59話─ユウの逆襲
一対一で決着をつけるため、ユウたちは街の大通りを経由して北西に回り、ガンドラズルを出る。ここならば、邪魔は入らない。
『そろそろいいでしょう。……始めましょう、戦いを』
「イエス。と言いたいところだが、先に聞きたい。先行したヴィトラと会ったはず、彼女をどうした?」
『それを知りたければ、まずはボクを倒しなさい!』
「オーケー、ならばそうさせてもらう!」
草原にたどり着いた二人は、お互いを睨み付けた後同時に攻撃に移る。大きく跳躍し、斧を振り下ろし叩き付けるユージーン。
それを後ろに飛んで避けたユウは、すぐさま銃口を相手の頭部に向け弾丸を連射する。移動中に、トリックマガジンは外してある。
ゆえに、アドバンスドマガジンはまだセットしていない。そのため殺傷能力はほぼ無いに等しいが、ユウとしては問題なかった。
(まずは、ユージーンを消耗させる! いくら身体が頑丈でも、脳を揺らされれば誰も耐えられませんからね!)
殺傷能力は確かにほぼ無い。だが、その分弾丸が直撃した時の衝撃は大きい。それこそ頭部に当たれば、軽い脳しんとうが起きるほどには。
輪廻の加護により身体能力が大幅に向上している異邦人とて、脳しんとうを魔法無しで無力化するような芸当は不可能。なので、まずはそこを狙う作戦なのだ。
『食らいなさい! こゃーん!』
「バカ正直に連射するだけか? もっとクレバーに立ち回れ、ボーイ。そうでなければミーは倒せないぞ!」
『ええ、そんなのは嫌というほど理解してますよ! ……やれやれ、まさかグランザームさんと同じようなこと言われるとは思いませんでした』
左腕を相手の頭部に向け、ひたすら連射するユウ。大盾で弾丸を防ぎつつ、ユージーンは余裕たっぷりにそんなことを口にする。
少し前に行った、精神世界での修行を思い出したユウはそう呟く。しばらく単調な攻撃を続け、何かを待っているかのように移動しようとしない。
(あのボーイ、何を考えている? 無意味にこんな攻撃をするような相手ではない……何か狙っている、か? すでに一度死んでいるからな、ここは慎重に行くとしよう)
それを見たユージーンは、相手が何かを企んでいると看破。盾に身を隠し、少しずつ前進していく。ある程度まで距離を詰めてから一気に駆け寄り、体当たりしようとする。……が。
「よし、ここまで……」
『今です! チェンジ!』
【トラッキングモード】
『食らいなさい! スネークレイン!』
「! 急に来るか……むごっ!」
『ふっ、流石のお前もこの切り替えの速さには追い付けないようですね! とりあえず脳を揺らしちゃいます!』
あるラインを踏み越えた瞬間、ユウは以前とは比べものにならない速さでトラッキングマガジンを左腕の銃にセットし、追尾弾の雨を見舞う。
グランザーム指導のもと、こうした戦闘に関する動作の精度や速度も向上させたのだ。不意を突かれたユージーンは、頭部に弾丸を食らい巨体がぐらつく。
「やるな、ボーイ……だが! このユージーン、脳しんとう程度で倒れはせん!」
『!? 根性で突っ走ってくるとかちょっと予想してませんよ! 一旦離脱し』
「させん! そら、捕まえたぞ。ヌンッ!」
『ひゃあー!?』
が、なんと気合いで持ちこたえたユージーンはそのまま攻撃を続行し、ユウに迫る。倒れないとは予想していなかったユウは慌てて逃げようとするも、一歩遅かった。
ユウの元にたどり着いたユージーンは、盾を消し左手を伸ばす。そして、ユウの左腕と一体化しているファルダードアサルトを掴み天高く放り投げる。
「食らえいっ! グラウンドクラッシュ!」
『! バヨネットが!』
無防備なユウを狙って、斧が振り上げられる。身をひねって急所への直撃こそ避けたものの、代わりにバヨネットが砕かれ銃身にも傷を付けられてしまう。
この状態ではもう、銃を撃つこともバヨネットで斬り付けることも出来ない。身体と一体化しているため、再生させること自体は可能ではあるが……。
『悠長に再生させる暇なんてくれませんよね、分かってますよ!』
「イエス、よく分かっているな。次は胴体にクリーンヒットさせてやる、痛みに呻くがいい! ヌンッ!」
あくまで武器が肉体と融合している状態のため、再生スピードはかなり落ちる。当然、悠長にファルダードアサルトを復活させる時間を相手がくれるはずもない。
大斧を振るい、ユウへ猛攻を加えるユージーン。この不利な状況を打開するには、どうにかして反撃を相手に叩き込まなければならないが……。
(大丈夫、これくらいはまだ想定の範囲内。ボクにはまだ、ユージーンが知らない切り札がある。タイミングを見計らって、それを使えば……!)
以前と違い、ユウは焦らない。修行によって心身共に鍛えられた少年は、辛抱強く待ち続ける。相手が攻め疲れ、隙が出来るのを。
「以前にも増して、身のこなしがより軽やかになっているな。ボーイ、一体何をしたというのだ? まさか、あの日……基地に捕らえている間に何事かをしたのか?」
『答えるつもりはありません、さっきも言いましたが聞き出したいならボクを倒しなさい! ていやっ!』
「ぬうっ! そうだな、戦いの最中に聞くなど野暮。ユーを倒してから聞き出すとしようか!」
以前戦ってから数日しか経っていないというのに、見違えるほど手強くなったユウ。その秘密を、リンカーナイツ基地の異変の件も含め、問いただすユージーン。
その問いに対し、ユウは先ほどと同じ返答をする。わざわざ何があったのかを、馬鹿正直に教えてやる必要など全くない。
知りたければ打ち負かしてからにしろ。そう伝えユージーンにカウンターの蹴りを叩き込み後退させる。ここからユウの反撃が始まった。
『一つだけ教えてあげます、ユージーン。今のボクは、表彰式の時よりも! 強くなっていますよ!』
「だろうな、よく分かる。だがそれでも! 勝つのはミーだ!」
蹴りの連打を浴びせつつ、相手の攻撃を避けるユウ。少しずつスタミナが削れてきたこともあり、ユージーンの動きが少しずつ鈍っていく。
さらにスタミナを奪うべく、ユウは攻撃を続ける。後退する暇など与えない。態勢を立て直されたら負ける。ゆえに必死だ。
『てやっ! はあっ!』
「なかなかの蹴りだ……! ミーがここまで、ぬう……攻め込まれるとは!」
(ユージーンもかなり疲れてきていますね。今なら……行けるはず!)
ユージーンも反撃するが、スタミナが無くなってきているため動きに精細さが欠けてきていた。今ならやれる、そう判断したユウは奥義を放つ。
『食らいなさい! シルバーテイルドリラー!』
「来るか……ならば迎え撃つのみ! バニッシュメント・ブレイク!」
後ろに飛んで大きく距離を取った後、ユウは銀色のドリルとなって突撃する。それを迎え撃つユージーンは、前回の戦いでユウを戦闘不能に追い込んだ必殺技を放った。
どんなに疲労していても技のキレと勢いは衰えておらず、ユウを返り討ちに出来る……はずだった。だが、ここでついにユージーンの計算が完全に狂うことになる。
『やっぱり使ってきましたね、その技を! 待っていましたよ!』
「!? な……跳んだ!?」
相手の技とぶつかる直前、ユウは自身の身体を包みドリルと化していた尻尾を解き奥義を中断してしまった。薙ぎ払われる斧に着地し、すかさず真上に跳躍する。
そんな行動に出るとは全く思っておらず、ユージーンは驚き動きが止まる。彼は警戒するべきだったのだ。ユウが血を覚醒させずに奥義を放った時点で。
「だが、上に跳んだところで何が出来る? 落ちてきたところを仕留めれば」
『そうはいきませんよ! 精神世界での修行で得た力、とくと見せてあげます! ビーストコンバート!』
「なにっ……!?」
そう叫んだユウは、全身から魔力を放出する。すると、銃の魔神から拳の魔神へと姿が変わった。二つの魔神形態を自在に切り替える技をも、彼は修行で得ていたのだ。
それを隠していたのは、ユージーンを確実に仕留めるための切り札にするため。存在を知られてしまっては、相手の虚を突けないからだ。
『これで終わりです! さあ、覚悟しなさいユージーン!』
【アブソリュートブラッド】
「ハッ! なんの、迎撃してや」
『もう遅いです! 奥義……イノセンスインパクト!』
「ぐ……おおおおああああ!!!!」
相手を仕留めるべく、ユウはマジンフォンの画面に触れる。真なる魔神となり、その力を我が物とした彼は、もう血を進化させる必要はない。
高みへと至った絶対なる魔神の血が、さらなる力をユウに与える。奥義を叩き込まれ、地に倒れたユージーンに異変が起こった。
「なん、だ……? ミーの魂が消えていく……チートスキルが、発動しない……!?」
『グランザームさんとの修行で、ボクは魔神の力を完全に会得しました。そのおかげで、ボクは身に付けたんです。お前たちのチート能力を無力化してしまう【アンチチート】の力を』
身体に魔神の紋章を刻まれ、チリに変わっていくユージーン。真っ先に異変に気付いた彼に、ユウはそう告げる。マジンフォンの力を、さらに引き出せるようになった結果。
奥義を放つ時に限り、彼は敵対者が持つチート能力を無効化出来るようになったのだ。当然、ユージーンが持つチート能力も例外ではない。
「なる、ほど……。そこまで至ったか。ならば敗北も……納得だ。コングラチュレーション、ミスター・ユウ……」
『ボクに敗北を教えてくれてありがとう、ユージーン。そのおかげで、ボクは強くなれました。みんなを守れるように……』
「グッド……そのハート、忘れては……ならない、ぞ……」
自身を打ち倒したユウを讃え、ユージーンは銀色のチリとなり……完全に消滅した。もう二度と、不死鳥はよみがえらない。その魂は滅び去ったのだ。
『……終わりましたね。さあ、シャロさんたちと合流して他のリンカーナイツも倒しちゃいましょう!』
しばしその場に佇み、ユージーンに黙祷を捧げた後ユウは走り出す。強敵との戦いを制した少年は、一歩近付いた。彼が目指す、偉大な英雄へと。




