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61話─マリアベルがこんにちは

 ガンドラズルでのユージーンとの最終決戦から、二週間が経過した。ユウたちはニムテに到着し、久方ぶりの我が家を堪能……。


「久しぶりの我が家、だいたい一ヶ月ぶりくらい……あら? 隣の人引っ越しかしら?」


『いえ、これゴミ袋ですよ。誰かが部屋の大掃除でもしたんじゃないでしょうか』


「偉いわね、掃除出来……あいたっ!?」


「お帰りなさいませ、シャーロットお嬢様。貴女様がいない間、()()()()()部屋をお掃除しておきました」


「!?!!?!?!? ま、ま、ま……マリアベルのおば様ァァァァァァァ!?!?!?」


 ……することは出来なかった。少なくとも、家主であるシャーロットは。玄関を開けようとした直後、扉が開き彼女の額に直撃する。


 シャーロットが尻餅を着いたその瞬間、部屋から現れたのは彼女の叔母……マリアベルであった。予想外の人物のエントリーに、顔が真っ青になっていた。


『マリアベルさん!? どうしてシャロさんのおうちに?』


「お久しぶりですね、ユウ様。お嬢様の活躍を聞き、温かい食事を作って労おうと帰りを待っていたのですがね……」


『で、ですが……?』


「あまりにも! お嬢様のお部屋が! 汚く散らかり放題でしたので……これはどういうことなのでしょう? 常々言い聞かせていたはずですが?」


 夫兼主君であるコーネリアスからシャーロットのことを聞き、彼女と仲間たちの帰還に合わせて家で出迎えしようとしていたマリアベル。


 が、あまりにもシャーロットの部屋が汚すぎるのを見て激怒したのだ。自分の運命を察し、シャーロットは滝のような汗を流す。


「あば、あばばばばばばば……!!!」


「ぶふっ、シャーロットの奴滅茶苦茶狼狽してるぜ。あんまりにも震えすぎて残像が出来てるぞ」


「……ユウ様、二時間ほどお嬢様にお説教とお仕置きをしないといけないのでお時間をください。その間、アルソブラ城の探検をしていて構いませんので」


『え、あ、はい。分かりました』


「ユウくん、待って! 行かないで、たす」


「貴女はこっちです」


「イヤァァァァァァァァァ!!!!!」


 マリアベルは異空間に存在する城へ続く扉を出現させ、その中にユウを誘う。これからシャーロットに行う『お仕置き』は、幼い少年が見るのに適さないからだ。


「皆様はお嬢様へのお仕置きを見届けていただく証人になってもらいましょう。さ、こちらへ」


「ア、ハイ。お邪魔するデスマス」


「……右に同じく」


『なんだよ、ブリギットにミサキ。お前らやけに大人しいな?』


『……昔、あのメイドに逆らって調子乗った結果お仕置きされてね。トラウマなんだ、それが』


『ワタシも』


『……経験済みだったのかお前ら』


 シャーロットを担ぎ上げたマリアベルは、目だけが笑っていない微笑みを浮かべ、有無を言わさずチェルシーたちをアパートの部屋に案内する。


 やけに大人しいミサキたちに、チェルシーは念話で理由を聞く。すると、そんな答えが返ってきた。生暖かい目で、チェルシーは二人を見る。


「さて、いつまで経っても掃除が出来ないお嬢様には……一度死にたくなるほど小っ恥ずかしい目に合ってもらいましょう」


「おば様!? 何故私は海老反りで縛られて吊されているのかしら!? これじゃまるでお肉屋さんのハムの塊だわ!」


「ええ、わたくしの趣味です。というわけで取り出したりますは……お嬢様()()()()()です」


 家に入って数分後、シャーロットは魔法のロープで天井から吊り下げられていた。そんな彼女に、マリアベルはあるものを突き付ける。それは……。


「うおっ、お前……()()()()()読んでんの?」


「ワーオ、『月刊おねショタ通信~もふもふケモっこ大進撃~』……デスか。いい趣味してマスね」


「へぇ……この表紙の子、どことなく雰囲気がユウくんに似ているね。そうか、そうか。つまり君はそういう奴なんだね」


「イヤァァァァァ!?!!? 見ないで、見ないでぇぇぇぇぇぇ!!!」


 シャーロットがこっそり取り寄せた、夜のお供なむふふ本であった。それも、年上の女性と少年が()()()()()()をする内容の。


 流石にこれはチェルシーたちも知らなかったようで、みな引いたりトドメを刺したりしていた。これにはシャーロットも赤っ恥である。


「自分でしっかり掃除をしないと、このように見られたら社会的に死ぬモノを他人に知られてしまうのですよ。お分かりになりましたか? お嬢様」


「ハイ、ヨクワカリマシタ」


「声が死んでる……」


「教育上よろしくないのでユウ様には見せませんでしたが、次掃除をサボっているのを見つけたら別の恥ずかしいものをユウ様に見せますからね」


「!? それだけはやめてください! やります、これからは真面目にサボらずお掃除頑張りまぁぁぁぁす!!!」


「一体何隠してるんデスかね? 気になって夜しか眠れないデス」


「そんなに気にしてねーじゃねえか」


 シャーロットが地獄を味わう一方、チェルシーとブリギットはそんなボケツッコミをしていた。その横で、ミサキが笑いそうになるのをこらえていた。



◇─────────────────────◇



「……どうかなリティア殿。クリート殿下は落ち着かれたかな」


「いえ……まだ回復しきっていない状態です。起きている間ずっと、喪った人たちを想って泣いております……」


 同時刻、帝都ティアトルルから北西に数キロ進んだ場所にある皇族の離宮にて。女帝クラネディアは、離宮に滞在している人物のもとを尋ねていた。


 十日ほど前に、北の国境を越えて亡命してきたルケイアネス王子、クリートとその従者リティアを皇帝命令で保護したのだ。


「そうか……そうだろうな、殿下はまだ九つ。彼を取り巻く状況は、あまりにも惨すぎる。心中、どれほどの痛みを刻まれたことか」


「ありがとうございます、陛下。……一つお願いがございます。この国で最強のパラディオンの力を借りたいのです! 我が国を滅ぼし、殿下から全てを奪った敵……頬傷の男(スカーフェイス)に裁きを与えたいのです!」


「ああ、私としてもリンカーナイツどもによる今回の蛮行は許しておけぬ。貴殿は運がいい、今我が国には魔神の子が滞在している。かの者に掛け合えば、必ずや望みを叶えてくれよう」


 離宮の客室にて、話し合うリティアとクラネディア。祖国を喪い、怒りと悲しみの涙を流す彼女に女帝は協力を約束した。


「なんと!? あの魔神リオ様の……。おお、魔神様は私たちを見捨てていなかった……!」


「今はニムテにいるはず……明日使いの者を出そう。彼らをティアトルルに呼び、事情を説明して協力を打診する」


「ありがとうございます、陛下! このご恩は決して忘れません、祖国復興が成った暁にはお礼を致します!」


「ふふ、楽しみにしているよ。さて、私はすぐ宮殿に戻り使者の選定に入る。リティア殿とクリート殿下は、ごゆるりとこの地で養生なさるとよい」


 リンカーナイツに滅ぼされたルケイアネス王国の民の仇討ちに協力してもらえることになり、リティアは平身低頭し感謝の言葉を口にする。


 クラネディアは頷いた後、ユウの元に送る使者を決めるためティアトルルに戻る。そんななか、寝室で眠る幼い王子は……。


「ちちうえ、ははうえぇ……う、ぐすっ……」


 夢の中で、失った父母を……騎士団の者たちを……祖国の民を想い眠りながら泣いていた。幼い少年が負った心の傷は、深く強く……癒えがたいものだ。


「殿下、今戻り……! お可哀想に、何故……何故殿下が、こんな苦しみを背負わねばならないのだ。何の罪も無いというのに……!」


 クラネディアとの話し合いを終え、寝室に戻ってきたリティアは王子の様子を見て強く憤る。胸の内にあるのは、リンカーナイツへの憎悪。


 怨嗟の炎を燃やしながら、寝間着に着替えた女騎士はベッドに入りクリートに添い寝をする。せめて少しでも、自分の存在が慰めになればと。


「殿下、貴方様は私が守ります。散っていった部下たちの分まで、生きて……ずっと……」


 そう呟いた後、リティアは故郷に伝わる子守歌を口ずさむ。そのおかげか、少しずつクリートの涙が止まり……安らかな眠りに変わった。


 それを見て安堵したリティアは、少しずつまぶたを閉じる。今はただ、主と共に眠りに着いていたい。全てを忘れ、夢の中へ。


 悲劇にまみれた王子と騎士の物語が、魔神の子と交わろうとしている。その先に生まれるのは、さらなる悲劇か……あるいは喜劇か。


 その結末は、まだ誰にも分からない。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「痛み入る」は感謝を表す言葉なのでこの用法は不適当かと思います
[一言] やはりマリアベルの視察から逃れられなかったか(ʘᗩʘ’) でもそこまでムフフな本が存在するとなると恐らく善玉の転移・転生者が広めやがったな(٥↼_↼) 本物のケモミミが存在するのに誰もそれ…
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