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89話─闇の世界の決戦!

 翌日の早朝、準備を整えたユウたちは暗域へと向かって旅立った。テレジアたちが帰る際に置いていってくれた、特殊なポータルを使って。


 彼女らが用意したのは、クァン=ネイドラを守る結界をもすり抜けられる特殊加工が施されたもの。神々すら存在を知らない、闇の眷属の秘密兵器だ。


『来ましたね、暗域に。地図のバッテンマークのところに、ベルメザを閉じ込めてある……と』


「初めて暗域に来たけどよ、なんかこう……すげぇおどろおどろしいビジュアルしてんな。なんだあの空、紫色してるぜ」


「ふふ、驚いたかしら? 事が済んだらいろいろ案内してあげる。結構観光名所があるのよ、暗域は」


 一般の闇の眷属に見つからないよう、大樹のウロに見せかけた設置スペースに置かれたポータルを通り暗域へと足を踏み入れたユウたち。緊張ほぐしも兼ねて、そんな他愛ない会話をし……。


【4・6・2・1:フォックスレイダー・スタートアップ】


【4・6・2・1:マジンランナー・スタートアップ】


『さあ、行きましょう。ベルメザを倒して、全ての悲劇に幕を引くために!』


「ええ!」


「っしゃあ! やってやろうぜ!」


「エイエイオー! デスマス!」


「フッ、我が腕に宿る炎が燃え盛るね……!」


 それぞれの乗り物を顕現させ、ベルメザが閉じ込められているコロシアムへ向かって移動する。その頃、当のベルメザ本人はというと……。


「あーあ、退屈ネェ。まったく、気が付いたらこんな場所に閉じ込めらレテ。嫌になっちゃうワァ、出ようとしてもこの闘技場に戻されちゃウシ。誰の仕業かしらネェ」


 開けたコロシアムのバトルエリアに閉じ込められ、一人ブツブツ文句を言っていた。迅速かつ巧妙な手段で拉致されたため、誰にやられたのかは理解していない。


「はあ、もう……」


『あー、コロシアムの中にいるクソ羽野郎に告ぐ。これまで好き放題やってくれたな、ええ? だがそれも終わりだぜ、ここでくたばりな!』


「あら、このこ……えエェッ!?」


 愚痴をこぼしていたその時、どこからともなくチェルシーの声が響く。次の瞬間、コロシアムを囲むようにユウたちが空中から現れた。


 フォックスレイダーとマジンランナーを空中走行(フロート)モードに変え、空からミサイルを叩き込み先制攻撃を放つ。フォックスレイダーから六発、四台のマジンランナーから四発ずつ。


 計二十二のミサイルの洗礼による、一切の慈悲のない宣戦布告が行われた。熱追尾により迫ってくるミサイルを見上げ、ベルメザはフッと笑う。


「あらあら、随分と手荒な真似をするじゃナイ。でもねぇ、そんなのは無意味なノヨ!」


 黒太陽をコロシアムの天頂に出現させ、そこから放つ熱線で全てのミサイルを撃滅してみせる。そのまま周囲を飛んでいるユウたちも撃墜しようとするが……?


「あら? おかしいワネ、一つ減って」


『お前の暴虐もここまでです! その命をもって罪を清算しなさい! こゃーん!』


「!? チィッ、いつの間に降りてきたのかしラァ!?」


 ミサイルを撃滅したことで気を良くしていたベルメザは、小さな違和感に気付く。五つ飛んでいたはずの大型バイクが、一つ減っていたのだ。


 直後、ユウの念話が響き少年が走り寄ってくる。ミサイルに気を取られている間にフォックスレイダーを戻し、自分は地上に落下してコロシアムに侵入したのである。


「ふぅん、一人で勇んで飛び出してきたわけネェ。おバカさん、お前も黒太陽に取り込んで影の一つにしてあげルワ!」


『やれるものならやってみなさい! ボクと仲間たちはそう簡単にやられませんよ!』


 ユウの放った飛び膝蹴りを避けつつ、ベルメザは後方に跳んで態勢を整える。翼から抜け落ちた羽根を飛ばすも、ユウによって全て撃ち落とされた。


『行きますよ、銃とパンチのコンビネーションを食らいなさい!』


「このアタシに体術で挑むつもりナノ? ハッ、愚かネェ。美しいアタシには! 誰も適わないノヨ!」


 両手に黒炎を纏い、鋭い四本の爪を生やしたベルメザはユウを迎え撃つ。その間、シャーロットたちは空中に留まり黒太陽に氷の力を宿したミサイルを叩き込む。


「撃て撃て撃て~! バカスカ撃ち込んでやりゃあよぉ、ちったあこのクソッタレな太陽も冷えるだろうよ!」


「ミサイルポッドが灼けるまで撃つデース! ファイアー!」


 ベルメザはユウとの戦いに集中せざるを得ないため、熱線の精度を上げられない。その隙を突き、黒太陽を冷却することで出力を弱めてしまおうというのがユウたちの作戦だ。


「チッ、あのメスども面倒な……おぶっ!」


『よそ見してる余裕はあるんですか? お前の相手はボク……うぶっ!』


「お返しヨ、このクソガキ。その綺麗な顔を八つ裂きにしてあゲル! ブラックレイクロウ!」


 上空にいるシャーロットたちに気を取られたベルメザの懐に飛び込み、土手っ腹にストレートを叩き込む。が、お返しとばかりに膝蹴りを食らい吹っ飛ばされる。


 お冠なベルメザは腕を振り回し、爪でユウを切り刻もうと襲いかかる。冷静に攻撃を避けながら、少しずつ……そして的確に、ユウは反撃を叩き込んでいく。


『せいっ! はっ! ていや! こゃーん!』


(クッ、このガキ……! 体術に銃撃を織り交ぜてこっちの反撃を封じてきてるワネ。生意気ダワ……なら、こっちも隙を作らせてもらうワヨ!)


 ユウはただ単にパンチや蹴りを放つだけでなく、要所要所でファルダードアサルトによる射撃を織り交ぜていた。そうすることで、ベルメザが反撃する隙を潰しているのだ。


 このままではまずいと判断したベルメザは作戦を変える。黒太陽から影人間たちを呼び出し、数の暴力でユウを捻り潰すことにしたようだ。


「さあ、来なサイ! アタシの可愛い影ちゃんタチ!」


「! シャーロット、チェルシー、ブリギット! 影人間が出てくる、出来るだけ撃ち落とすんだ!」


「ええ、ユウくんの負担を増やすわけにはいかない!」


 ミサキの呼びかけに応え、さらにミサイルの発射間隔を狭め、黒太陽から現れる無数の影人間を消滅させていくシャーロットたち。だが、一体だけ高速で落下したため取り逃してしまう。


「ユウ、気を付け……!? おい、嘘だろ? あいつは、まさか!」


『……神谷、悟? どうして、チェルシーさんが埋葬したと聞きましたよ!?』


 落下していく影人間を見たチェルシーは、その正体に気付き叫ぶ。着地した影を見たユウもまた、何者なのかに気付く。影は……チェルシーに倒され、埋葬されたはずの悟だったのだ。


「おバカさんネェ、さっちゃんはトドメを刺した時に黒太陽に魂を取り込んでおいタノ。だからお前たちお得意のマジンフォンによる魂の消滅なんて無意味ってワケ。死んだ後も有効活用させてもらうワヨ。オホホホホ!」


「この……外道がぁぁぁぁぁ!」


「チェルシー!」


『チェルシーさん!?』


 神谷悟に、死後の安息は無かった。生きている時も、死んだ後でさえも。悲劇を引き起こした元凶にいいように操られ、尊厳を踏みにじられる。


 どこまでも他者を踏みにじるベルメザの行いが、チェルシーの逆鱗に触れた。マジンランナーを消し、勢いよくコロシアムに降り立ち敵を睨む。


「テメェは……テメェは、どこまで人を苦しめりゃあ気が済むんだ。え? ふざけるなよ、テメェのオモチャにしていい命なんて一つもありゃしねえんだ!」


「いいえ、全ての命はアタシの玩具。この世でもっとも美しい! このアタシのための理想郷を作る礎なノヨ! さっちゃんもお前たちも、みぃんなネェ!」


「……改めて決めたよ。テメェは! アタシとユウでぶっ殺す! もう二度とこんなふざけたことを出来ねえようにな!」


【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ!】


「ビーストソウル・リリース!」


 怒りの咆哮と共に、獣の力を解き放つチェルシー。ユウと共に並び立ち、数多の悲劇を引き起こしてきた堕天使を討たんと……その鋭い双眼を、敵に向ける。


『やりましょう、チェルシーさん。力を合わせて、ベルメザを!』


「ああ。徹底的にブチのめしてやる。あのスカした面を二度と見られねえようなクレーターに変えてやるよ。それがアタシからの……エレインと悟への手向けだ」


「フゥン、イキがってくれるじゃなイノ。でねぇ、お前たちじゃアタシを倒すことなんて不可能なワケ。元トップナイトの実力、その身で味わい……アタシの楽園の礎になりなサイ!」


 怒りに燃えるユウとチェルシー。漆黒の陽を落とすための戦いは、クライマックスを迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死者への手向けも踏み躙る外道が(⑉⊙ȏ⊙) 今度は去勢で済むと思うなよ(⌐■-■)
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