74話─悪を粉砕せよ！ シャーロット！
「先手は譲ってあげる、勝率百パーセントの戦い方を見せてもらおうじゃないの」
「よかろう、ならば刮目して見、その肌で受けるがよい。我がウェーブブレードの切れ味を！」
そう叫んだ後、アストラルＥは胴体に取り付けてあるリングギロチンを取り外す。右手に持った得物に魔力を流し、その形状を変化させていく。
リング状の刃がプツリと切れ、一本の刃物になる。が、通常の刀剣のように真っ直ぐ伸びることはなく、鞭のようにだらりと垂れ下がっていた。
「我が一撃、避けられるものなら避けてみるがよい！ ヌンッ！」
「っと、そういう攻撃パターンね。なんだ、義人と同じじゃないの。ムダに警戒して損したわ」
「果たしてそうかな？ この剣が波の名を持つ理由を知るがよい！」
俊敏なステップで迫り来る刃を避け、ただの肩透かしと鼻で笑うシャーロット。そんな彼女だったが、アストラルＥの第二撃により真顔になることに。
再び鞭のように刃がうねり、雪原に叩き付けられる。すると、刃が当たった場所から波打つ衝撃波が放たれシャーロットに襲いかかったのだ。
幸いにも咄嗟に飛び退いたことで、直撃は避けることが出来た。相手の自信の正体を見て、シャーロットは独りごちる。
「なるほど、そういうこと。刃による攻撃と衝撃波。隙を生じることのない、二段構えの連撃ってわけね！」
「その通り。この刃と衝撃波、攻防を兼ね備えた二重の武器がある限りお前の矢など恐れる必要はないのだ」
「あらそう。でも忘れてないかしら？ 今日の私の得物は弓矢じゃないの。このフレイムディスロックの力を見せてあげるわ！」
「ムダなこと、そんな棒っきれで何が出来るというのだ！ 食らうがいい、ウェーブバニッシュ！」
二本のスティックを構えるシャーロットを嘲笑い、二度目の連撃を放つアストラルＥ。先ほどは初見だったため回避したが、二度目は違う。
カラクリさえ分かってしまえば、恐れるような技ではない。シャーロットはタイミングを見計らい、スティックを振るって衝撃波にぶつけた。
「そんなもの跳ね返してやるわ！ ストライクパリィ！」
「！ なんだと！？」
「驚くのはまだ早いわ！ 今度はこっちの番よ、ディザスター・スマッシュ！」
ヘカテリーム相手にやったように、衝撃波を弾いてみせた。反射まではいかず消滅にとどまったが、アストラルＥの度肝を抜くのには十分だった。
相手が驚きで動きを止めた隙を突き、一気に距離を詰めたシャーロットは闇の魔力をスティックに宿らせる。そして、アストラルＥへ殴打の嵐を浴びせた。
「せいっ、ハッ！ どうかしら、攻撃速度は負けてないわよ！」
「クッ、やってくれるな！」
アストラルＥの身体を楽器に見立て、リズミカルに打撃を叩き込むシャーロット。彼女の脳裏では、アンジェリカとの修行風景が思い出されていた。
『いいですこと？ シャーロットさん。近接戦闘のスタイルは大まかに分けて二つありますわ。一つ、軽い威力の攻撃を連続で浴びせかけるスタイル。二つ、重く威力の高い攻撃をここぞの時に放つ一撃重視スタイルのですわ』
『なるほど、私に適性がありそうなのは……』
『先ほど身体能力を見せてもらった結果、前者だと判断しましたわ。わたくしのように格闘術を使うのもよろしいですが、ここはまず武器による戦いを学びましょう。というわけで、これを』
矢を跳ね返された後、一時間ほど身体能力の検査をされたシャーロット。彼女のスペックを確かめたアンジェリカに渡されたのが、フレイムディスロックだった。
『これは……スティック？』
『そう、単なるスティックでも極めれば巨漢をも打ち倒すことが可能となるのです。元から自分の身体の一部だったかのように、そのスティックを操れるようになりなさい。そうすれば、これまでより強くなれますわ』
『本当かしらね……まあ、やってみるわ』
それからずっと、シャーロットはスティックを用いた戦闘術の訓練をしてきた。就寝や食事、風呂の時も肌身離さず持っていろと命令されたほどだ。
その甲斐あって、今では六本目の指と言えるほど巧みにスティックを操ることが出来るようになった。修行の成果が、こうして彼女の血肉となり根付いているのだ。
「チッ、多少有利になったからといって図に乗るのはやめてもらおうか。私のウェーブブレードが効果を発揮するのが地面だけだと思うな！ ヌウン！」
「？ どこを狙って……キャッ！？」
凄まじい耐久力を誇るアストラルシリーズといえど、殴打の嵐は流石に堪えるらしい。アストラルＥは一旦後退し、今度は上空へ剣を振るう。
すると、何も無い虚空を剣が打ち衝撃波が発生する。不意を突かれたシャーロットは直撃を食らい、吹っ飛ばされてしまった。
「驚いたか？ 我がウェーブブレードはあらゆるものを打ち衝撃波を発生させられる。それが例え大気であろうともな」
「いたた……。やっぱり油断はダメね、今のは勉強代ってことで甘んじて受けるわ」
「強がりを。今の直撃を食らったのだ、見た目に変化はなくとも内部へのダメージは刻まれている。少しずつ蓄積し……お前を葬ってやろう」
「そうね、ちょっとお腹の奥が痛むし……これ以上やられる前に仕留めてあげる！」
アストラルＥが繰り出す衝撃波は、外傷ではなく体内へのダメージを与えるタイプのようだ。斬撃による追加ダメージを食らえば、シャーロットとてひとたまりもない。
これ以上戦闘を長引かせるのは得策ではないと判断し、再びアストラルＥの懐へ飛び込む。が、相手は素早く剣を身体に巻き付け、再びリング状に変化させる。
「お前がそう来ることは分かっている。こうしてしまえば攻撃出来まい！」
「お生憎様、傷付くのを恐れるほど私はヘタレじゃないのよ！ ユウくんや仲間たちのためなら、こんなもの恐れはしない！ ディザスター・スマッシュ！」
「グヌッ……！」
接近しての攻撃を封じる作戦に出たアストラルＥだったが、それがかえって自分の首を絞める結果となった。なにしろ、自分の唯一の武器を手放してしまったのだ。
シャーロットが臆病な性格なら効果抜群な作戦だったが、彼女はこの程度で怖じ気付くような肝っ玉の小さい女ではないのだ。
「どうしたのかしら？ おかしいわねえ、勝率百パーセントのはずなのに押されまくってるじゃない。それともここから逆転してくれるのかしら？」
「言わせておけば、この……グウッ！」
「邪魔なギロチンは叩き壊してあげる。これでもうお前は丸腰よ！」
連打を浴びせ、アストラルＥの武器を粉砕するシャーロット。これでもう、相手の脅威は失われた。後はトドメを刺すだけ。
「くっ、まずい……！」
「逃がさないわよ、アンジェリカさんから教わった『とっておき』の技で仕留めてあげるから覚悟しなさい！」
【モータルエンド】
スティックを消し、マジンフォンに搭載された新機能を使いトドメを刺す準備を整えたシャーロット。再びスティックを呼び出す、と思いきや。
なんと、アストラルＥを仰向けに抱えバックブリーカーの態勢に入る。まさかの攻撃方法に、アストラルＥは困惑することしか出来ない。
「ぐうおおおっ！？ な、なんだこれは！？」
「驚いた？ アンジェリカさんから教えてもらったとっておきの技よ！ これを食らって雪原という名のリングに沈みなさい！」
相手の首と太ももをクラッチし、頭の上に乗せて逃げられないようガッチリ抱え込んだシャーロットは勢いよくジャンプする。そして、頂点に達したその瞬間。
くるりと上下反転し、落下しながら肉体強化の魔法を自身にかける。そのまま雪原に相手を激突させ、自身の体重を一点集中させアストラルＥの背骨を粉砕した。
「ディザスター・ブリーカー・ドロォォォォップ！！！」
「がふあっ！ バカな、私がこんな負け方をするなど……」
背骨を砕かれると同時に、遠く離れた宇野のラボに保管されている脳をも消滅させられ……。アストラルＥはその機能を停止した。
「ふう、なんとか本番一発成功したわね。この技、修業中に一発で成功したことないのよね……私には、こういう体術は不向きだわ」
アンジェリカの強いプッシュを受け、地球にてプロレス技と呼ばれている体術を一通り学んだシャーロット。が、イマイチ相性がよくなかったらしい。
あまりこの技には頼らないようにしよう……と呟き、太陽の位置から方角を割り出して南へと向かう。マジンランナーを駆り、雪原を去って行った。
