62話─仇敵出現
「っらぁ! 食らいな、タイタンズハンマー!」
「う……グアアアアア!!」
シャーロットへのお仕置きが執行されてから、五日が経った。この日も、ユウたちはいつものようにリンカーナイツ討伐に精を出していた。
分散して敵を狩っていたチェルシーは、無事相手を仕留め満足そうにしていた。そろそろユウたちと合流しようとした……その時。
「よお、やっと見つけたぜ。あっちこっちテレポートしまくった甲斐があったな。覚えてるか? 俺のことを」
「!? その頬の傷……エレインを殺したクソ野郎! 忘れるわけねえだろ……テメェの方から来てくれるたぁ、嬉しい誤算だぜ。妹の仇を討たせてもらうぜ!」
「フン、ウザッてぇ野郎だ。てめぇはさっさと死ね、薄汚い未開種めが」
チェルシー抹殺の使命を帯びた神谷悟が、その姿を現したのだ。思いがけず妹の仇と邂逅することとなったチェルシーは、殺意に満ちた声を出す。
それに対し、悟は心底イライラしているらしくトゲトゲしい言葉で罵る。お互いに憎悪をぶつけ合い、いざ戦いを始めようとした……次の瞬間。
『あ、いたいた! チェルシーさーん、そろそろ帰り……誰ですかその人ー!?』
「ユウ!? ちょうどいい、手伝ってくれ! あいつは妹の……エレインの仇だ!」
「このガキは久音とユージーンを倒した……ふうん、面白え。気が変わった、今日は殺しじゃなくて遊びにしてやる」
チェルシーを探しに来たユウが現れた。それを見た悟は、舌打ちし背を向ける。いざ戦闘開始、と意気込んでいたチェルシーは思わずツッコミを入れた。
「ハァ!? 待てやテメェ、そりゃどういう意味だ!? あんなに殺る気満々だったじゃねーか!」
「あのガキの力を見たくなったのさ。行け! アストラルB!」
「やれやれ、人使い……いや、アストラル使いが荒いな。まあいい、出番なら戦うまでだ」
トップナイト二人を撃破したユウの実力に、興味が湧いたらしい。自分の代わりにと、第二のアストラルを召喚してから遙か上空へと浮かび上がっていった。
『やっぱりいたようですね、新しいアストラルが』
「クソッ、あんな高えとこに逃げたんじゃ攻撃出来ねえな……しゃーねえ、このヘンテコ野郎を先にぶっ殺す!」
「フン、二対一か。面白い、Aのように俺を倒せるとは思わないことだな」
そう答えた後、アストラルBは背負っていた金棒を引き抜く。バチバチと電流が流れる得物を構え、ユウとチェルシーに先制攻撃を放った。
「食らえい! ボルテクスバースト!」
「気ィ付けろ、ユウ! 拡散する電撃が飛んでくるぞ!」
『はいっ!』
アストラルBが金棒を地面に叩き付けた瞬間、電撃がほとばしり扇状に拡散する。電撃同士の隙間に上手いこと入り込み、ユウは魔神の力を解き放つ。
【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】
『行きますよ! ビーストソウル』
「そうはいかねえな、俺のミステリアスアームを食らえ!」
『わひゃっ!? 何か伸びてきました!』
「んだよ、そのヘンテコな腕は飾りじゃねえのか! オラッ、間に合え!」
攻撃を避けたユウに向けて、アストラルBは左肩に生えたミステリアスアームを伸ばしていく。攻撃に使えると思っていなかったため、ユウもチェルシーも虚を突かれてしまう。
ユウとは別の方向に逃げていたチェルシーは、一息に跳躍して救助に向かう……が、相手の攻撃の方が早かった。アームに捕まり、ユウは動きを封じられてしまう。
『う、動けない!』
「さあ、捕まえたぜ。魔神ってやつは、凄まじい耐久力と再生能力を持つと頭脳データに記されてるが……それがどれほどが確かめてやる」
「させっかよ! くたばりやがれ!」
【モータルエンド】
一刻も早くユウを助けようと、チェルシーはバージョンアップによって追加された対アストラル用のアプリを起動する。そうして、もう一度跳躍し敵の元に向かうが……。
「もう遅い。弾けな、バスタードボルテックス!」
『あぎゃあああああ!!?!?!?』
「しまっ……うぐおおおお!!」
一歩遅く、アストラルBは身体の内外両方に凄まじい電撃を放射する。体内を流れる電流はアームを通してユウへ。体外に放たれた電撃は、接近してきていたチェルシーへ。
アストラルAとはまた違う、攻防一体の隙の無い相手に苦戦を強いられることに。それでも、チェルシーは気合いと根性だけで突き進む。
「舐めんなよ、テメェなんぞにやられてくたばるようじゃ……せっかく出会えた仇を殺せねえだろが!」
【1・8・2・4:ヒーリングメイル】
「ゴリ押しはなぁ、アタシの十八番なんだよ! そのドタマ、カチ割ってやるから覚悟しろ!」
『う、ぐうう……! やっちゃってください、チェルシーさん!』
「ムダだ、俺を滅ぼそうったってそうはいかねえ。Aと違って、俺にはアップデートでしっかり対策が備わってんだ。スパークリングアーマー!」
「な……ぐおっ!?」
テンキーを入力し、ヒーリングメイルを発動したチェルシー。電撃による傷を癒やして相殺しながら、無理矢理敵目掛けて突き進んでいく。
そうして、トドメを刺そうとした直後。ハンマーがアストラルBの身体に触れた瞬間、超強力な静電気とでもいうべき防御反応が起こり吹き飛ばされてしまう。
「ぐ、ふ……」
『チェルシーさ……あぐあっ!』
「俺の全身には、今やったような電撃防御機能が備わっててなぁ。攻撃が弾かれちゃ、トドメは刺せねえよなぁ?」
攻撃した相手の精神を侵食し、遠く離れた場所にいる……あるいは在る本体を消滅させる猛毒の力、モータルエンド。早くもその力への対抗策を編み出してきたらしい。
電撃の守りを突破出来なければ、アストラルBにトドメを刺せない。それ以前に、アームの拘束から逃れなければ戦いに勝つことは出来ない。
『むううう、こんなアーム壊して……!』
「そいつは無理だな、このミステリアスアームは内側からの力に極めて強い。脱出しようと力を込めれば込めるほど、よりキツく締め付け」
「ったら、アタシがぶっ壊してやる! ヘストロングスイング!」
吹き飛ばされてダウンしていたチェルシーが起き上がり、今度はアームの支柱を叩き砕いた。どうやら、支柱部分には電撃の守りは搭載されていないようだ。
『ありがとうございます、チェルシーさん!』
「おうよ、ド根性がありゃだいたいどうにかなるってもんだ!」
「フン、ミステリアスアームを破壊したくらいでいい気になるなよ? それに、破壊しても無意味だ。何故なら……」
「そこまでだ、アストラルB。奴らの仲間が来る、今日は退くぞ」
本体側に残った支柱の中から、タールのようなドロドロの液体を溢れさせつつそう口にするアストラルB。後半戦の始まり、と思いきや。
空中から降りてきた悟によって、撤退の命令が出される。それにいち早く反応したのは、チェルシーの方であった。
「ふざけんな! ようやく会えた仇を逃がすかっつーの! テメェは今ここで殺し」
「残念だったな、俺の気分が変わった時点でお前の願いは叶わなくなった。いずれ殺してやるよ、お前の妹みたいに惨めで苦しみに満ちた死を与えてやる!」
「やれやれ、コロコロ言うことが変わる上司はかなわんな」
『待ちなさい! このっ……』
アストラルBの肩を掴み、二人揃って遙か上空へと逃げていく悟。猛スピードで離脱し、北の方へと飛んでいってしまった。
「クソが……! まあいいや、バッチリ顔は覚えたし逃げた方角も分かった。待ってろよ、クズ野郎……必ず見つけ出して殺してやるからな……!」
『チェルシーさん……』
北の空を見上げ、憎々しげにそう呟くチェルシー。憎悪と殺意にまみれた彼女を見て、ユウは言い知れない恐怖に襲われる。一方、悟たちは……。
「神谷悟。何故あの場であの女を殺さなかった? お前なら出来たはずだ、それくらいのことは」
「ああ、もちろんそうだ。だが、俺には俺の作戦ってもんがある。あの女たちにはああ言ったが、最初っから今回殺すつもりはなかったのさ」
「……どういうことだ?」
北上しながら、悟は自身の意図をアストラルBに伝える。今回チェルシーの前に姿を見せたのは、彼女に自分の存在を認知させるためだったと。
「あの女は必ず俺を追う。それこそ、仲間が止めようがお構いなしにな。一度復讐の炎に呑まれれば、もう他のことなんか目に入らねえ」
「なるほど、孤立させるつもりか」
「ああ。怒りに我を忘れ、仲間と仲違いして一人で追っかけてくるのが最上の結果だ。まあ、そうならなかったら……それはそれで別のプランを実行するまでだ」
「……ドクター・ウノからお前は未開種を絶滅させることにしか興味の無い殺し狂いと聞いていたが。なかなか頭が回るな」
「フン、俺は怒れば怒るほど頭が冴えるタイプなんだよ。宇野の野郎にもそう言っとけ」
三人目のトップナイト、神谷悟によってチェルシーの復讐の物語が動き出す。復讐が成されるまで……チェルシーは、止まらない。




