80話─パラディオン再集結
悟と彼の配下、アストラルシリーズとの戦いは終結した。シャーロットたちが仲間との合流を目指して移動するなか、ユウは廃墟探索を行い生存者を探していた。
『結構生き延びてる人たちがいましたね、よかった』
「俺もびっくりだよ、あの混乱の中上手く逃げられたのがこんなにいるたぁな。ま、無事でよかったよ」
「そうね、でも大半の人たちは……」
結論から言うと、生存者は存在した。十数人程度ではあるが、ジョルジュ一家のように荒天用の地下シェルターに逃げ延びていたのだ。
だが、喜んでばかりもいられない。今はまだ、それぞれが備蓄している非常食や水が残っている。だが、いずれはそれも尽きる。
そうなれば、インフラも流通も何もかもが死滅した街にいては死を待つのみとなってしまう。そこで、ユウはギルドに連絡することに。
『あ、もしもし。ボクです、ユウです。実はルケイアネス王国にいるんですが……』
『……なるほど、事情は把握しました。マジンフォンを使ってそちらの座標を転送してくだい、すぐに魔法陣を展開して救助に向かいますから』
『分かりました、ありがとうございます』
パラディオンギルドの職員に連絡し、ルケイアネス王国の現状を伝えたユウ。結果、生き残った国民を難民としてガンドラズルで保護することが決まった。
そのことをジョルジュたちに伝えると、みな大喜びしていた。いつまた黒太陽が現れるか分からない、恐怖に苛まれる生活が終わることに心から安堵していた。
「ボウズ……いや、ユウ様。貴方は俺たちの恩人だ。この恩、いつか必ず返すよ。ルネイアネスの民は一度受けた恩を忘れないからな!」
「きっとこの街以外にも、地下で避難生活をしている人たちがいるわ。彼らと力を合わせて王国を復興させたら……必ずお礼をさせてもらうわ」
『いえ、いいんです。困っている人たちを助ける、それがパラディオンのお仕事ですからね! ……あ、着信。すみません、ちょっと席を外します』
自分の位置情報と魔法陣展開用の座標データを送り、一息つくユウ。ジョルジュたちと和やかに話していたところ、マジンフォンにチェルシーから電話が入る。
『ユウ、無事か!?』
『はい、ボクは大丈夫です! チェルシーさんの方こそ無事にカミヤサトルを倒せましたか!?』
『ああ、こっちは無事やり遂げたぜ。……まあ、それとは別にちっと問題が起きちまったんだけどな。今どこにいる? ギルドに行って長距離転移用の転移石を借りてきたから迎えに行くぞ』
『ありがとうございます、ボクは……ちょっと分からないので聞いてきますね』
ユウはジョルジュから街の名前を聞き、チェルシーに伝える。ギルドの職員が到着したのと入れ替えで、迎えに来たチェルシーと共にニムテへ帰還した。
無事仲間全員と再会し、安堵するユウ。だが、喜んでばかりもいられない。休憩を挟んだ後、シャーロットの自宅にてチェルシーから戦いの一部始終を聞く。
「なるほど、ベルメザ……そいつが真の黒太陽の使い手なのね」
「ああ、まだ戦っちゃあいないがアタシには分かる。あいつは強い、悟よりも遙かに。一人じゃあまず勝てないだろうな」
エレインの仇との激闘、その果てに得た勝利……そして、悟の過去と真の黒幕。全てを知ったユウは、思い悩むチェルシーを真っ直ぐ見つめる。
『チェルシーさん。そんな時こそ、ボクたちを頼ってください! お互いに助け合い支え合う。それがボクたちのやり方でしょう?』
「ユウ……。へへ、そうだよな。一人で戦う必要はねえんだ、力を合わせれば必ず勝てる! だからよ、みんなの力をアタシに貸してくれ!」
「ええ、もちろん。お父様も言っていたわ、仲間の絆は何ものにも替えられない大切な宝だって。その宝を守るためなら、私は全力で戦う!」
「ワタシもデスマス! そんなふてぇ野郎を野放しにシテたら、ルケイアネスの悲劇があちこちで起きるデス。そんなのは見過ごせないデスよ、悪を滅ぼすのデスマス!」
「そうさ、私たちの使命はリンカーナイツの脅威から人々を守ること。その対象はすでに被害を受けた人たちだけじゃない。まだ被害を受けていない人たちも守らないとね」
ベルメザとの決戦に向け、ユウたちは互いの想いを確かめ合う。後はコンディションを万全に整え、ベルメザの居場所を探るだけ……と思いきや。
「あ、言い忘れてたけどよ。アタシが授かったイージスオブアース、多分羽野郎との戦い終わったら使えなくなると思うわ」
「ええ!? なんでよ、あんな自信満々に凄い技を覚えたって言ってたじゃない!」
「いやあ、確かに覚えたぜ? でも、ただよ大地の民とノスフェラトゥスじゃなんつうかさ……勝手が違うんだと。アタシの身体が負荷に耐えられずに壊れる前に、勝手に使えなくなっちまうってシャスティに言われたんだわ」
よりにもよってこのタイミングで、チェルシーから爆弾発言が飛び出した。ツッコミを入れるシャーロットを見て苦笑いしつつ、ユウはそれも仕方ないことだと考えていた。
(イージスオブアース……。確かに、魔神や星騎士の血に連なる者でもなければまともに扱える代物とは思えません。セーフティとなる制限を設けるのも、大切なことですね)
イージスオブアースが消耗するのは、莫大な量の魔力だけではない。使用者の命をも削る、常命の生物にとっては諸刃の剣となるハイリスクな切り札なのだ。
シャスティが平然と長い時間使えているのは、どれだけ寿命を消費しても死ぬことがないノスフェラトゥスだから。彼女と同じ感覚で使っていれば、セーフティがないとチェルシーはすぐに死ぬだろう。
「デモ、逆に言えばベルメザとかいうのを倒せば使えなくなっテモ問題はないってことデスね。それまでは使わずに温存するのが吉デスマス」
「ああ、アタシもそう思う。ってわけで、羽野郎がまたアストラルやリンカーナイツのクソ共を連れてきた時は相手よろしく!」
『丸投げですか……。まあ、いいですよ。チェルシーさんが黒太陽対策の切り札ですから』
木っ端相手に能力のムダ使いは出来ない。それにかこつけて、新しく出てくるだろう下っ端の相手をユウたちにブン投げるチェルシー。
苦笑いしつつ、それを受け入れたユウ。その時、部屋の中に扉が出現した。ゆっくりと扉が開き、マリアベルが姿を見せる。
「ごきげんよう、皆様。……おや、お話中のようですね。では日を改めて……」
「いえ、大丈夫よおば様。何か問題でも起きたのでしょう? そうでなければ、誰かを保護してる時のおば様が自分から顔を見せに来ることはないもの」
「流石お嬢様、テレジアの娘だけあって洞察力が高いですね。貴女の言う通り、少々問題が起きました」
久しぶりに姿を見せたマリアベルは、いつになく険しい表情でそう伝える。これはただ事ではないと判断したユウは、何が起きたのかを尋ねることに。
『一体何があったんですか?』
「はい、どうやら何者かがわたくし……正確にはアルソブラ城の座標を特定しようとしているのです」
「ああ、あの羽野郎だな。クリート王子を見つけ出して殺すっつてたしな……こりゃ急いで潰さねえとまずいぞ」
「焦る必要はありませんよ、チェルシー様。わたくしの本体は、あらゆる空間と隔絶された亜空間にあります。外部からのアクセスは容易ではありません、そう簡単に座標を見つけられることはないかと」
「でも、楽観視してばかりもいられないわ。それに、どうやってベルメザが殿下たちの居場所やおば様のことを知ったのか……気になるわね」
「それに関しては、わたくしに心当たりがあります。暗域にはごく少数ながら、リンカーナイツに与している闇の眷属がいます。その者らの中には、腹立たしいことですが旦那様の支配地域に住む者たちがいます」
「そいつらが情報を売ったってことデスね。ヤーなるデスね、売国奴は嫌いデス」
マリアベルの情報や、彼女がクリートを匿っている可能性をベルメザに示唆した者が暗域にいるらしい。ブリギットが苦々しげに呟くと、マリアベルは首を縦に振る。
「そちらに関してはわたくしにお任せください。お嬢様たちの手を煩わせるような事態には致しません、旦那様の顔に泥を塗りかねない輩は……ふふふ。今から楽しみですね」
「え、ええ。楽しそうで何よりですわ……」
「わたくしからの報告は以上です、あまり長居するのもご迷惑でしょうから。そうそう、事態解決後は定期的に部屋の掃除が出来ているかチェックしに来ますからねお嬢様。しっかり掃除をするように。いいですね?」
「え゛っ。わ、分かりました……」
最後にそう伝えた後、マリアベルはアルソブラ城に戻り扉も消えた。後には、死刑宣告を食らって崩れ落ちるシャーロットと、生暖かい目で彼女を見るユウたちが残った。
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