67話─並行世界の入り口へ
ユウたちがヴェリトン王国にやって来た翌日。一行は蒸し暑いジャングルの中を進んでいた。何故こんな場所にいるのか、ユウには見当もつかない。
「なぁミサキ、なんでアタシらはこんな蒸し暑いジャングルの中を進んでるんだ? 魔女たちがいるのか?」
「そうだね、予定があれば魔女たちがいるだろう。かつてフィル様……シュヴァルカイザーが使っていた基地に」
「ってことは、その基地を目指しているわけね私たちは」
「ああ、基地にはカルゥ=イゼルヴィアに繋がるワープゲートがあるからね。それを借りるのが一番早いのさ、それ以外のルートじゃ下手すると手続きだけで数日かかる」
『手続きばっかりですね、この大地。まあ特殊な土地柄ですし、仕方ないんでしょうけどね……』
ミサキの説明を受けつつ、ジャングルを進んでいると突如視界が開けた。広けた土地の向こうに、断崖絶壁の大きな山がその雄姿を現す。
「オー、デッカい山デスね。テッペンからの眺めが最高だと思うデスよ」
『あ、ボク知ってます。あの山の形、確かテーブルマウンテンって言うんですよね』
「正解デス、ゆーゆーはおリコーさんデス」
『えへへ……』
前世の詰め込み教育を受けるなか、読まされていた地理の本にギアナ高地にあるテーブルトップマウンテンの写真があったのをユウは思い出す。
遙か上空からヘリで撮ったのだろう、深い木々の中にそびえ立つ雄大な大山を見て心をときめかせ……母親にサボるなと殴られたのを思い出し、複雑な気分になるユウ。
『綺麗な山ですねー。でも、この山を越えないと目的地には行けないんですよね?』
「目的地はあそこさ、あの山の中がまるごと旧シュヴァルカイザー基地……現ギアーズ技術財団の拠点になっているんだよ」
「山の中まるごと!? そいつは想像出来ねえなぁ、どんな風になってんだろ」
「中に入った瞬間はしゃぐのはやめてちょうだいね、チェルシー。ミュージアムで恥かいてるんだから」
「……気ィ付けやーす」
この山を迂回して進むものだと思っていたユウたちは、ミサキのまさかの発言に仰天する。ブリギットも驚いているあたり、ファティマやリオからは聞かされていないらしい。
ミュージアムでのチェルシーの振る舞いを見ていたシャーロットは、あらかじめ釘を刺しておく。が、効果があるのかは疑問符が付く。
「それにしても驚きまシタね、シュヴァルカイザー基地のことは聞いていまシタけど場所までは知らなかったノデ」
「まあ、この双子大地の最重要拠点の一つ……おや、向こうから出迎えが来てくれたようだよ」
『わ、おっきなカブトムシ!』
テーブルマウンテンへと歩き出したユウたちの元に、何かが近付いてくる。大きな羽音を立てながらやってきたのは、銀色のヘラクレスオオカブトだった。
が、よくよく見てみると生物ではなくキカイで出来ていた。ミサキ曰く、フィルが現役の頃から活躍している多目的昆虫型ロボ『つよいこころ』とのことらしい。
「おー、こいつはすげぇな。どんな構造してるんだろ?」
『ピピピピ……生体スキャン完了、敵対的生命体デハナイコトヲ確認。オ帰リナサイマセ、ミサキ様。本日ハドノヨウナゴ用件デショウカ?』
「驚いた、喋るのねこの子。凄い技術だわ」
「やあ、久しぶりだねつよいこころ……君は七十二号か。イゼルヴィアに行きたいんだ、基地のゲートを使わせてくれないかい?」
『カシコマリマシタ、代表ニ使用許可ヲ申請シマス。二十分ホドデ完了シマスノデ基地ノ中デオ待チクダサイ』
「だってさ。行こうか、茶菓子くらいは出てくるから期待していておくれよ」
『分かりました、それじゃあさっそ』
「行かせないんだなー、これが。もうそろそろいいでしょー、やっちゃおD!」
「ああ、いい加減追跡するだけなのは飽きたからナ!」
つよいこころ七十二号と共に、基地へ向かおうとするユウ一行。だがその時、彼らを尾行していたアストラルCとDがついに牙を剥く。
ハエの姿から元に戻り、ユウたちが驚いて反応出来ない間に仕留めようと動く。アストラルたちは片腕を槍に変え、攻撃するが……。
「早速だけど死んじゃえー!」
「その命、貰ったァ!」
『わわわ、急いで変身を……』
「その必要はないよ、侵入者にはここで消えてもらう! マナリボルブ!」
「うぐおっ!?」
「なんだ、貴様ハ!?」
上空から勇ましい声が響き、魔力の弾丸が二発飛来する。アストラルコンビは胸を貫かれ、たまらず後退しつつ攻撃してきた者に問いかける。
降りてきたのは、ユウたちがミュージアムで見たシュヴァルカイザーアーマーそのものだった。ただ一つ違うのは、頭が露出していること。
漆黒のインフィニティ・マキーナを纏うのは、ウルフカットにした黒髪を持つ少年だった。ユウたちを守るように立ち、少年は己が名を名乗る。
「僕の名はウィンゼル・アルバラーズ。シュヴァルカイザーを継ぐヒーローだ!」
『えっ、フィル様の子孫!?』
「これは……とんでもない人と出会ったわね、こんな状況で」
現れたのは、なんとフィルとアンネローゼの血を継ぐ現代のヒーローだった。つよいこころ七十二号はウィンゼルの肩に止まり、何かを伝える。
「なるほど、そちらの方々は……。ちょっと待っててくださいね、今侵入者を片付け」
「こっちを無視するなんていい度胸だなー! 隙だらけだぞコラー!」
「お前も同じ目に合わせてやるぞオラー!」
「うるさいな、今大事なお話をしているんだよ。部外者は黙ってて! V:グランセイバー!」
「あぎゃー!!」
敵を前にして、ユウたちに話しかける姿が気に食わなかったらしい。相手の話を遮り攻撃を仕掛けるアストラルコンビだったが、ウィンゼルが呼び出した剣の一撃で大破してしまった。
「おお、すげぇ! アストラルどもを一撃でのしちまったぜ!」
「フィル様も相当な剣の使い手と聞いていまシタが、子孫の方もかなりの腕前デスマス」
「ふふ、私が目標としている方だからね。彼は十二歳にして、私よりも遙かに強いのさ」
『え、ボクより二つ上ですか!? もっと年上だとばかり……』
少なからずユウたちが苦戦させられたアストラルシリーズを、初見で大破させたウィンゼルの実力に舌を巻く一同。対するアストラルコンビは、ボロボロになった身体を引きずり退散していく。
「ちきしょー、今回は引き分けってことにしといてやるー! 次はぶっ殺すからな、覚えてろー!」
「この借りは何百倍にもして返してやるからナ! 俺たちを甘く見てると痛い目に合うってことを教えてやるゾ!」
「なーにが引き分けにしといてやる、だよ。まったくもう。……お待たせしました、侵入者は撃退しましたよ。久しぶりだね、ミサキ姉さん」
負け惜しみを言いながらジャングルの中に消えた敵に呆れた後、ウィンゼルはユウたちの方に向き直る。そして、既知の仲であるミサキに挨拶をした。
「やあ、相変わらず惚れ惚れするような強さだねゼル。今日はイグレーヌはいないのかい?」
「うん、イルはルナ・ソサエティの方にいるよ。新型マキーナのテストをするためにね。ところで、この方たちは?」
「彼らは私の同業者さ。紹介しよう、この子は北条ユウくん。偉大なる盾の魔神、リオ様の末子さ」
『ユウといいます、危ないところを助けてくれてありがとうございます。ウィンゼルさん』
「なんと、リオ様のご子息ですか! 僕のことはゼルって呼んでください、親しい人はみんなそう呼んでるので」
ミサキを介し、お互い自己紹介をするユウたち。彼らの来訪目的を知り、ウィンゼルはうんうんと頷く。
「なるほど、魔女たちに修行をつけてもらおうと……。そういうことなら、僕がイゼルヴィアに連れてってあげますよ。ジュディ代表にはつよいこころを通して通達しとくので」
『いいんですか、ありがとうございます! ところで、ミサキさんからネクロ旅団が演習で来るって聞いたのですが……』
「彼らにも修行の相手をしてほしいってことですよね? いいですよ、僕の方から頼みますから。戦うのが好きな人たちが多いので、きっと了承してくれますよ」
「何から何まで面倒みてくれてありがたいわね、感謝しますわ」
「いえいえ、小さな人助けも僕たちヒーローの仕事ですから。困っている人がいたら手を差し伸べるべし、フィル様の教えです」
ウィンゼルが魔女たちの元に連れて行くと申し出たため、ありがたく厚意を受けることにしたユウたち。彼が作り出したゲートを通り、ついにもう一つの大地に向かう。
その先でどんな出会いがユウたちを待ち受けているのか。それはまだ、誰にも分からない。




