私の頭の中を回っていた。
「部活、どうする?」
「…一応興味はあるのを見つけたんだけど…。私に出来るかどうか…。…杏里は?」
「え、私?…私はね…、ダンス部にしようかなって。」
「…え?」
杏里は今俯いていて表情は伺えない。
けれど言葉の強さはわかるし、少し緊張しているのも伝わってきた。
「…悠妃も、一緒に入らない?」
「え、」
「む、無理強いはしないよ!気になってる部活もあるみたいだし。…ただ、一緒なら嬉しいなって。」
「…杏里はどうしてダンス部にするの?」
勝手な妄想だけど、杏里は文化部にするものだと思っていた。
なんでか、って言われたらすぐには出てこないけどなんとなく。
「…キラキラだった。」
「………え?」
「ダンス部、とてもキラキラしてたでしょ?…私は変わりたいの。キラキラになってカッコよく…。」
そう言う杏里はただただ前を向いていて、とても力強く感じた。
別に、杏里が一緒だからじゃないけど。
杏里の理由が私に似ていたからとかでもないけど。
杏里の答えで決心がついたのは確かだった。
「私もダンス部にする。」
「え、」
「これからもよろしくね。」
「!うん!」
私はあの頃みたくならずに、青春してやるんだから。
こんなことでうじうじ考えてる暇はない。
やれるか、やれないかではない。
やるか、やらないかなんだから。
とりあえず家族に相談…というかお願いしてみよう。
「いいんじゃない?」
「…あっさりだね。」
家に着くとお母さんがキッチンで晩ご飯を作っていた。
私は部屋着に着替えていつも通りエプロンを着て手伝う。
神田家には料理ができるのは私と兄、もちろんお母さんしかいなくて、手伝うのはもっぱら私くらいだ。
兄は帰りが遅いから。
手伝いながら今日の話をしていて、そのまま部活について話してみた。
結構緊張したんだけど、あっさり同意が得られた。
「悠妃がやりたいのなら反対しないわ。…思いっきりやりなさい。」
「…うん、ありがとう。」
心強い言葉は、私の決心を確固たるものにした。
《オマケ》呼び方を変えた兄と姉の反応
「兄さん、姉さん」
「「……………………………え?」」
「これからそう呼ぶから。」
「悠妃?きゅ、急にどうしたの?」
「そうだ、別に今のままでも…」
「だって私はもう中学生だもの。…だめ?」
「いや、ダメじゃないが…。」
「少しさみしいわ…。」
「……まぁ慣れてよね。呼び方を変えるくらいだから他は変わんないわ。」
「「…!悠妃!!」」




