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93話─変わりはじめるカンケイ

 クリート王子らと別れてから、一ヶ月が経過した。その間、ユウたちはのんびりとリンカーナイツ狩りに勤しんでいた。悟が倒れ、トップナイトは残り四人。


 いずれ相まみえることになる強敵たちへの備えに、日々の鍛錬も欠かさず。そんなある日、シャーロットとブリギットが里帰りすることになった。


『いっちゃいましたねー、シャロさんたち。お土産、何持ってきてくれるでしょうか』


「なんだろなぁ、シャーロットはともかくブリギットはぜってぇトンチキなもん持ってくるぜ、きっと」


「さあ、ねえ。こういうのは、ああだこうだ言っている間が一番楽しいのさ」


 残ったユウたちは、もはや完全なシェアハウス状態になっているシャーロットの部屋にて談笑していた。お土産に何を持ってくるかを話しているなか……。


「おー、今日もいい天気だな。こんな気持ちのいい日はどっか出掛けなきゃ損だ。っつーことで、ユウ。デートしようぜ、デート」


『デート……遊びに行くってことですか?』


「おや、珍しいね。君がそういう言い方をするとは」


「まあ、その、なんだ。……ちっとくらいよ、ユウを労ってやりてぇんだわ。エレインの仇を討てたのは、ユウのおかげだしさ」


「ふふ、なら行ってくるといいさ。私はまだ剣の道を究める道半ば……色恋であれこれする権利はまだないからね」


 突然、チェルシーがユウをデートに誘う。顔が若干赤くなっているのに気付き、()()()()()()だと理解したミサキはからかうようにそう口にする。


 鍛錬に行くと口にし、ソファから立ち上がって玄関に向かう途中。チェルシーの横を通り過ぎる際、ユウに聞こえないよう念話で話しかけた。


『応援しているよ、充実したデートになるのを祈ってる』


『おう、ありがとな。稽古気を付けろよ』


『勿論、抜かりはないさ。じゃ、行ってくるよ』


 そんなこんなで、ミサキが外出した後チェルシーはユウを伴いパラディオンアパートを出る。ニムテの町を一通り回り、ウィンドウショッピングをする二人。


『あ、この服屋さん新しい帽子が並んでますよ』


「ホントだ、毛糸の帽子か……。今のうちに買うか? もうすぐ寒い季節になるし」


『そうですね、もこもこあったかそうですし……試着していい被り心地なら買っちゃいます!』


 しばらく買い物を楽しんだ後、二人はカフェでおやつタイムに入る。運ばれてきたパフェをユウがむしゃむしゃするなか、チェルシーは落ち着かなさそうに指でテーブルを叩いていた。


『あぐあぐ……。チェルシーさん? どうしたんですか? パフェ食べないとアイス溶けちゃいますよ?』


「ん、あ、ああ……。なあ、ユウ。食べながらでいいから聞いてくれ。アタシさ……好きな人が出来たんだ」


『うえっ!? そ、そうなんですか!? チェルシーさんもパパたちみたいにらぶらぶする時が来たんですね!?』


「……そう、だな。そうなるかな、告白を受け入れてもらえりゃあよ」


 びっくりしてスプーンを落としそうになりつつ、ユウはぶんぶん尻尾を振る。そんな少年を見ながら、チェルシーはこれまでにない真剣な表情を浮かべた。


「そいつはさ。いつも前を向いて、努力を怠ることがなくて。一度決めた目標に向かって突き進む強さがあって、それでいて誰よりも優しいんだ。そんな奴にさ、惚れるなってのが無理な話だろ?」


『むむむ、確かにそうですね。そんな素敵な人なら、チェルシーさんを幸せにしてくれますよ! ……ところで、その人って誰です?』


「今アタシの目の前にいるさ。ユウ、アタシは……お前が好きだ。単なるライクじゃない、ラブの方でな」


『おー、なるほ……えええええ!? ぼ、ぼぼぼぼボクなんですか!?』


 自分が告白されるとはまるで思っていなかったユウは、驚きすぎて危うくパフェをひっくり返してしまうところであった。そんな少年を見て、チェルシーは思わず笑う。


「ぷ、くははっ! すげぇ驚きっぷりだな、え? そんなに意外かよ?」


『そりゃそうですよ、だってボク……まだこんな子どもなんですよ?』


「愛に子どもだの大人だのは関係ねえよ。アタシはさ、ユウのいろんな部分に惹かれたんだ。強いとこ、優しいとこ、ひたむきなとこ。全部が好きなんだって、気付いたのさ」


『チェルシーさん……』


「いつからだろうな。エレインの仇討ちに力を貸してくれたことへの感謝が、好きの気持ちに変わったのは。……へっ、いけねえな。アタシらしくもねえ、こんなヘナヘナしてんのはよ」


 これまでずっと共に過ごしてきた仲間だからこそ、ユウはチェルシーが本気なのだということを理解した。彼女からの好意は、驚きこそあれ嬉しいものだった。


 だが、まだ幼いユウにはその好意の全てをすぐに受け止めることは出来ない。恋愛をするには、まだまだ精神が成熟しきっていないのだ。


『あの、チェルシーさん。チェルシーさんがボクを好きだって言ってくれるの、凄く嬉しいです。でも……』


「いいんだ、今すぐ返事をくれなんて言わねえよ。じっくり考えてからでいい。今日はアタシの気持ちを知ってほしかったってだけだからさ」


『……分かりました。いつか、チェルシーさんにお返事します』


「おう、気長に待ってるぜ。さて、溶けきらねえうちに食べちまうかなパフェを」


 ユウなりにチェルシーの気持ちを受け止め、いつか返事をすると約束する。そんな彼は、まだ知らない。少年を取り巻く関係図が、少しずつ変化しようとしていることを。



◇─────────────────────◇



「イッショーのお願いデスマス! ゆーゆーをお婿さんに欲しいのデス! どーかお許しくださいなのデス!」


「わ、どーしたのブリギットちゃん。いきなり土下座なんかして」


「妾たちを呼んだと思ったら……ふぅん、なるほど。ファティマの弟子も色を知る時期が来たというわけじゃな。ちといろいろ段階をすっ飛ばしすぎておるが」


 一方その頃、魔神たちの大地キュリア=サンクタラムに里帰りしたブリギットは……リオの妻たちを集め、土下座をかましていた。突然のことに、みな困惑している。


「ワタシはずっとゆーゆーと過ごしてキマしたデス。最初は、おシショー様から与えられたゆーゆーを守るという使命を果たすことしか考えてませんでシタ……」


「でも、そんな中でユウへの愛が少しずつ芽生えていった。そういうわけなんだろう? ふふ、ほほ笑ましいねぇ。そう思わないかい? カレン」


「なんでアタイに振んだよ、そういうのから一番遠い存在だろ……。ま、気持ちは分かるぜ。なんだかんだでアタイもそんな風にリオを好きになったクチだし」


「おお、分かってくれるデスか! そうなんデスよ、ゆーゆーと一緒に過ごすうちに使命とか関係ナシに……守ってあげたい、ずっと側にいたい! そんな気持ちになったのデス!」


 グランゼレイド城の中庭にあるテラスで、ひたすら土下座するブリギット。彼女もまた、ユウへの強い愛を抱く者の一人。アイージャたちの視線は、ファティマへと注がれる。


「……なるほど。ブリギット、貴女のユウへの想いは理解しました。ですが、いきなり結婚など認められませんね。まだユウがいくつなのか考えてみなさい」


「アウ……ごめんなさいデス、おシショー様」


「しかし、貴女がユウと交際しその末に。互いに愛を確かめ合い、婚姻を結ぶに足る存在だと認め合えた時には。ユウとの結婚を許可することもやぶさかではありません」


「許可は確定じゃないんだ……」


「当然です、ミセス・クイナ。わたくしの査定は厳しいのです。特にユウに関わる事柄については」


 ブリギットもまた、ユウに惹かれた者の一人。そんな彼女が最初に行ったのは、本人への告白ではなく母親たちへの交際……もとい結婚許可取りだった。


「ムムム……分かりまシタ、ならおシショー様含めて全員納得させてみせるデスマス! ワタシの覚悟を」


「おや、言いましたね。ではまずテストをしましょう、二十四時間耐久花嫁修業コースから始めましょうか」


「エッ」


「うむ、ユウの嫁になりたくばあらゆる家事を完璧にこなせねばならぬ。出来ぬのであれば、出来るようになるまで修行してもらうだけじゃな」


「血反吐を吐いても命が尽きても、私たちが合格にするまで終わらないよ? さ、すぐにやろうか」


 ブリギットの真摯な態度を受け、ファティマは告げる。嫁になりたくば女子力を磨け、と。そんな彼女に乗っかり、アイージャとダンスレイルが追い打ちをかける。


「ちょ、ちょっと待つデ」


「よーし、頑張ろうねブリギットちゃん! 大丈夫、わたしもやれたんだもん! ブリギットちゃんも出来るよ! ね?」


「まあ、あれだな。道のりは険しいぞ、頑張れ。骨……いや、歯車の一つくらいは拾ってやるよ」


「オホホホ、実に腕が鳴りますわ! わたくしが直々に」


「エリザベートが絡むと修行が脱線しまくるから押し入れに仕舞っちゃおうねー」


「すわああああああ!?」


 レケレスに激励され、カレンに優しい視線を向けられ。ブリギットは冷や汗を流す。これからしばらく、地獄の日々が始まることになると。


 クイナがエリザベートを担いで退場するなか、ブリギットは生きて帰れないかもしれない……そんなことを考えていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] これからヤバイのが来るのにコイツ等は(ʘᗩʘ’) それで?(͡°ᴥ͡°ʋ)触れず終いの姉にもなれず嫁にもなってない保護者役はどうした(⌐■-■)
[一言] エリザベート・・・相変わらずのネタ枠。最初の頃のテンプレ高飛車お嬢様だった頃が懐かしいよ。今じゃ自分の黒歴史にしてそうだけど。
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