66話─ようこそヒーローの故郷へ
数十分後、セントラルゲート内での入界審査をパスしたユウたち。ヴェリトン王国の首都、クラウナーダへと無事到着することが出来た。
『無事に審査を終えられましたね。それにしても、ずいぶんと大きな街ですねここ』
「百年前に旧首都が大地震で壊滅してしまってね、遷都して造り直したのさ。アンネローゼ様の生誕地にね」
「ほー、だから背中に羽根くっつけてるのがたくさんいるのか」
ミサキ曰く、アンネローゼが変身するヒーロー、ホロウバルキリーを讃えるため街は白を中心にした色合いになっているらしい。
偉大なヒーローにあやかりたいのか、道行く人々は翼の飾りを背中にくっつけて歩いていた。邪魔にならないのだろうか、とユウは疑問を抱く。
「それで、魔女さんたちのところにはどうやって行くの?」
「特定のポイントから移動出来る……けど、その前に一カ所立ち寄りたいところがあるんだ。寄り道していいかい?」
『ええ、別に構いませんよ。実家に里帰りですか?』
「いや? 修行が終わるまでは帰ったらいけない決まりでね。行きたいのは別の場所……『インフィニティ・マキーナ記念ミュージアム』さ」
魔女たちのいるカルゥ=イゼルヴィアに行く前に、一同はミサキの希望で街の中心部にあるミュージアムへ寄り道することになった。
しばらく大通りを進むと、大きな建物が見えてきた。ミサキの使うダイナモギアの前身たる装具、ダイナモドライバーとその使用者たちについての展示を行うミュージアムだ。
「オー、いつ来ても人がいっぱいデスね」
「え? ブリギットは来たことあるの?」
「まだ修業中だった頃、おシショー様に社会勉強とシテ連れてこられたのデス。展示品や資料を見たり、体験コーナーで遊んで身に着けたり」
「体験コーナー!? んな面白そうなもんあるなら先に言えよ! ちょっとやってこうぜ!」
「子どもみたいなこと言い出すんじゃないわよ、まったくもう」
それまで興味なさそうだったのに、体験コーナーのワードに反応してはしゃぎ出すチェルシー。彼女に呆れつつ、シャーロットも内心興味を引かれていた。
入館料を払い、中に入った一同を出迎えたのは巨大な立像二つだった。片方は、闇より濃い漆黒のヒーロー……シュヴァルカイザー。
もう片方は、白き翼を持つ戦乙女……ホロウバルキリーのアーマーのレプリカだ。足下には観光客が集い、わいわい賑わっている。
「おー、こりゃデカ……って、なんで拝んでんだよミサキ」
「里帰りする度にこれをやるのが我が家の習わしなのさ。ご先祖様と共に戦った英雄にあやかって、その力を借り受けるんだ」
『なるほど、ボクの兄さんや姉さんがパパを拝んでるのと同じ理屈ですね』
「それはそれでもうカルト宗教なのよユウくん」
立像を拝むミサキをきっかけに、そんなやり取りをするユウたち。ミサキの目的はこれで終わりとのことだったため、せっかくだからとミュージアム見学を続けることに。
立像のあるエントランスを通り抜け、案内表示に従って通路を進む。通路の壁際には、ダイナモドライバーのレプリカが飾られていた。
「えーとなになに……『ダイナモドライバーの開発者たるアレクサンダー・ギアーズとフィル・アルバラーズが生み出したもっとも偉大な発明。それはドライバーに内蔵されたダイナモ電池である』ですって。それって何? ミサキ」
「簡単に言うと、魔力を無限に生み出すミニサイズの永久機関だね。インフィニティ・マキーナを稼働させるのに必要な魔力を捻出するものさ」
「さりげなく凄いこと言ってるわね!? この小さなベルトの中にそんなとんでもないものが……」
「リオ様やおシショー様も、ダイナモ電池を再現しようとイロイロ実験してマスが上手くいってないみたいデス」
「まあね、電池の製作方法はギアーズ博士が設立した技術財団が秘匿してるから。例え相手が魔神でも解析からの再現は無理さ」
展示品を見ながら、その技術力の高さに舌を巻くユウたち。奥の方に進むと、フィルやアンネローゼの銅像が飾られているフロアにやって来た。
「このエリアには、五つある初代インフィニティ・マキーナの装着者についての解説がされてるんだ。ちなみに、フィル様とアンネローゼ様以外はまだ現役だよ」
『え、そうなんですか?』
「そう、この三人……『デスペラード・ハウル』の使用者であるイレーナ様、『クリムゾン・アベンジャー』を装着していたジェディン様、そして『ラグジュアリ・ミッドナイト』の使い手であるレジェ様がね。まあ、イレーナ様はこの大地を去ってしまったけど」
「ああ、その人なら知ってるわ。新しい序列四位の魔戒王、クラヴリン陛下の奥さん……だったはずよ」
「……何がどうなってそんな変遷をたどってんだ? その人」
「それについては解説文を読んでくれたまえ。口で説明すると長くなる」
フロアに飾られている立像は五つ。ミサキの先祖はダイナモドライバーの使い手ではないため、別室にて立像が展示されているらしい。
ユウたちが見物していると、一人の男がフロアに入ってきた。ユウたちに気付いた男は、軽く会釈してフィルの立像を眺める。
「おっさんも観光客なのか?」
「ん? ああ、ツアーでなく個人でだがな。そういうそっちも観光かな?」
「まあ、そんなとこね。小規模ツアーってやつよ」
男にチェルシーが声をかけると、相手が返事をしつつ逆に問うてきた。自分たちの正体をバラすと面倒なことになりかねないため、シャーロットがそれとなく誤魔化す。
「なるほど。……ここに来るまでに展示されていたダイナモドライバーとインフィニティ・マキーナのレプリカ。実に素晴らしいものだよ。君らもそう思うだろう?」
『ええ、そう思います。この大地を守るために戦った偉大な人たちの歩みを、こうして学べるのはいいことですよね』
「フッ、君はまだ幼いのに大事なことをよく分かっているな。親御さんの教育がいいのだろう」
『えへ、それほどでも……』
男としばし歓談した後、ユウたちは奥のフロアへと進む。一人残った男……シモンズ・ポトクリファは小さな声で呟く。
「さて、ミュージアムのセキュリティチェックは終わった。後はタナトスからの連絡を待って、このミュージアムに展示されている天と地のダイナモドライバーを奪うだけだ」
不穏な言葉を残し、シモンズは来た道を引き返す。ユウたちはまだ知らない。そう遠くない未来、再びこの男と出会うことになる。
双子大地を脅かす敵として。
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「いやー、楽しかったな! ガラにもなくシャツなんて買っちまったぜ!」
『チェルシーさん、たくさん買いましたね……これ、どうします?』
「お土産は私の方でなんとかするよ。さ、観光はもうおしまい。ここからは本来の目的を果たそうか」
「そうね、気を引き締めていきましょ」
一時間後、ミュージアムを堪能しお土産をしこたま買い込んだユウたち。Tシャツやアクセサリー、お菓子……予想以上の量を買い、ご満悦だ。
ついついこのまま帰りそうになるも、それでは本末転倒だ。カルゥ=オルセナにやって来た本来の目的を果たすため、行動に移ることに。
まずはお土産をミサキに頼んで観光客専用の倉庫に運んでもらい、それから改めて魔女たちのいるもう一つの大地へと向かう。
『さあ、行きますよ! 目指せ、魔女さんたちのところ!』
「おー!」
修行に向けてやる気を見せるユウたちを、少し離れたところから二匹のハエが監視していた。ミサキにくっついてやって来た、アストラルCとDだ。
小さな不穏を抱えつつ、ユウたちはミュージアムを去るのだった。




