65話─遙か遠き異郷の地へ
二日後、離宮を訪れたユウたちはクリートやリティアに先日話したことを聞かせる。宿で話し合いをした翌日にユウとシャーロットがコーネリアスにコンタクトを取り、了承を得られたのだ。
「より安全な場所に、生き残りの氷狼騎士団共々避難……ですか」
『はい、この離宮も厳重な警備が敷かれていますが、相手はトップナイト。それを易々と突破してきかねませんから』
「マリアベルのおば様に頼んで、異空間に浮かぶアルソブラ城への滞在許可をいただいてきました。そこならどんな異邦人も入り込めません、安全性は保障しますよ」
ユウやシャーロットのアプローチを受け、リティアはアルソブラ城に居を移すことを決めた。今の彼女には、クリートを守ることが最優先事項なのだから。
「これからおば様がここに来るので、まずお二方に避難していただきます。その後、他の場所にいる騎士団の方々を」
「わたくしがお迎えしに向かいます。ごきげんよう、ミス・リティア。わたくしがマリアベルです、以後お見知りおきを」
『わひゃっ、もう来たんですか!?』
ユウやシャーロットとリティアが話していると、突然応接間に扉が現れた。扉が開き、マリアベルが姿を見せ優雅に一礼する。
予想よりも早すぎる到着に、思わずユウは驚いてソファーから転がり落ちてしまう。それを見て、闇の眷属のメイドはクスクス笑う。
「ええ、わたくしは何事も迅速果断に行うのがモットーですので。話はお嬢様から聞いています、お仲間の方々はどちらに?」
「え、あ、はい。別働隊と従騎士たちはすでに合流し、フェダーン帝国の北部にある都市バズーマにいると魔法石で連絡がありました」
「なるほど、では座標を調べそちらに向かいます。さ、どうぞアルソブラ城へ。お客様の訪れを歓迎します」
とんとん拍子に打ち合わせを終え、リティアは部屋で昼寝しているクリートを迎えに行く。寝ている王子をおんぶし、扉の向こうへと消えた。
「おば様、協力していただきありがとうございます」
「いえ、役に立てたようでなにより。ですがタダで、とはいきません。貸し一つですよ、お嬢様。いずれ何らかの形で借りを返していただきますからね?」
「……はぁい」
『ボクたちが協力出来ることなら、なんでもお手伝いしますよ!』
「ふふ、頼もしいですね。それではわたくしはこれにて失礼致します」
何やら不穏な言葉を残し、マリアベルも扉を潜る。扉が閉まり、消えた後。ユウとシャーロットはティアトルルの宿に戻った。今度は、彼らが旅立つ番だ。
「やあ、お帰り。やるべきことは終わったかい?」
『ええ、二人を無事マリアベルさんに託しました。これで、あの傷の男は手出し出来ません』
「うんうん、それはよかった。よし、次は私たちだ。すでにチェックアウトはしてある、街の外に出よう」
宿に残っていたチェルシーとブリギット、ミサキらと合流したユウたち。ティアトルルを出た五人を、遙か上空から神の目が監視していた。
「今度は全員でお出かけか。こりゃ何かやるっぽいな……よし、行けアストラルC、D。あいつらを追跡しろ」
「はいはい、お任せだよー」
「チェンジ、リトルフライモード!」
魔法の水晶を通して監視映像を見ていた悟は、直感でユウたちが何かをしようとしていることを見抜く。即座にアストラルたちに命じ、ハエに変身した彼らを転移魔法で送り出した。
「さぁて、どうなることかな……っと、今のうちに師匠に会ってくるか。あっちはどれくらい街を滅ぼせたかな……。B、留守番してろ。俺は少し出掛ける」
「はいはい、行ってこい」
彼らを送り出した後、悟は廃墟となった王宮を出てどこかへと向かう。それを見送った後、アストラルBは横になって昼寝を始めた。
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「さて、ここら辺でいいかな。みんな下がってくれたまえ、今からカルゥ=オルセナに行く準備をするからね」
「なあ、一つ聞いていいか? そこに行くのってどうやるんだ? 普通の大地みたいにポータルとかで行き来するのか?」
「まさか、そんな簡単にはいかないよ。なにせ、並行世界と直接繋がる唯一の大地だからね。何重もの結界で守られてる、入るには『コレ』がいるのさ」
チェルシーの素朴な疑問に答え、ミサキは愛用しているマジンフォン……もといダイナモギアを見せる。画面には格子状のマップが浮かんでおり、忙しなく点が移動していた。
「マジンフォン……いえ、ミサミサが使ってるのはダイナモギアでシタね」
「そうさ、この世でただ一つ……私だけの装具さ。これに内蔵されている座標特定機能を使って、複数の大地を経由しながらカルゥ=オルセナに行くのさ」
『随分と回りくどいことをするんですね?』
「まあね、そうしないとネズミが簡単に入り込むから。双子大地には余所に渡しちゃいけないものがたくさんあるからね、ふふふ」
そんな話をしている間に、座標の特定が終わったようだ。ミサキはユウたちを手招きして、自分の側に寄らせる。いよいよ、彼女の故郷に旅立つ時が来た。
……が、この時ユウたちは気付かなかった。すでにハエに変身したアストラルCとDが到着し、ミサキの服にくっついていたことを。
「さあ、準備は出来た! 行くよ、カルゥ=オルセナにね!」
『わわわわわわわ……!!!』
「へっ、いよいよだな。楽しみだ!」
ダイナモギアを中心に空間の歪みが発生し、ユウたちはそれに呑まれ姿を消した。遙か遠い異郷の地へ、パラディオンたちは旅立っていくのだった。
◇─────────────────────◇
「はい、到着。ここがカルゥ=オルセナにある国の一つ、ヴェリトン王国。偉大なるヒーロー、ホロウバルキリーことアンネローゼ様生誕の地さ」
『はらひらほれ……め、目が回りました……』
数十分後、ユウたちはいくつもの大地を経由してカルゥ=オルセナに無事たどりつくことが……。
「ちょ、ちょっと待って……ごめん、限界……うらおええっぷ!」
「おー、見事に吐いてマスね。ゲロイン誕生デスよ」
「オメーはいいよな、自動人形だから空間酔いしな……おええーっ!」
……出来なかった。激しい空間の連続移動に耐えられず、シャーロットとチェルシーが嘔吐してしまった。故郷で訓練を受けたユウや慣れているミサキ、特殊な種族ゆえに耐性のあるブリギットは平然としていたが。
【メディックモード】
『えいっ、ヒーリングマグナム! 二人とも、大丈夫ですか?』
「ああ、おかげで吐き気が収まったぜ。ありがとよ、ユウ。にしても、ここはどこだ? なんか広い庭? だけどよ」
「ここはセントラルゲート、正規の手順を踏んでやって来た外界の者が最初にたどり着く施設さ。ここで入界手続きをしてから、ヴェリトン王国の首都に出るんだ」
メディックマガジンの力でシャーロットたちの不調を治し、魔法で吐瀉物を消し去るユウ。回復したチェルシーは、周囲をキョロキョロ見回す。
彼女たちがいるのは、一面に色とりどりの花が咲く庭のような場所だった。ミサキが言うには、セントラルゲートなる場所の中庭らしい。
「ほーん、それって終わるまでどんくらいかかるんだ?」
「私が一緒だからね、身元を保証するから一人あたま三十分くらいで終わると思うよ。ちなみに私がいない場合は半日はかかるよ」
「そんなに!? じゃあミサキには感謝しないとね」
「ふふん、たっぷり感謝してくれたまえよ」
偉そうに胸を張るミサキを先頭に、遠くに見える建物を目指すユウたち。遙か遠い地で、ユウたちはどんな出会いを得るのか。ほれはまだ、誰にも分からない。
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