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64話─仇討ちの前準備

「……あの日、私たち氷狼騎士団(フェンリルリッター)は王子の見聞を広めるため外遊をしていました。その帰り、いよいよ王都に着くというところで。見たのです……サーズダイルの上空に浮かぶ、禍々しい黒き太陽を」


『黒い、太陽……』


 ユウたちに、リティアは語る。サーズダイルが如何にして滅びたのかを。クリートを抱き寄せながら、静かに話を続ける。


「私たちは見ました、黒い太陽から熱波や光線が雨のように降り注ぎ……街を破壊し、溶かしていくのを。双眼鏡で覗き見ていただけですが、まさに地獄としかいいようのない光景でした」


「確かに、想像すればするほど恐ろしいな。そのような攻撃なら、サーズダイルが壊滅するのも頷ける」


「恥ずかしい話ですが、私はその光景を見て部下たちに撤退……いえ、貴国への亡命を指示しました。人智を超えた光景に、恐怖を抱いてしまったのです。護国の騎士であるというのに……!」


「リティアさん……」


 自身の不甲斐なさを悔い、絞り出すようにそう告げるリティア。黒い太陽の正体は、恐らくは神谷悟のチート能力だろうと推察するユウ。


 騎士とはいえど、パラディオンではないリティアが怖じ気付き逃げてしまうのも仕方のないことだった。シャーロットが同情するなか……。


「ん? 待てよ、あんたらは外から見てたんだよな? なら、王様が死んだかどうかは分からねえんじゃねえか? ワンチャン生き延びてるかも……」


『それはあり得ません。クリート殿下には告げられないので、知っているのはクラネディア陛下だけですが……偵察中に見たのです。黒太陽の下に浮かび、王と王妃の遺体を弄ぶ男を』


 少しでもクリートの慰めになれば、とチェルシーがそんな憶測を口にする。だが、それは即座にリティアによって否定されてしまった。


 クリートに聞かれないよう、彼以外に念話で残酷な真実を告げる。人の道を外れた悟の所業に、チェルシーだけでなくユウも完全にブチ切れたらしい。


『……ボクはもう、頭にきました。そんな外道は許せません、パパたちに代わって裁きを下してやります!』


「ユウ様……頼もしいお言葉、ありがとうございます。幸いにして、氷狼騎士団(フェンリル)は私以外にも生き残った者たちがいます。つい先日分かったのですが、別行動していた部隊と従騎士の一団が別ルートで落ち延びていたんです。全員で協力しますよ!」


『でも、行動に移る前に少し時間をいただけませんか? 黒太陽を操る男は、アストラルBという部下を従えています。対抗するために修行したいんです』


 リティアに協力を表明しつつ、実際に行動するまで時間がほしいと告げるユウ。グランザームとの修行で強くなったが、それは彼一人だけ。


 悟やアストラルB、そしてまだ見ぬ強敵と渡り合うには仲間たち全員が強くならなければならない。そう考え、修行をしようと考えたのだ。


「……殿下、如何致しましょう」


「ぼく、まつよ。まつのはとくいだから、きにしないでください。ちちうえたちのかたきを……どうか、おねがいします」


『ええ、約束します。北条ユウ、拳と銃の魔神として……。ルケイアネス王国を滅ぼした不届き者に、必ず天誅を下してやりますから』


 自分よりも幼い王子に、ユウは力強く誓うのだった。



◇─────────────────────◇



「ゆーゆー、あんなカッコイイこと言ったはいーデスが。修行先のアテなんてあるんデス? グランザーム様は鎮魂の園に戻っちゃったんデショ?」


「そういうことなら、普段ならお父様が喜んで協力してくれるだろうけど……。今はボルジェイ亡き後の新生理術研究院の動向を見張るのに忙しくてちょっと無理かも……」


 クリートやリティアとの話し合いを終え、ティアトルルに戻ってきたユウたち。クラネディアが手配してくれた宿の一室で、顔を付き合わせる。


 すでにグランザームは死者の世界に戻り、コーネリアスも修行に付き合えるような状態ではない。リオたち魔神一族はウォーカーの一族狩りに忙しく、手一杯。


 ユウたちの修行に付き合ってくれる者はいない、と思われたが……。


「フッ、そんな悩みを解決する方法が一つあってね。聞きたいかい? 聞きたいだ……いてっ」


「もったいぶってねーで早く言えよ、気になるだろ!」


「小突かないでくれたまえ、まったく。なぁに、簡単なことさ。私のご先祖様やフィル様たちが暮らしていた大地に行けばいい。そこになら協力してくれる者が大勢いるさ」


『ミサキさんのご先祖様が暮らしてた大地……ああ、なるほど。カルゥ=オルセナという大地ですか』


 問題をまるっと解決する方法を、ミサキが提示してきた。フィルやアンネローゼの故郷に行けばいい、彼女はそう告げた。


「カルゥ=オルセナねぇ。名前は知ってるけど、行ったことはないわね」


「ならなら、ワタシが教えるデスマス。ブリペディアでおベンキョーの時間デス」


「なんだい、そのウィ○ペディアを丸パクリしたようなのは」


「コホン、カルゥ=オルセナとは世にも珍しい()()()()()()()()()()()大地なのデスよ」


「……無視されると寂しいね」


 ちょっとしたコントを挟みつつ、ブリギットが解説を行う。三百年前に活躍したヒーロー、フィルとアンネローゼの故郷。そこは、あまりにも特異な場所だった。


『並行世界と繋がっている……ですか』


「デスデス。『もしも』の可能性をたどり、まったくの別物になったカルゥ=オルセナ……その名をカルゥ=イゼルヴィアというのデス。双子大地と呼ばれているそれらは、自由に行き来が可能なのデスマス」


「お父様から聞いたことがあるわ、そのカルゥ=イゼルヴィアには魔女と呼ばれる人たちがいるって。その人たちに協力して、修行相手になってもらおうってことね? ミサキ」


「その通りさ。それだけじゃないよ、なんと今双子大地にはネクロ旅団が合同演習のために来ているんだよ。彼らにも協力してもらえば、より強くなれると思わないかい?」


 ミサキ曰く、数日前に故郷から安否を訪ねる手紙が届いたという。その手紙に、ネクロ旅団が来ていることが記されていたのだ。


 そのことをふと思い出したミサキは、近況報告も兼ねて一度故郷に戻って修行相手を探そうと考え付いたのである。


「どうだい? 我ながらいいアイデアだと思うけれど」


『そうですね、ボクは賛成です。ただ……ボクたちがいない間に、敵が動く可能性があるのが怖いですね。クリート王子まで殺されてしまうようなことになったら……』


「それなら、マリアベルのおば様に私が掛け合うわ。騎士団の生き残りの人たちも含めて、みんな保護してくれるよう頼んでみる」


『ありがとうございます、シャロさん。そうと決まれば、すぐ行きましょう。ボクも一緒にお願いしに行きますから』


 とんとん拍子に話が進むなか、チェルシーは一人考え込む。ユウたちには有って、自分には無いモノについて思考を巡らせていた。


(……ユウやブリギットにはリオ様たち魔神の一族がいて、シャーロットにはコーネリアス王がいる。ミサキにも頼れる奴がいるっぽいし……アタシだけ、こういう時に頼れる身内がいねえなあ)


 チェルシーの両親は、すでに天寿を全うしてこの世を去っている。妹のエレインは悟に殺され……彼女にはもう、身内と呼べる者が一人もいない。


 多くの縁者に囲まれたユウやシャーロットらを見て、少し寂しさを覚えてしまったようだ。だが、即座にそんな弱気な思考を振り払う。


(いけねえ、今んな事を考えてる場合じゃねえんだ。あのクソ野郎をぶっ殺すための力を得るんだ、まずはそれを最優先にしろアタシ! 黄昏れんのは全部終わってからだ)


 神谷悟討伐に向け、ユウたちは前に進んでいる。ならば、自分もそうしなければ。そう思考を切り替え、来たる修行の始まりに意識を向けた。



◇─────────────────────◇



「一向に来ないな、え? 神谷。予想が外れたな、案外向こうも冷静なようだぞ」


「っせーな、それくらい想定してんだよこっちは。乗り込んでこねえならこねえで、潰す方法はいくらでもある。俺はまだここを動けねえからな……『代役』を行かせるか」


 その頃、廃墟と化したサーズダイルの王宮に悟とアストラルBの姿があった。待てど暮らせどチェルシーが来ないため、プランを変えることにしたらしい。


「来い、アストラルC! D!」


「呼んだかな? やれやれ、Bが言った通りトップナイトは人使いが荒いねー」


「嫌になるよネ、ロードージョーケンの改善を求めるヨ」


 悟が指を鳴らすと、新たなるアストラルたちが現れる。Cと呼ばれた方は左の上半身が、Dと呼ばれた方は右の上半身が筋繊維剥き出しの人体模型のような姿になっていた。


 それ以外の部位は凹凸の無い鉛色の液体金属で覆われており、顔も両目しか存在しない無機質な造形になっている。彼らを刺客にするつもりのようだ。


「何故俺を行かせない? 不安か?」


「お前は切り札として温存しておきたい。パラディオンどものせいで、実力のあるカテゴリー4から6の奴らがめっきり減ったからな」


「ならいい。C、D。行け、例のガキどもがどこに行こうと逃がすな。追跡して始末しろ」


「はいはい、お任せー」


「任せロ」


 修行に臨もうとしているユウたちに、刺客が襲いかかろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 見た目は残虐ファイトのバーサーカーだけど能力は広範囲殲滅か(٥↼_↼) でもでも黒い太陽なんて物を使う輩だし(ʘᗩʘ’) 本家太陽の王でもあるネクロ旅団が黙ってないだろ(⌐■-■)
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