77話─決別の一撃
『これでトドメ……!?』
「ふー、あっぶね。あらかじめ使い捨てバリア仕込んどいて助かったー。ってなわけで食らえ!」
『あぶっ!』
必殺の一撃を叩き込んだユウ。だが、小賢しい手を使ったリリアルに無効化されてしまう。カウンターのドリルパンチを食らい、吹っ飛ばされてしまった。
右の鎖骨付近に大穴を開けられながらも、ユウは一旦退いて態勢を整える。痛みに顔をしかめつつも、その思考はクリアなまま変わっていない。
(さっき、あのバリアを使い捨てって言ってましたね。なら、もうボクの攻撃を防ぐ手段は何も……いえ、一つだけありますね。アストラルGのバリア、あれにさえ気を付ければ!)
「なーにジロジロ見てんの? そろそろ死ねよ、オラァッ!」
『っと、させません! 今度こそ使わせてもらいますよ、チェンジ!』
【トリックモード】
『それっ、ファントムシャワー!』
リリアルの鞭を避けたユウは、ファルダードアサルトを右手に持ち替えトリックマガジンをセットする。四人の分身を生み出し、再度攻勢に転じた。
分身たちと共にリリアルを囲み、四方から容赦なく蹴りや殴打、銃弾を浴びせる。これまでのお返しとばかりに、本体も分身もノリノリだ。
『それっ、総攻撃ーっ! こゃーん!』
『こゃーん!』
「くっ、このっ! 五人がかりはひきょ……あぶぇっ! ちょ、アストラルG! 新しい武器を」
『させませんよ! ヘカテリームさんとの修行で培った魔法の力、見せてあげます!』
耐久力に優れたアストラルシリーズでも、流石に五人がかりでタコ殴りにされたらひとたまりもない。新たな武器で対抗しようとするも、ユウが先に動く。
隣にいる分身に触れ、魔力を流し込む。すると、分身の脇腹がモチのように膨れ、追加の分身となって剥がれ落ちた。
「は!? 増えた!?」
『こうやって追加の分身を作れるようになったんです! 新しいボク、武器の供給を阻止してください!』
『こゃーん!』
リリアルが驚いている間に、五人目の分身はアストラルGの元へ向かう。今まさにウェポンラックから武器が投射されてようとしていた、次の瞬間。
『今です! 水飴モード!』
『こゃーん!』
「!? ……なんだこれは!?」
「もー、なんなん!? お前滅茶苦茶すぎだろ!」
跳躍した分身は、本体から送られた魔力の信号を受け取りドロドロに溶けてしまった。水飴のようにウェポンラックに張り付き、武器ごと封じ込める。
あまりにも奇想天外な封じ方に、アストラルGは驚愕しリリアルはついにキレてしまった。一方、ユウは得意気に胸を張っている。
『こうやって、ある程度ならボクの意思に沿って分身を変化させられるんですよ。さあ、これでもう厄介な武器は……供給出来ませんよね?』
「! しまった!」
アストラルGとの連携を絶たれたリリアルには、もう数の暴力に抗う手段は残されていない。そのことを指摘され、慌てるも時すでに遅し。
【モータルエンド】
『さあ、今度こそトドメです! 元仲間として、キッチリあの世に送ります! チェンジ!』
【ブレイクモード】
「クソォッ、やめろ! やめなさい! アンタ、アタシの命令が聞けないの!?」
『もう聞くつもりはありません! ナインフォールディバスター!』
『こゃーん!』
かつてのようにユウに命令し、攻撃をやめさせようとするリリアル。だが、今のユウにそんなセコい苦し紛れの策が通用するわけもなく。
分身を含めた五人のユウによるレーザーを浴びせられ、少しずつ肉体が崩壊して命が消えていく。苦悶の声を発しながら、リリアルは崩れ落ちた。
「アアアアアア!! こんな、こんなぁ……いや、死にたくないぃ……! ユウ……よくもやってくれたわね、永遠に……呪われろ……」
呪詛の言葉を残し、リリアルは完全に消滅した。分身たちを虚空に還した後、ユウは小さな声で呟いた。
『……ボクは呪われてますよ。とっくの昔に、前世の因縁としてね』
その後、ユウは一人残されたアストラルGへとファルダードアサルトを向ける。これまでの動きから、戦闘能力が無いことがはっきり見て取れた。
恐らく、リリアルことアストラルHの戦闘サポートに特化しているのだろう。弾丸が一発あれば、それで全てが終わる。少しずつ後ずさるアストラルGに、ユウはトドメの一発を放つ。
【モータルエンド】
『てやっ!』
「……かはっ!」
『ふう、ようやく終わりましたね。さて、ここからどうやってかえ……ん?』
死闘のすえ、ようやくアストラルコンビを倒したユウ。廃墟となった街を去ろうとした直後、彼の鼻がなにかを捉えた。匂いをたどり、廃墟を進む。
『なんでしょう……一体どこから……このいい匂いが……?』
とある廃屋の中まで、匂いは続いていた。匂いの元が分からず、ユウは廃屋の中を手当たり次第探す。その最中、うっかり棚の上の燭台を倒してしまい……。
『あ、いけな……!? だ、暖炉が動いた! もしかして、この先に匂いの元が……?』
部屋の奥にあった暖炉がスライドし、地下へ続く階段が現れた。どうやら、偶然隠し通路へ行くためのスイッチを作動させてしまったらしい。
ユウは一人、階段を降りるかどうか考え込む。もしかしたら、廃墟となった街の住民が逃げ込んで生活しているのかもしれない。
もしそうなら助けなければならないし、街が廃墟になってしまった理由を知ることも出来る。だが、想定外の危険が潜んでいる可能性も捨てきれない……と、思考がどうどうめぐりになってしまう。
『あ、なら先にシャロさんたちに連絡すればいいじゃないですか。ボクったらうっかりし』
「誰だ、勝手に仕掛けを動かしたのは! そこから動くな、とっちめてやる!」
『ぴぃっ!?』
少しして、マジンフォンで仲間に報告しておけばいいと思い至るユウ。そんな簡単なことに気付くのが遅れたあたり、疲れて思考が鈍ってきているようだ。
早速連絡しようとしたその時、階段の先から怒鳴り声が響く。びっくりしてマジンフォンを取り落としてしまったユウの元に、ピッチフォークと鍋で武装した男が駆け上がってきた。
「んあ? こ、子ども? あの黒い影どもじゃないのか?」
『び、ビックリしました……。あの、おじさんは』
「話は後だ、ここにいるとまずい。下に降りよう、あの影どもに入り込まれたら今度こそみんな死んじまうからな」
ユウが尋ねようとするも、男は話を遮り階段を降りるよう促す。切迫した様子を見て、これはタダ事ではないと判断したユウ。とりあえず言われた通りにし、隠し階段を降りる。
下に着くまでの間、ユウと男はお互いに情報交換を行う。男……ジョルジュはユウがパラディオンであることを、ユウはジョルジュがこの街の住民であることを知った。
「そうかぁ、こんな小さいのに俺たちの代わりにリンカーナイツの連中と戦ってくれてるのかぁ。ありがとうなぁ、ボウズ」
『いえ、当然のことですよ。ところで、ジョルジュさんはどうしてこんな地下に? それに、地上でなにが……』
「……少し前のことだ。突然、空に真っ黒な太陽が昇ったんだ。街のみんなであれはなんだと話してたらよ、太陽から……真っ黒い影みたいな奴らが出てきたんだ」
『影のような奴ら……。あの男、そんな真似まで出来るんですね』
どうやら、サースダイル襲撃と前後して悟がジョルジュの住む街を襲ったらしい。階段を降り終え、通路を進みながらジョルジュは続きを話す。
「その影たちは、街のみんなを片っ端から捕まえて……上空に浮かぶ太陽の中に放り込んじまいやがった。俺ぁ大慌てで家まで逃げて、カミさんと子どもらを連れて災害用の地下シェルターに逃げ込んだんだ」
『そうだったんですか……。じゃあ、ジョルジュさんとご家族以外の人たちはみんな……』
「たぶん、あの太陽に取り込まれちまったと思う。俺みたいにシェルターまで逃げられた奴がいるかもしれないが、怖くて外に出られなかった……」
『仕方ありませんよ、そんな目に遭っては。代わりにボクが調査してきますよ、もしかりたら生き残ってる人がいるかもしれませんしね』
「ああ、あんた優しいんだなぁ。ありがとうよ、気が気じゃなかったんだ。無事な奴が一人でも多くいてほしいよ」
ジョルジュの話を聞いたユウは、地上に戻り生存者が他にもいないか調べることを決める。是非家族に会ってくれとジョルジュに頼まれたため、顔を見せてから調査開始だ。
(神谷悟……クリート殿下だけで飽き足らず、無関係な人たちまで苦しめるなんて許せません! ……チェルシーさん、大丈夫でしょうか)
悟への怒りを燃やしつつ、心の中でチェルシーの身を案じるユウ。無事妹の仇を討てたのか、今のユウに知るすべはなかった。果たして、彼女の運命は……。




