84話─襲来! 黒太陽と白騎士!
『さあ、もう大丈夫ですよ。安全なところに送ってあげますからね』
「済まねぇ、恩に着るよ。あとちょっとで食料が尽きるとこだったんだ、もしそうなってたら……考えたくもねえや」
到着から一時間ほど経った頃。ユウたちは緊急用地下シェルターに避難していた町の住民たちの発見とキャンプへの誘導を堅調に進めていた。
町の広場に設置した長距離転移用の魔法陣を使い、助けた住民たちをサーズダイルにある難民用キャンプ群へと送り届ける。任務の遂行は順調だった、が。
『ふう、東の方はこれでおしま……! あの黒太陽はまさか!?』
「ゆーゆー! 見えるデスか、アレ! どーやら、アッチから仕掛けてくるつもりのようデス!」
『ええ、どうやらそうみたいですね。なら望むところです、シャロさんたちを呼び戻してベルメザと』
「生憎、我が主はここにいない。その代わり、名代として我が相手をしてしんぜよう」
雲を引き裂くようにして、漆黒の太陽がその姿を現した。それを見たユウとブリギットは、生存者を全員送り出したこともありベルメザとの決戦に臨む構えを見せる。
が、現れたのはベルメザではなかった。黒太陽の中から降り立ったのは、メタリックシルバーの身体を持つキカイの馬に跨がった騎士であった。
新雪のように真っ白な鎧兜、そして赤いマントを身に着けた騎士は地に降り立つ。馬上に座したまま、ユウとブリギットをフルフェイスの兜の奥から見つめる。
『お前がベルメザ……ではないようですね。翼がありませんし』
「然り。我はレクペル・ディグラニス。主たるベルメザ様に仕えし騎士なり。貴公らの始末を任されたがゆえ……我とアストラルIの手で、消えてもらおう」
「オー、そのおんまさんがアストラルなんデスか。次から次へとマア、よく出てくるもんデスね」
『ええ、本当ですよ。でも、ベルメザとの前哨戦の相手に不足はありません。返り討ちにしてあげますよ、レクペル!』
ユウたちに自身の名を告げ、宣戦布告するレクペル。ユウの返り討ち発言を受け、騎士は喉を鳴らして笑う。強者の余裕、というものだろう。
「クックックッ、その意気やよし。されど、気迫のみで下せるほど我は弱者にあらず。二人まとめてかかってくるがよい。他の者らには……」
「!? く、黒太陽からなんか出てきたデース! それもたくさん!」
「黒き太陽に焼かれ、取り込まれた魂たちの成れの果て……影人間たちが相手をしよう」
『あちこちに散っていく……まさか! 他のパラディオンたちも葬るつもりですね!』
レクペルが右腕を天に伸ばし、指を鳴らした次の瞬間。黒太陽から無数の影が飛び出していき、四方八方へと散っていく。他のエリアで任務をしているパラディオンたちを攻撃するつもりなのだ。
「仕方ないデスね、緊急事態ゆえ仕方なし! 魔法陣を強制ロックするデス!」
『ええ、今サーズダイルに乗り込まれるわけにはいきませんから……うわっ!』
「ほう、突進を避けたか。虚を突いたつもりだったが、なるほどなかなかにやる」
敵襲を受け、ブリギットは咄嗟に魔法陣を強制停止させ転移機能を封印する。そうしなければ、影人間が魔法陣を使ってサーズダイル跡地に直行してしまう。
そうなれば、不要な犠牲者を出してしまうことになる。この咄嗟の判断が、大勢の命を救ったことをのちにユウとブリギットは知ることとなる。
こうして魔法陣を停止して一安心、と思いきや。突如レクペルがアストラルIを駆り、突撃してくる。かろうじて避けたユウたちに、騎士は挑発をかました。
「ムー、不意打ちなんてセコセコズルズルの助デス! ゆーゆー、あいつの相手を頼みマス! ワタシはシャロシャロたちに任務の中断を伝えるデス!」
『はい、任せてください! さあレクペル!お前の相手はボクです!』
【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】
『ビーストソウル・リリース! さあ、戦いの始まりです! こゃーん!』
「フッ、よかろう。ではその命、ここで頂戴するぞ! 北条ユウ!」
獣の力を解き放ち、銃の魔神へと姿を変えるユウ。それに呼応し、レクペルも己の武器を呼び出す。右手に巨大なハルバード、左手にこれまた巨大なカイトシールドを装備し準備は万全。
ブリギットとアイコンタクトしたユウは、町の外へ向けて東へと走り出す。まだシャーロットとグレイシーが生存者の捜索をしており、彼女らとレクペルを遠ざけるのが狙いだ。
『さあ、こっちです! ついてきなさい、レクペル!』
「よかろう、速さ比べをしようではないか! アストラルIよ、走れ!」
「ブルルル……!」
レクペルの命令を受け、走り出すアストラルI。馬のスピードと人間の持久力を併せ持つ、機動力の化身。あっという間にユウに追い付き、背後から踏み潰さんと迫る。
『わっ、もう追いついてきた!?』
「選べ。アストラルIに踏み潰されるか、我がハルバードの餌食になるかを!」
『どちらも選びませんよ、ボクが選ぶのは……こうです! チェンジ!』
【トラッキングモード】
『それっ、スネークショット!』
さらに加速して敵の魔の手から逃れたユウは、アドバンスドマガジンを左腕に取り込み攻勢に出る。自動追尾弾を放ち、狙うはレクペルの首。
鎧と兜の間にある僅かな隙間。そこを狙って攻撃を通すのは本来ほぼ不可能なこと。だが、ユウならば可能だ。レクペルの真後ろから弾丸が直撃するが……。
『え!? た、弾が首をすり抜けた!?』
「面白い狙い方だ。我が人の身に転生していれば致命傷となっていたろうよ。だが、我はデュラハン。首などもとより存在せぬ!」
『デュラハン……! 魔物に転生することも出来るというんですか!?』
驚愕の事実に、ユウは目を丸くしてしまった。デュラハン……首なし騎士とも呼ばれる、強力な力と頭脳を持った危険な魔物。異世界転移ではなく転生だからこそ可能な、魔物への転生というとんでもない荒業だ。
『だったら、素直に鎧を撃ち抜くだけです! スネークマグナム! こゃーん!』
「面白い、だがそう簡単に我が鎧を砕けると思うな! ロイヤルガーディアン!」
首を狙えないなら、正攻法で鎧をブチ抜くまで。作戦を変更したユウは、さらに魔力を上乗せし威力を上げた弾丸を放つ。相手の死角を狙うも、レクペルは鎧の強度を上げ難なく弾丸を弾いてしまう。
『くっ、思ってたより鎧が堅い……!』
「言ったであろう、そう簡単に我が鎧は……む?」
「よお、楽しそうなことしてんな。テメェだな? あのキモい影みてえなのを寄越してきやがったのは。オレとも遊べよ、なあ?」
序盤から劣勢に陥りつつあるユウの元に現れたのは、影人間を蹴散らしてきたグレイシーだった。しかも、どこから調達したのかたくましい栗毛の馬に乗っている。
『グレイシーさん!? その馬はどうしたんですか!?』
「オレのマジンランナーはバイクなんて味気ないもんじゃねえ。この『ワイルドジャック』号がオレの足なんだよ」
「ブルルルッ!」
「新手か。面白い、どの道全員抹殺する予定なのだ。纏めて相手をしてやろう」
影人間の襲撃とブリギットからの緊急連絡により、事態の深刻さを把握したグレイシーは敵の気配を追ってやって来たらしい。新手の登場にも、レクペルは余裕の態度を崩さない。
「ハッ、生憎オレはチームプレイなんてのはガラじゃねえ。が……トップナイト二人を潰したボウズが相棒ってんなら話は別だ。相手してやるよ」
そう口にし、グレイシーは右腰に装備したホルスターに手を伸ばす。そこから取り出したのは、リボルバー拳銃のグリップ……の形をしたトランシーバー型のマジンフォンだ。
「いくぜ。エイト・ゼロ・ワン・ゼロ!」
【マジンエナジー・チャージ】
「荒野のアウトローの暴れっぷり、見せてやるよ。ビーストソウル・リリース!」
音声入力によりパスコードを唱え、獣の力を解き放つグレイシー。リボルバー拳銃のアイコンが納められた、琥珀色のオーブが出現しそれを取り込む。
そうして、伝説のアウトローの転生者はハチの化身となりその力を引き出す。カウボーイ衣装が黒と黄のストライプ模様に染まり、背中にハチの羽が生える。
「んじゃ始めようじゃねえか。おいボウズ、遠慮なんてするなよ。全力であのスカした騎士を潰すぞ」
『はい! 銃使い同士、頑張りましょう!』
「来るがよい、二対一だからと我に勝てるとは思わぬことだ」
ハチの腹部と針を模した銃身が追加されたマジンフォンを構え、グレイシーは獰猛な獣のような笑みを浮かべる。二人の銃使いの共同戦線、開幕だ。




