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71話─成し遂げた者、成そうとする者

 ユウたちが修行を開始した頃。仇敵たる神谷悟は、廃墟となったサーズダイルに一人の人物を招いていた。彼と相対しているのは、中性的な顔付きをした、どこか耽美(たんび)な雰囲気を纏う人物だ。


 肩甲骨付近まで伸びた白い髪を持ち、赤地に緑の斜め格子模様が入る服を着ている。それだけでなく、その人物の背には……黒く染まった天使の翼が生えていた。


「まぁだレオンちゃんに言われた任務を達成出来てないようねぇ、サッちゃぁん? ダメよぉ、そんなノロマさんは嫌われちゃうわヨォ?」


「すいません、師匠。神の目を使って探してはいるんですがね、この世界のどこにも姿が見えないもんで……」


 中性的な容姿からは考えられない、酷いガラガラ声で捲し立てる翼人間。どうやら、悟の師であるようだ。弁明する悟に、翼人間はクネクネとしなを作りながら話をする。


「あらあら、忘れちゃったのかしラァ? そーいう時は、自分の足で探すの。いい? アタシが死んだ遙か後の時代にこんな言葉があるノヨ? ローマは一日にしてならず、っテネ!」


「……そういや、師匠は転生する前は古代ローマの皇て」


「その話はナシよ、そんなことまで忘れちゃったのかしらネェ? その腐りきった頭、カチ割ってやらなきゃならないかシラ?」


「! も、申し訳ありません! 次は気を付けます!」


 標的の探し方を伝えるなか、悟の一言で翼人間の雰囲気が変わる。物凄い殺気を含んだガラガラ声を受け、悟は平謝りすることしか出来ない。


「ま、いイワ。アタシの後を継いでトップナイトになったんだから、ヘマはしちゃダメよ悟ちゃん」


「心得ています、ベルメザ師匠。ターゲットを探してきます、ついでに地下に逃げた王都の生き残り共の捜索もしてきますよ」


「見つけたら殺さなきゃダメよん? いつも言ってるでショ? 薄汚い未開種は……」


「皆殺し。分かっていますよ、そんなことはね」


 最後にそう言葉を交わし、悟は廃墟となった宮殿を去る。一方、一人残った翼人間ことベルメザは、焼け焦げた壁に拳を叩き込み粉砕する。


「あー、イライラする! 思い出しちゃったワヨ、アタシがローマ皇帝やってた頃のことを……。ホント、今でも虫唾が走るわネェ。一人が好き放題やってたのを全部台無しにしてくれて……クソ市民どもメ!」


 リンカーナイツのメンバーの大半は、異世界転移によってテラ=アゾスタルにいた頃と変わらぬ存在としてクァン=ネイドラにやって来ている。


 だが、ベルメザは違う。以前ユウと義人が戦ったワーデュルスのように、ベルメザもまた地球の死者が異世界転生したことで生まれたのだ。


「……ったく、思い出したくもないワネ。憂さ晴らしに他の国にちょっかい出してきまショ。うふふふふ」


 ベルメザの前世の名は、ヘリオガバルス。古代ローマ帝国二十三代目の皇帝であり……後世にて『ローマ史上もっとも醜い欲望に満ちた、奇なる皇帝』として悪名をとどろかせる暗君だ。


 皇帝としての責務を忘れ、内に秘める倒錯した肉欲に溺れた挙げ句に反乱で失脚。怒り狂った市民に暴行を受け、最期は性器を切り落とされ命を落としたのだ。


「今度こそ、アタシは最高の栄華を極めてみせルワ。そのためには、もっともっと……多くの死を集めないトネ。あの黒く美しい太陽をもっと輝かせるたメニ……」


 廃墟の屋根に空いた穴から空を見上げ、ベルメザは呟く。その瞳には、おぞましい狂気の光が宿り……太陽の輝きを受け、爛々と輝いていた。



◇─────────────────────◇



「ッラァ! 食らいな!」


「うべあ! ってて……シャスティは強えなぁ、これでもう八連敗だぜ」


「ハハッ、年期ってもんが違うんだよこっちは。そう落ち込むこたぁねえよ。お前、いいセンスしてるぜ? アタシを追い抜くのはそう難しいことじゃないさ」


 悟が旅立ったのと前後して、カルゥ=イゼルヴィアでの修行も一つの区切りを迎えようとしていた。シャスティ&チェルシー組は、一度休憩にを取ることに。


 流石に修行中には酒は飲まないようで、シャスティはチェルシーにコーヒーを勧める。魔法でミル付きのコーヒーメーカーを呼び出し、ティータイムに突入する。


「はー、生き返るな。たまには酒以外もいいもんだぜ」


「そうだな、アタシもたまにはこういうモンを飲むのもいいと思う。……なあ、シャスティさんよ。一つ聞いていいか?」


「ん? いいぜ、親睦深めようや。何が聞きてえんだ? アゼルとのアッチの話でも聞くか?」


「いや、他人の夜の話は聞かねえよ……。アンタもさ、仇討ちをしたんだろ? 他人事に思えなくてさ、是非聞いてみたいなあって」


「ああ……なるほどな。いいぜ、遠い昔の話だが聞かせてやるよ」


 コーヒーを飲みながら、チェルシーは尋ねる。身内の復讐を成し遂げた先駆者たるシャスティが、如何にして勝利を掴んだのかを。


「もう四百年以上前になるか……。アタシはガキの頃スラムにおフクロと二人で住んでてな、貧しいながらも幸せに暮らしてた」


「そうなのか? その格好だからてっきり教会関係の家に生まれたのかと思ってたぜ」


「それは後で話す。で、ある日のことだ。スラムを大火事が襲ってな……崩れた家の下敷きになったおフクロを助けられず、アタシは逃げるしかなかった。……後で知ったのさ、その火事は悪意をもって起こされたものだってのをよ」


 遠い遠い昔、まだアゼルと共に悪しき者との戦いと旅をしていた頃。心の片隅に、かつて母を救えなかった後悔を抱いていた彼女は知った。


 大火を引き起こし、母の命を奪った者の存在を。その話を聞き、チェルシーは自分のことのように憤る。


「許せねえな……で、誰だったんだ? 犯人はよ」


「ゼルガトーレ。当時、アタシらが戦ってた悪の秘密結社【ガルファランの牙】の幹部の一人さ。そいつが部下を使って火事を起こして、スラムに住んでた大勢の人間を殺したんだよ」


「……で、そいつをぶっ殺してやったわけか。そのノスフェラトゥスの力を使って」


「いや? この力を開発したのはフィニス戦役の後だからな、当時は生身……この腕っぷしとハンマー一本で戦ってたのさ。仲間と協力してゼルガトーレをぶっ殺してやったわけよ! わははは!」


 ヤツの最期はスカッとするくらい惨めなものだった。そう口にしてシャスティは笑う。少しして、真面目な顔付きになりチェルシーにアドバイスを送る。


「なあ、チェルシー。先駆者としてこれだけは言っておく。痛みを一人で抱え込むな、孤独なままじゃいつか破滅しちまう。痛みを分かり合える仲間がいれば必ず……お前はやり遂げられる。明けない夜が無いように、復讐を成せるさ」


「……ありがとな、シャスティ。アンタの言葉、胸に刻んでおくよ。そうだ、アタシは一人じゃない。ユウやシャーロット、ブリギットやミサキがいる。力を合わせれば、必ずエレインの仇を……」


「ああ、その意気だ! よし、休憩は終わりだ。ここからはノフスェラトゥスの力を使うぜ、もう指一本動かせねえってくらい疲れるまでシゴいてやるから覚悟しな!」


「へっ、望むところだ!」


 休憩を終えた二人は、修行を再開する。復讐を成し遂げた者と、復讐を成し遂げようとする者。絆を育んだ二人は、互いの顔を見つめニッと笑った。



◇─────────────────────◇



 死天王との修行を始めてから二日後。ユウたちは一旦集合し、ヘカテリームと模擬戦闘をすることに。神谷悟の操る黒太陽対策に、似た戦術を取る彼女で予行演習するのだ。


「さて、この二日間でどれだけ鍛えられたのかを見せてもらうとしましょう。ユウ、貴方は見学よ。一足先に私の技を見ているから、ネタバレ対策をさせてもらうわ」


『分かりました、じゃあボクは……』


「ただ見ているのも暇だろう? 私たちが鍛えてやろう、四人がかりでな!」


『え゛』


「フッ、光栄に思うがよい。我ら死天王全員から一度に教示してもらえるのだ、何十回人生を繰り返そうがまずあり得ぬ幸福だぞ?」


『ちょ、ちょっとま』


「オーホホホ、ご安心あそばせ! 手取り足取りミッチリシッカリネットリグッチョあべば!」


「オメーは手付きがいやらしいんだよアンジェリカ!」


「阿呆は放っておけ、ではユウよ……行こうか」


『ひえええええ!!』


 シャーロットたちの成長を見ようと思っていたユウだったが、リリンを筆頭とする死天王に御神輿のように担がれ訓練エリアに連行されてしまった。


「……行ったわね。さ、始めましょう。貴女たちの修行の成果、見せてちょうだいな」


「ええ、望むところよ。今日の私は素手で行くわ、よく見ておきなさい……ニューパワーを!」


「フフフ、今のワタシはビリビリパワーでエネルギー大増量中デスマス! 絶好調過ぎて怖いくらいデスよ!」


「軽やかさを増した私の剣技、ご覧に入れよう」


「……やってやるぜ。さあ、来な!」


 ヘカテリームを前に、やる気満々のシャーロットたち。彼女らの修行の成果が、お披露目される。

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― 新着の感想 ―
[一言] 外道の師もまた腐れ外道か(ʘᗩʘ’) お外道さん撲滅の修行も最終段階か(゜o゜; 死天王(4人)VSユウ1人は流石に鬼だと言いたいが(٥↼_↼) 万が一誰かさんがユウにセクハラしようものな…
[一言] まぁユウならなんとかなるでしょ。グランザームにも鍛えて貰った訳だし、後は気持ちの面で負けなければ修行を成せれるよ。
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