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75話─剛を制するのは

 時は少しさかのぼる。シャーロットとアストラルEの戦いが始まった頃、ルケイアネス王国の別の場所でミサキとアストラルFの戦いが行われていた。


 廃墟となった街の中でミサキと対峙するのは、不気味な容姿を持つアストラルたちの中でも特に異様な姿をしている存在。何せ、頭部が無いのだ。


 本来頭があるべき場所には、無骨な鉄色のミニガトリングが接続され。濃い蒼色に染まった全身鎧の胸部に顔があるという、異形の姿をしていた。


「こんなところに飛ばすなんてね、帰るのが面倒じゃあないか。え?」


「帰る? その望みは叶わぬよ。我によって貴様は散るのだ。この地に暮らしていた者らのように」


「悪いね、そんなわけにはいかないのさ。ダイナモギア・ソウルアクセス。マギドラ……」


「悠長に装具の展開をさせるとでも? 血飛沫と共に肉片になるがよい! ヘッドロードカノン!」


 ミサキがアーマーを展開しようとした、その時。アストラルFは頭部のガトリングを稼働させ、先制攻撃を放っていきなり始末しようと目論む。


 普通なら、人間はガトリングの掃射に反応して避けることなど出来ない。だが、英雄の子孫でもあり、半異邦人でもあるミサキには造作もないこと。


 先の修行でアーシアから手ほどきを受けていることもあり、この程度の不意打ちを回避するのは朝飯前だ。


「酷いね、不意打ちかい? ま、確かに本格的な戦いになる前に相手を仕留められるのなら上々さ。でもね……私はそう簡単に不意打ちなんて食らわないよ」


「ほう、(はや)いな。我の攻撃を避けるとは。うむ、こうでなくては面白くない」


「よく言うよ、不意打ちした本人がさ。少しカチンときたね、これはお仕置きしないと。マギドラマヴリオン、スタンバイ!」


 目にも止まらぬ速度でアストラルFの射線から脱出し、掃射をかわしたミサキ。家屋の残骸に身を隠し、装具を纏い竜の剣士へと姿を変えた。


「さっきのお返しだよ、これでも食らうといいさ! 九頭龍剣技、壱ノ型! 菊一文字斬り!」


「天よりの一撃……なかなか鋭いが、防げぬほどではない!」


 廃屋から飛び出し、天高く跳躍したミサキは先ほどの仕返しとばかりに強烈な斬撃を放つ。が、アストラルFが呼び出した大振りな片刃の斧によって阻まれてしまう。


 もう一振り斧を召喚し、二刀流スタイルになったアストラルFは反撃に出ようとする。が、その前にミサキが離脱し態勢を整えた。


「へえ、斧。見た目に反して随分とまあ真っ当な得物だ」


「フン、我とて好き好んでこんな見た目をしてはおらぬわ。ドクターはその日その時の気分で我らのデザインを決める。真っ当な見た目の者など片手で足りるほどしかおらん」


「そう、大変だね君らも。よし、その苦労を終わらせてあげよう。君を消滅させることでね!」


「やれるものならやってみるがよい!」


 そこからはもう、言葉を交わすことなどない。剣と斧がぶつかり合い、激しい火花を散らす。どちらも一歩も退かず、相手を撃滅せんと猛攻を繰り広げる。


 流れるような連撃を繰り出し、少しずつ敵の気勢を削ぎ落とさんとするミサキ。対するアストラルFは、持ち前のタフネスにものを言わせ強引に反撃に出る。


 柔と剛、まるで違う戦法の相手との戦い。命を賭けた戦いのなか、ミサキは修行中にアーシアに言われたことを思い出していた。


『ミサキ、はっきり言おう。余から貴殿に教えられることはそう多くない。すでに、貴殿の技術は完成に限りなく近いからな』


『おや、予想外の高評価だね。でも、限りなく近い……つまり、完全に熟してはいないということかな?』


『そうだ。だが、余と貴殿では得物が違う。教えられることには限界がある……だが、もっとも大切なことは伝えられる』


『それは一体なにかな?』


『常に学ぶことを忘れるな。これから貴殿が戦う敵は、いつも有利に立ち回れる相手ばかりではない。そうした強敵から技術を盗み、学べ。そうすれば、貴殿は至高のいただきにたどり着けるだろう』


『……いい言葉だね。覚えておくよ』


 自分はすでに、八割方完成している。足りないピースは、戦いの中で見つけ出し手に入れるべし。その言葉を胸に刻んだミサキは、アストラルFの攻撃を注意深く観察する。


(ふむ、なるほど……こいつは持ち前のパワーと耐久力を頼みにガンガン攻めていくスタイルだね。顔が胸に付いてるから、視界は広くない。とすれば、だ。私が採るべき策は……)


 普段ならとっくに敵を撃破出来ているだろう数の斬撃を叩き込んでも、相手はまるで意に介していない。剛の力を打ち破るには柔の剣では足りないようだ。


 そんな恐るべき剛力を以て襲いかかってくるアストラルFに対して、どんな策を巡らせるべきか。彼女が選んだのは、背後に回り込んでの一撃必殺。


 相手の視界が普通の人間よりも狭いのを利用し、死角から一気に叩き潰す戦法をチョイスした。攻撃をいなした後、即座に相手の背後に回り込むべく動く。


 近くにある廃屋へ飛び、ボロボロになった壁を蹴ってアストラルFの背後に移動した。このまま一気に仕留めるつもりでいたミサキだが……。


「いい判断だ、だが詰めが甘かったな! 我の背中にも顔があるのだ!」


「!? なるほど、そうやって視界の狭さをカバーしているわけだ。これは一本……おっとっと!」


「この距離ならば貴様をミンチにしてやれるぞ! さあ、大人しく我がガトリングヘッドの餌食になれ!」


 なんと、アストラルFの背中にも胸と同じイカつい男の顔が存在していた。首を回すことで視野を広げられない代わりに、常時前後の視界を確保出来るようになっていたのだ。


 驚くミサキに向けて頭部のガトリングを回し、ロックオンするアストラルF。ゆっくりと銃身が回り出し、大量の弾丸を放とうとする。……が。


「さあ、死ぬがい……ぬおっ!?」


「わっ、これは……アストラルの死体?」


「フッフッフッフッ! このワタシが! 華麗に敵を葬ってやったデスよ! ついでにこーシテ仲間のピンチも救う! イヤー、ワタシは出来る女デスマス!」


 突然、ミサキたちから少し離れた場所にある廃屋の壁に魔法陣が浮かび上がる。その中から飛び出してきたのは、ズタボロになったアストラルBの遺骸。


 仲間の遺骸を叩き込まれ、もんどり打って倒れるアストラルF。ミサキが目を丸くしていると、バカ笑いしながらブリギットが姿を現した。


「貴様、Bに何をした!? それにどうやってここに来た!?」


「ンー? ビリビリパワーを吸収してフルボッコにしてやったのデス。コイツのボディに格納されてる座標データをハックして、ここまで転移してきたのデスマス! フムン!」


「くうっ、凄まじいわがままボディ……なんだか見ててムカついてきた、この怒りを発散するとしようか!」


 すでにアストラルBを下したブリギットは、仲間の救援に向かうため行動していたらしい。パワーアップ状態の彼女を見たミサキは、理不尽な怒りを敵に向ける。


【モータルエンド】


「ずいぶんとふざけた理由だ。そんな理由で倒されてたまるか!」


「悪いね、もう終わらせてもらうよ。……お前と斬り結んで、一つ理解したことがある。剛を制するのは、時として柔ではなく……より強い剛の力だ! 九頭龍剣技、裏壱ノ型! ホーリーライトエクストリーム!」


「なっ……!? ぐおおおお!!」


 ミサキは奥の手を使い、刃を輝く白い光で覆う。その状態で刀を両手で握り、立ち上がったアストラルFへと勢いよく斬りかかった。


 二本の斧で迎え撃つアストラルFだったが、凄まじいパワーで胴体ごと両断され崩れ落ちた。自分を上回る剛の力に屈し、敗れ去ったのだ。


「おお、やったデ……ミサミサ!? う、腕がズタボロになってるデスよ!」


「はあ、はあ……。まだ未完成だからね、この技……しばらく腕が使えないね、やれやれ……」


 だが、その代償は大きかった。裏の剣技はまだ発展途上、無理に使えば反動で身体に深刻なダメージが出てしまう。両腕の筋繊維が断裂し、刀を落としてしまうミサキ。


「ほぼ完全に近い、とのお墨付きはもらったけど……。残りの完成してない部分、早くなんとかしないとね……」


「わわわ、大丈夫デスか!? すぐ治療するデス、ワタシのマジンフォンを貸すデスマス!」


「はは、ありがとう。この腕じゃ、お箸すら持てないからね」


 マジンフォンを使い、大慌てでミサキの治療を始めるブリギット。そんな彼女にお礼を言いつつ、ミサキは腕の痛みに顔をしかめた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミサキの大健闘回だけどブリキットの戦闘が省かれたから敢えて言わせて貰うが(ʘᗩʘ’) デカくなってバインボインになるのは良いが(゜o゜; デカ過ぎるとユウのトラウマスイッチに触れるぞ(٥↼…
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