73話─仇、再び現る
さらに二日が経ち、ユウたちはヘカテリームと死天王全員から修行を完了したとの認定証を授与された。数段パワーアップしたのを実感しながら、ユウはお礼を述べる。
『ヘカテリームさん、それにネクロ旅団の皆さん。この数日、ボクたちに手ほどきしてくださってありがとうございます』
「気にしないで、いい気分転換になったわ。イグレーヌと会わせてあげられなかったのが残念だけど、それ以外は上々よ」
「うむ、私から見ても見違える強さを得たぞお前たちは。これならば、確実に仇討ちを成せるだろう」
「ああ、ありがとよ。……待ってな、カミヤサトル。てめぇはアタシの手でぶっ殺してやるぜ」
いつの日か、双子大地に危機が訪れた時。いつでも駆け付け、事態の解決に協力することを約束したユウ。修行の日々に別れを告げて、クァン=ネイドラへと帰還する。
そんな彼らは、まだ知らない。そう遠くない未来に、再びカルゥ=オルセナに足を踏み入れる事態が訪れることを。英雄たちが集結する、大いなる戦いが起こることを。
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「はー、ひっさしぶりだな。なんかもう、何年も帰ってないような錯覚を覚えるぜ」
「デスデス、一週間近くしか離れてないのに懐かしく感じるものデスよ」
ニムテの街へと帰還したユウ一行。まずはマリアベルに連絡を取り、クリートたちの様子を確認することに。街を出て、マリアベルが来るのを待っていたが……。
「どこほっつき歩いてたんだ? てめぇら。まあいいさ、見つけちまえばこっちのもんだぜ。死にな、薄汚い未開種ども!」
「お、早速そっちから顔見せか。嬉しいぜ、さっさとブチ殺してやろうと思ってたからよぉ。なあ? カミヤサトル」
『アストラルBもいますね、今回はリベンジさせてもらいますよ!』
ユウたちを発見した神の目からの通報を受け、悟とアストラルBが転移魔法によりその姿を現した。いきなりの登場に、チェルシーは獰猛な笑みを浮かべる。
「フン、やれるものならやってみろ。CとDがすでにやられたことは把握している、援軍を呼んであるから覚悟しな」
「そういうことだ。来い! アストラルE、F、G、H!」
アストラルBは、仲間を四人呼び寄せる。これで数は六対五、悟サイドの方が人数で僅かながら上回ることに。乱戦に持ち込むべきか、分散して個々に戦うか。
判断を迫られたユウが、ふと新たに現れたアストラルたちを見ていたその時。見知った顔があることに、目を見開き驚愕する。
『ま、まさか……リリアル、さん?』
「あー、ユウくんだー。久しぶりだねぇ、元気そうにしてるじゃーん?」
「ユウくん、知り合いなの?」
『はい、パラディオンになる前に別の大地で組んでた仲間です。ボクを捨ててった人ですけどね……』
アストラルHとして改造された、かつての仲間……リリアルを見て複雑な表情を浮かべるユウ。リリアルもまた、不気味な姿に改造されていた。
体内にある銀色の骨格が見える透き通ったボディの上に、キカイで再現された生前の頭部が乗っかっているなんとも言えない容姿をしていた。
「なんだ、あのガキと知り合いか? ならHよ、お前とGにガキは任せる。いつも通りの手筈で殺せ」
「あーい、りょーかーい」
「他の連中は一人ずつ敵を分断しろ、あのオーガは俺が殺す。仲間に邪魔はさせん」
「ハッ、上等だぜ。タイマンしようってんなら受けて立ってやる!」
悟はユウたちをバラバラにし、一人ずつ撃破する方針のようだ。それならばと、受けて立つことを決めたチェルシー。修行の成果を見せてやろうと、やる気満々だ。
「やれやれ、勝手に決めちゃって……いいわ、なら私はあっちのギロチンが生えてるのを相手するわ」
「じゃ、私は向こうの胸に顔がある奴を仕留めようか。ふふ、腕に宿る白炎がたぎる……!」
「そいじゃーワタシはゆーゆーを苦しめたビリビリ野郎を倒すデスマス。今のワタシなら相性グンバツなのデス!」
「フン、しゃらくせえ。お前ら行け! 一人残らず殺せ!」
「ハッ!」
アストラルたちは転移魔法陣を展開し、自分の獲物を連れ別の場所にテレポートする。一人残ったチェルシーは、悟に背を向けて街から離れていく。
「ここじゃあニムテに被害が出る、来な。とっておきの場所に案内してやる。テメェの墓標を立てるのに相応しいトコだ」
「未開種風情が俺に勝てる気でいるのか。面白い、ついてってやるよ」
街から離れた場所で存分に戦おうとするチェルシー。彼女に同意し、悟も歩き出す……わけもなく。
「バカめ、んな誘いに乗るかよ! ソルブラストレーザー! ……なに!?」
「ハッ、後ろから不意打ちたぁトコトン腐ってやがるな。え? よーく分かった、テメェがそういう奴だってんなら強制連行するまでだ」
「あり得ん、貴様何をした? どうやって俺の攻撃を無効化しやがった!?」
胴体を狙った卑劣極まりない不意打ちが放たれ、チェルシーに直撃した。だが、驚くべきことにチェルシーは全くの無傷であった。
まさかの事態に驚愕し、どんな手品を使ったのか問いただす悟。が、当然チェルシーが答えるわけもない。小バカにした笑みを浮かべ、中指を立てる。
「知りたきゃテメェで考えな。アタシはテメェの母親でも教師でもねえ。……復讐者なんだからな!」
「! この魔法陣は……」
「テメェはどこにも逃がさねえ、これから向かうトコがテメェの墓場になるんだ。覚悟しやがれ、エレインの仇を討たせてもらう!」
「チッ、くだらねえことしやがって……。まあいい、俺が負けることはない。妹のところに送ってやるよ、未開種!」
一旦疑問は投げ捨て、チェルシーを殺すことに注力することにしたようだ。悟もまた中指を立て挑発する。そんな二人の足下に現れた魔法陣が、決戦の地へと誘った。
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「さむっ! なにここ……雪原? まさかルケイアネスに飛ばされたわけ?」
「そうだ……お前はここで死ぬ。この私……アストラルEの手で、無慈悲に……残酷に」
アストラルEによって転移させられたシャーロットは、ルケイアネス王国西部にある雪原地帯にいた。雪国には珍しい晴天だが、いつ吹雪いてくるか分からない。
天候が悪化する前に決着をつけるべきと判断しつつ、まずは敵の観察を行う。今回の敵もまた、アストラルシリーズの法則に則り珍妙な姿をしていた。
身体の右側が青、中央が白、左側が赤。俗に言うトリコロールカラーのボディの上に、左肩から右腰へと斜めにリング状のギロチンが装着されているのだ。
それだけでも奇妙極まりないのに、頭部はツルッパゲののっぺらぼうとくればそのデザインセンスを疑ってしまうのも仕方ない。
「……前から思ってたけど。お前たちを造った存在って、結構趣味が悪いわよね。あるいは壊滅的にセンスが無いかのどっちかだわ」
「同意はする。だが、ドクターを侮辱することは許さん。私の頭脳に蓄積されたデータでは、お前の得物は弓矢。すなわち、私に勝つ確率はゼロパーセントというわけだ」
「あら、ミサキから聞いたわよ。お前みたいなデータがうんぬん、確率がうんぬん言う奴は……そう、典型的なかませ犬だって」
「本当にそうなのか、確かめてみるがよい。もう一度言う、貴様が私に勝つ確率はゼロパーセントだ。ほんの僅かな勝率すら存在しないのだよ」
どこまでも冷徹に小バカにしてくるアストラルEにカチンときたシャーロット。ここはさっさと相手の勝算を潰してやるべきと、炎のスティック一式を呼び出す。
「言ったわね? なら、その発言を後悔させてやるわ! フレイムディスロック召喚! んー……タァッ!」
「ほう、データに無い武器か。面白い、だがお前の勝率がゼロであることに変わりはないぞ。そんな玩具では私は倒せん」
「しっかり覚えさせてもらったわよ、その発言。お前が負けた時に煽り倒してやるから覚悟しなさい!」
指の間にスティックを挟み、くるくると回転させながら腰を落として構えるシャーロット。対するアストラルEは、打面に大きなトゲが生えたハンマーを呼び出す。
「来い。大いなるアストラルの力をその身に刻んでやる」
「残念、刻まれるのはお前の敗北よ。この雪原に……」
【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】
「遺影を焼き付けてあげる。さあ、勝負開始よ」
悟率いるアストラル部隊との戦い。その初戦を飾るのはシャーロットだ。今、アンジェリカとの修行で会得した力が……解放される。




