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94話─交わらぬ正邪の夢

 ところ変わって、暗域……コーネリアスの居城。久しぶりに故郷の景色を見たいとシャーロットが所望したため、地上拠点の方の城にて親子仲良く食事を楽しんでいた。


「のう、シャーロットや」


「なんでしょう、お父様」


「お主、ユウと婚約してみるつもりはないかえ?」


「ぶふーーーーっ!!!」


 メインディッシュを食べ終え、デザートが来るまでの間水を飲もうとしていたシャーロット。そんな彼女に、コーネリアスは凄まじい爆弾発言を叩き付ける。


 思わず水を吹き出してしまったシャーロットだったが、綺麗な弧を描く水はコーネリアスが呼び出した小型の魔法ゲートを通り亜空間へと消えていった。


「ヴェホ、ゲェッホ! オ゛え゛っ゛! やめてくださいよお父様、水が変なところに入ってしまっ……ゲホゴホ」


「ホッホッホッ、それくらいで動揺するとはまだまだ修練が足りんぞよ。それでじゃ、お主ユウのことはどう思っておる? ん? それとも、好いた男の一人や二人出来たかえ?」


「いえ、まだそんな……。しかし、いきなり何故そんなことを?」


「それはのう……テレジア、済まぬが人払いの結界を頼む」


「うん、お任せさ。それっ!」


 ゲホゴホ咳き込んでいたシャーロットは、しばらくして落ち着きを取り戻した。父に問うと、コーネリアスは同席していた妻に頼み魔法結界で食堂を包み込む。


「実はのう。わしはとある計画を進めておるのじゃ。シャーロットよ、わしの出自は知っておろう?」


「ええ、もちろんです。お父様は神と闇の眷属、双方の……まさか!?」


「そう。コリンくんは増やすつもりなのさ。自分と同じ半神(デミゴッド)をね」


 父母の言葉に、シャーロットは息を呑む。本来、神と闇の眷属の間に子を授かる可能性はほぼ無いに等しいほど低い。コーネリアスはその例外、基底時間軸世界の住人としては唯一の半神(デミゴッド)なのだ。


「うむ。わしはのう、シャーロットや。神々や大地の民と闇の眷属の恒久的な和平を実現したいと思うておる。その第一歩が、新たなる種族になりうる半神半魔の存在を増やすことなのじゃ」


「そうやって神と闇の眷属の垣根を少しずつ減らして、いつかは全ての種族が共存出来る世界を創る。それがコリンくんの思い描く夢なのさ。実に壮大で心躍るだろう?」


「た、確かに実現出来れば素晴らしい世界になると思いますが……私とユウくんに何の関係が?」


 初めて聞かされた、父の描く壮大な夢。その話を聞き、シャーロットは問う。自分たちと何の関係があるのか、と。


「うむ、お主は神の力を継いではおらず、その血も限りなく薄い。されど、もっとも限りなく半神(デミゴッド)に近い存在じゃ」


『そーこーでー、シショーはリオくんと相談したの。ごく薄いとはいえ神の血が流れてるんだから、もしかしたら魔神の子を産めるかもしれないって』


「な、なるほど? 確かに、理屈の上ではそうですが……」


「無理強いはせぬ、お主にはお主の人生があるでな。されど、お主がもしユウのことを好いておるのなら……交際するついででよい、わしの夢に協力してはもらえぬか?」


 大地の民からの成り上がりであるリオたちベルドールの魔神とであれば、種の垣根を超え新たな命を宿すことが出来るかもしれないとコーネリアスとリオは考えた。


 そこで、本人たちに確認を取り互いに好意を抱いているならば是非婚約を結んでもらおうと考えたのだ。勿論、本人たちがノーと言えば計画は白紙に戻すつもりだ。


『でさでさー、実際どうなのー? シャロちゃんはあの狐っ子好きなのー?』


「こらアニエス、あんまり根掘り葉掘り聞くものじゃないよ。……と言いたいところだけれど、私も母として興味がある。シャロ、君の想いを聞かせてほしいな」


「私……私は……そうですね、ユウくんをとても好ましい人物だと思っています。もっとも、今はまだ恋愛的な感情での『好き』ではありませんが」


 母とその妹に問われ、シャーロットはそう口にする。初めて会ったその日から、ユウへの好意を少しずつ形作っていった。だが、それはまだ恋愛感情にはなっていない。


 ユウはあくまで共に戦う友として、敬意を払い好ましく思う存在なのだ。今のシャーロットにとっては。


「ふむ。嫌ってはおらぬのじゃな、なら安心した。であれば、とりあえずは様子見かの。わしもリオも無理強いはせぬ、全てはお主とユウの心次第じゃからな」


「お父様……。今回のお話、前向きに考えてみます。少なくとも、私のユウくんへの好意は本物です。いつか、この想いが愛へ昇華されたら……その時は、計画に力を貸すかもしれません」


「うむ、気長に待っておるよ。……済まんのう、お主らをわしの夢に利用するような物言いをしてしまった。平和を実現するためとはいえ、親として相応しくないのう……」


「いいんです、こうやって話し合って私の意思を尊重してくれる。なら、それはただの家族会議。決してお父様が私をないがしろにしていることにはなりませんから」


 もし、ユウと恋に落ちる日が来たら。きっと二人揃って、コーネリアスの計画に力を貸すだろうとシャーロットは内心考えていた。


 謝る父に言葉をかけながら、彼女は夢想する。果たして、自分とユウの間にはどんな子どもが生まれるのだろうか、と。



◇─────────────────────◇



『……めよ。目覚めるのだ、北条魔夜。お前はまだここで滅びる運命(さだめ)ではない。さあ、目を開けるのだ』


『う……ここ、は……?』


 同時刻、どこかの並行世界にある次元の挾間にて。死刑執行によって命を落とした魔夜は、渡りの六魔星の一人ネイシアの手で転生を果たそうとしていた。


『お前は誰だ? 私は死んだはずよ、あの忌々しい刑務官どもに死刑にされて』


『そんなお前を救ったのだよ。このわらわ……【輪廻星】のネイシアがな。新たな肉体を与え、転生させるために』


『……夢、ではなさそうね。それで? ネイシアと言ったわね、何故私を転生させようとしているのかしら?』


『なに、簡単なこと。お前が産み落としてしまった前世の汚点を、完全に消し去るための手助けをしてやろうと思ってな』


 魂だけの状態となっている魔夜は、ビクリと震える。前世における唯一の汚点。彼女にとって、それはユウをおいて他にはいない。


 ネイシアからユウが先んじて転生しクァン=ネイドラという大地で暮らしていること、自分の野望の邪魔をする目障りな存在であることを聞かせる。


『どうだ、生まれ変わった自分の手で過去を清算したくはないか? わらわならその手助けが出来る。お前の』


『したい、したいわ! するに決まってるでしょ、あの生ゴミのせいで私の人生は狂ったんだから! どこにいるのか教えなさい、すぐに殺してくるから!』


『ホホホ、威勢のいいことだ。ならばお前に与えよう、これより転生する世界のあらゆる知識。そして、わらわからの祝福たるチート能力と新たなる肉体を!』


 ユウへの殺意をギラギラと滾らせ、抹殺に乗り気な魔夜を見て上機嫌になるネイシア。彼女はすでに、ユウに変わる魔魂片の器となる存在を見つけていた。


 器として制御が出来ないユウにこだわる理由が無くなった以上、少年を抹殺して魔魂片ヴィトラを取り戻すのが目下の使命。その遂行役として白羽の矢を立てたのが魔夜であった。


『素晴らしい働きに期待しているぞ、魔夜。わらわが送ってやろう、現地にいる我が信望者たちと合流し必ずやユウを滅ぼすのだ!』


『フン、言われなくてもやってやるわ。タダじゃ死なせない、この世にある苦痛の全てを味わわせて気が済むまでいたぶってから殺してやる!』


 いっそ清々しいまでの逆恨みの言葉を吐き散らし、魔夜は新たな身体に受肉し基底時間軸世界へ続くウォーカーの門へとその身を躍らせる。


 ユウを取り巻く環境は、ゆっくりと……そして確実に変わり始めていた。いい方向にも、悪い方向にも。その行く末は、果たして……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新気づかずメンゴだが(◡ω◡) 前半は微笑ましい父娘の明るい未来の話、後半は腐り果てた外道の恨み節か(ʘᗩʘ’) しかし母親だけで腐れ外道なら父親は?(?・・) こんなイカレ女に操立て…
[一言] やれるものならやってみろよ。やれるものならな!!!
[一言] 狂ったのは元より自業自得だろうに・・・やはりクズは〇んでもクズか。他責思考に走って体の良い歯車にされるとは、やはり器が小さいな。
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