2.視察命令
「研究所の視察ですか?」
父である国王に呼び出され、執務室を訪ねると、要件は研究所の視察を頼みたいとのことだった。
父自ら資料を手渡される。
「そうだ。昨年から始動させている医療に関する研究所だ。」
資料にさっと目を通すと、医学・薬学を含めた複合的な研究所で以前、王宮内の侍医をしていたものが管理者となっており、若手の教育をしているようだった。
「昨年から始動させているが、まだまだ身になる研究も多くないだろう。こういう分野は10年、20年先を目指して投資するものだからな。若手が多いこともあって、わかっていても、なかなか我慢ならないという輩もでているとの報告がきている。お前に行ってもらって士気を上げてきてもらいたい。」
若手が多いということだから、同じく、若手である僕を、といったことらしい。
「それに…王太后が療養している場所でもあるから見舞いがてら顔を出してこい。」
父の発言を聞いて、資料を見ていた目線を父の方に向ける。
(おばあ様のところに顔をだしてこいってことは、また、結婚をせっつかれてこいってことか!)
「見舞いがてらって…。僕におばあ様のお小言の相手をせよと言われるのですが?」
(エドに毎日、耳にたこができるぐらいせっつかれているのに、さらにおばあ様の相手もせよと?)
おもわず愚痴がでた。
「小言を言われるようなネタを持っている方が悪いのではないかな?」
ニヤッと悪い笑みを浮かべて言う父をみて、敵は身内にあり、ということわざを思い出した。
「まあ、ともかく、馬で3時間ほどの距離だ。王太后が療養されている場所だから警備にそんなに手をいれなくても大丈夫だろう。準備にはどの程度かかる?」
最後の言葉は僕の後ろにひかえているアーサーに向けられたものだ。
「騎士団長と相談となりますが…1週間程度お時間をいただければ可能だと思います。また、報告いたします。」
「わかった。まあ、1週間ほど滞在して様子を見てこい。その間、毎日温泉に入れるんだぞ。いい休暇だと思って、楽しんで来い。」
「……。…はい。」
(いい休暇か…言葉通りの意味だけならいいのに…。)
これからのことを考えると…見つかるとからかいのネタになることは見えていたので、こっそりため息をついた。
この時は知る由もなかったけれど…
この視察で、僕は運命の相手と出会うことになる。
元気で、言いたいことを言う。
強気に出ることが多いくせに、弱いところもある。
頑固で自分の決めたことは意地でも曲げない。
地面にしっかり根を張って。
踏まれても負けない強さを持っているくせに、ふわっと綿毛のように飛んで行ってしまう儚さをあわせもっている。
たんぽぽみたいな彼女と。




