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90話─陽落ちて、やがて月昇る

「お前たちがどれだけ足掻こウト! アタシを倒すことなんで不可能なノヨ! 食らいなさい、ヘルフレアストーム!」


『なんのこれしき! チェンジ!』


【ブレイクモード】


『それっ! ナインフォールディバスター!』


 影人間にされた悟がチェルシーに襲いかかり、ユウと連携出来ないよう分断する。その直後、ベルメザはユウ目掛けて黒い熱線を放つ。


 それに対抗し、ユウは素早くブレイクマガジンを装填する。ベルメザの放つ極大の熱線を押し返すべく、必殺の魔導レーザーで反撃を行う。


 一方、チェルシーの方は……。


「おい、悟! アタシの声が聞こえてるんだろ、なあ! お前、このままでいいのかよ! あいつに操られっぱなしで!」


「ウ、アア、アアア……」


 鋭いかぎ爪を生やした悟の影と戦いつつ、必死に呼びかけていた。きっとまだ、ほんの僅かながら自我が残っているはずだと。ならばきっと、声が……想いが届くはずだと。


「お前もあの時聞いただろ!? お前と恋人の運命を狂わせたのは、すぐ側にいるあの羽野郎だって! 悔しくねえのか!? 真の敵を倒して、恋人の仇を討ちたくねえのかよ!」


「フン、ムダよ! どれだけ叫んだって、アタシの影人間には何も届かないし響かナイ。お前は……むうっ!」


『ゴチャゴチャうるさいんですよ! ボクはお前みたいな奴が大嫌いです! 平然と人を踏みにじって、上から見下ろして神様を気取る……そんな奴に人生を壊された人たちが! どれだけ悲しいか、悔しいか! お前には分かりますか!?』


 必死に呼びかけるチェルシーに、ベルメザが嘲りの言葉をかける。が、その直後。熱線を相殺したユウが突撃し、ベルメザの下顎にゼロ距離射撃を叩き込む。


 前世での母のように、誰かの人生を弄び、壊し、そうして愉悦に浸る。傍若無人なベルメザに誰よりも強い怒りを抱いているのは、他ならぬユウだった。


「ああ……そうだ、そうだよなユウ。おい、聞こえたろ悟。お前にもし、黒太陽の呪縛を断ち切る力が僅かにでもあるなら! 今ここで決着をつけろ! 自分の運命に!」


「オ、オオ……ウン、メイ……。オレノ、オレの……俺の、運命……!!! う、おおおおおおお!!!」


 怒りの咆哮をあげるユウ、そしてチェルシーの魂の叫び。それらを受け、影として取り込まれていた悟は取り戻した。自我を、想いを。そして……自身と恋人の運命を狂わせた、ベルメザへの怒りを。


「そんな!? あり得なイワ、完全に自我を取り戻すなんてコト!」


「ああ、普通はな。でも……俺は戻ってこれた。あいつらのおかげで、俺は! 愛菜の仇を討つために!」


「フン、出来損ないが調子に乗るんじゃないワヨ! 全員纏めて焼き尽くし、影から残らないよう消し去ってあゲル! ブラックソル・カタストロ……」


「残念、上を見なさい! お前の自慢の黒太陽は、私たちが凍らせてやったわ!」


 黒い影から、生前の姿へと戻ることが出来た悟。ベルメザの支配から脱し、真の仇であるかつての師を睨む。そんな彼を嘲い、奥義を放とうとするベルメザ。


 が、それを遮るようにシャーロットが勝ち誇った声を放つ。ベルメザが見上げると、そこには……ミサイルによって完全に凍結し、機能停止した黒太陽があった。


「そ、そんなバカな!? あり得るはずがなイワ、アタシの黒太陽は無敵なノヨ! あんな薄っぺらい冷気、魔力を送り込めば」


「させるか! ベルメザ、もうテメェの好きにはさせねえ! 俺と一緒に地獄に落ちろ!」


「キャッ! このっ、離しなサイ!」


 ベルメザは熱波を全身から放出してユウたちを遠ざけつつ、黒太陽を再起動しようとする。が、影となった悟には熱波は効かない。悟はベルメザに走り寄り、羽交い締めにして動きを封じた。


「離さねえ。絶対に離さねえぞ! チェルシー! 俺ごとこいつを殺せ! こいつが死ねば俺も消滅する、だから気にするな! 引導を渡せ……頼む!」


「このっ……!」


「ああ、お前の覚悟……受け取ったぜ。全てをここで! 終わらせる!」


【レボリューションブラッド】


「うおおおおおお!!」


『チェルシーさん、ボクが援護します! そのまま突っ走ってください! チェンジ!』


【メディックモード】


『行きますよ、ヒーリングシューター!』


 マジンフォンを操作し、血を覚醒させたチェルシーは動けないベルメザ目掛けて走って行く。その後ろからは、ユウが治癒の弾丸を連射して援護をしている。


 熱波によって傷付いても、即座に緑色の弾丸によって癒えていく。チェルシーが目を見開いた瞬間、ベルメザの目の前に巨大な杭が現れた。


「こいつでトドメだ! タイタンズハンマー!」


「チィッ! そうは……いかないのヨォォォォォ!!!」


「! こいつ、翼で防ぎやがった!」


 大きく身を捻り、最後の踏み込みと同時に身体ごとハンマーをスイングする。杭をベルメザ……そして、彼を捕まえている悟諸共打ち付けようとする。


 だが、その寸前で差し込まれたベルメザの翼によって杭は押しとどめられてしまう。火事場の馬鹿力とでも言うべき、剛力によってそれ以上進まない。


「まずいね、私たちも援護に」


「いいえ、大丈夫よミサキ。チェルシー一人なら貫けないけど、彼女は一人じゃない。ユウくんが側にいる!」


 下に降り、加勢しようとするミサキをシャーロットが制止する。彼女は決めていた。トドメを刺すのは、ベルメザとの因縁が強いチェルシーと……彼女を支えてきたユウに任せると。


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


『ビーストソウル・リリース! 最後の一押しが足りないのなら……ボクが押し込むまでです! こゃーん!』


「ああ、来いユウ! お前のデケぇ拳で、この杭をブチ込んでやれ!」


「まずい……まずいまずいまずい! さっちゃん、離しなサイ! これまで散々面倒を見てあげた恩を忘れたのかシラ!?」


「ハッ、今更そんな命乞い聞くかよ。もう遅えんだ、お前も俺も。あの世にランデブーしようぜ、二人っきりでな!」


「グウウ……! ダメよ、アタシにはまだやらなきゃならないこトガ……!」


 この期に及んでみっともなく命乞いしてくるかつての師を、悟はあざ笑う。もはや打つ手の無いベルメザは、拳の魔神になり走ってくるユウを見ていることしか出来ない。


(また、終わる……? アタシの、アタシだけの美の帝国を築く夢が……第二のローマの野望が、消え……)


『覚悟しなさい、ベルメザ! その魂の消滅をもって、ルケイアネス王国の人々を虐殺した罪を償え! 合体奥義! イノセンス……』


「ブレイカー!」


「う、ぐ、アガァァァァァ!!!!」


 勢いよく振り抜いた拳を叩き込み、翼に食い止められていた杭を打ち出すユウ。翼が破壊され、黒い羽根が舞うなか……悟ごとベルメザが貫かれた。


 断末魔の叫びをあげるベルメザの後ろで、悟は満足げな表情を浮かべる。そして……『ありがとう』と、声にならない感謝の言葉をユウとチェルシーに伝えた。


「死ぬ……このアタシが……。こんな、道半ばで……。アタシだけの帝国を……まだ、造れてないのに……」


「テメェの帝国なんてな、陽炎みてぇなもんだ。消えな、ベルメザ。白銀の月明かりの下へよ!」


「う、あ……」


 胴体にユウとチェルシー、二人の紋章が浮かび……ベルメザは悟と共に、銀色のチリとなって消滅した。同時に、空に浮かんでいた黒太陽も砕け散り……主の後を追う。


『終わりましたね、チェルシーさん。これでようやく……妹さんも安心ですね』


「ああ、エレイン……アタシはやり遂げたよ。だからさ、鎮魂の園で安らかに眠ってくれよな。いつかアタシがそっちに行く、その日まで……」


 ユウの頭を撫でながら、チェルシーは感慨深げに呟く。もう二度と、黒太陽によって生を脅かされることはない。全てを優しく包み込む宵闇が、彼らを祝福していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 悟……これで、良かったんだよな?
[一言] 所詮、外道の泡沫の夢か(ʘᗩʘ’) 奴1人の命では釣り合いも着かんわい(⌐■-■)
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