58話─不死鳥は三度舞い降りる
ユウがヴィトラを捕らえ、封印するのに成功した頃。ユージーン率いる部隊は、ガンドラスルの北東から東にかけての一帯を守る防壁へと攻撃を仕掛けていた。
防壁を突破されれば、再度侵入を許してしまうことになる。ギルドの威信と人命保護のため、パラディオンたちは負けられない戦いに挑む。
「奴らを止めろ! これ以上防壁に近付けるな!」
「防衛隊、ギガバイトキャノン発射用意! 連中が防衛ラインを踏み越えてきたらぶっ放せ!」
「了解!」
防壁の下に集ったパラディオンたちは、リンカーナイツの部隊が近付くのを待つ。まずは防壁上に設置されたレーザー砲を浴びせ、前線部隊を壊滅させるつもりなのだ。……が。
「ムダなことだな、ミーにはそんなものは無意味……フンッ!」
「! あいつだ、あいつがトップナイトだ! 撃て、撃てー!」
「うおっ……マジか!? あいつ跳躍して……やべぇ、壁を越えたぞ!」
ガルドクアッドを運転していたユージーンは、サドルに乗り全身に力を溜める。自身が運転していた一輪バイクを踏み台代わりにして、大きく跳躍した。
綺麗な放物線を描き、壁を超えようとするユージーン。防壁の上に陣取っていた部隊の面々は、大慌てでレーザー砲を向けるも、時すでに遅し。
「やられた……! クソッ、流石に街中にレーザーは撃てねえな……」
「あっちは他の奴らに任せろ、俺たちは残りのリンカーナイツどもをぶっ潰そう! 今はそれしか出来ねえ!」
「ああ、そうだな……よし、やるか!」
ユージーンを撃とうとするも、家屋を破壊してしまう恐れがあるためレーザーを放てない防衛隊の隊員たち。だが、パラディオン側にも策はある。
手元の魔法石を使って連絡を取った後、街に侵入しようとしているリンカーナイツのメンバーへ狙いを切り替える。そうして、戦いが始まり……。
「さて、無事に侵入出来たな。後は……む」
「よーお、どこ行こうってんだ? わりぃなあ、こっから先は通行禁止なんだわ」
「ついでに、来た道も引き返せないわよ。ユージーン、あなたをここでボコボコにさせてもらうわ」
シャーロットたちも、ユージーンを倒すべく動き出した。防衛隊から連絡を受け、ユウへの接触を遅らせるべく立ち塞がったのだ。
「久しいな、ボーイの姿がないようだが……まだ合流出来ていないのかな?」
「っせーデス、お前のジョークなんかに付き合うつもりはカケラも無いからさっさと死ぬデスよ」
「フッ、というわけだ。四対一……卑怯とは言うまいね? さあ、始めよう。白き炎に焼かれて灰になれ!」
【4・1・8・3:マジンエナジー・チャージ】
【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】
【2・4・2・4:マジンエナジー・チャージ】
「いくわよみんな! ビースト……」
「ソウル……」
「リリース!」
「ダイナモギア・ソウルアクセス。マギドラマヴリオン……スタンバイ」
ユウに先んじてリベンジを果たすべく、シャーロットたちは一斉にマジンフォンの力を解き放つ。対するユージーンは、余裕の笑みを浮かべていた。
こうでなくては面白くない、と言わんばかりの不敵さで首を鳴らすユージーン。トップナイトの方も、準備は万端なようだ。
「相手にとって不足無し。来い、ガールズ。全員返り討ちだ」
「そうはいかないわ、今度は勝つ! 四人のコンビネーションプレーでね! 食らいなさい、ディザスター・アロー!」
「そんな技、すでに見切……む!」
「なら、これはどーデス? ブーメランチョッパー!」
これまでのリベンジとばかりに、早速連携攻撃を叩き込むシャーロットとブリギット。相手が矢に気を取られた隙に、刺客からブーメランのように曲がるトマホークを投げる。
即座に斧と大盾を召喚したユージーンは、盾で矢を防ぎ斧でブリギットの放った攻撃を叩き落とす。そこから反撃に出ようとするも、そう簡単に主導権は渡らない。
「やるな、だが……ぐぬっ!?」
「おい、忘れんなよ? まだアタシらもいるんだぜ! ビーストクラッシュ!」
「そういうことさ、さっきも言ったろう? 四対一でかかるってね。九頭龍剣技、弐ノ型。天風廻天独楽!」
態勢を立て直そうとするユージーンに、容赦なくチェルシーとミサキが追撃を加える。だが、多少の被弾ではトップナイトはびくともしない。
「グッド、そうこなくては面白くない。ヌンッ!」
「うぐおっ! チッ、相変わらずイカレた威力の攻撃してんなオイ!」
「大丈夫デス? チェルシー。危なくなっタラ、すぐヒーリングメイルを使うデス!」
「いや、その必要はねえぜ。あのガチムチ野郎ほどじゃねえが、こっちも耐久力にゃあ自身あんだよ!」
【レボリューションブラッド】
「食らえや! タイタンズシェイカー!」
猛攻を押し切り、強引に反撃してきたユージーンの一撃を食らって吹き飛ばされるチェルシー。が、肉食獣特有のしなやかさで軽やかに着地した。
そこから間髪入れず、即座にマジンフォンを操作して奥義を放つ。……ただし、ユージーンではなく、地面に向かって。
「何を……むおっ!?」
「へっ、そのクソデケぇ身体もよ。こうやって地面を揺らされちゃあたまんねぇよなぁ!? 隙が出来たぜ! やれお前ら!」
「ええ、ありがとう! やるわよ、みんな!」
【レボリューションブラッド】
「合点デスマス!」
【レボリューションブラッド】
「フッ、大盤振る舞いしてあげよう!」
【レボリューションブラッド】
魔力で作られた緑色の杭が地面に打ち込まれ、凄まじい振動を起こす。予想外の一手を打たれた驚きと揺れにより、ユージーンの動きが止まる。
ブリギットとミサキは滞空し、シャーロットは卓越したバランス取りで振動をいなし三人同時に追撃の奥義を発動する。ここでまず一回、相手を殺しておくのだ。
「食らいなさい! ディザスター・アロー【終焉】!」
「続けて行くデス! ディバインアクスライザー!」
「さあ、円環の理に導かれ死に還るがいい! 九頭龍剣技・裏奥義! グラウンドアーク・シュトラヴィーネ!」
シャーロットの射た闇の矢が、ブリギットが振り下ろす斜めに考査するトマホークが、ミサキの放つ神速の剣が。ユージーンを捉え、進化した血の一撃を与える。
「ぐう、おお……!!」
「まずは一回、ってところね。さあ、正念場はここからよ。さっさと出てきなさい、お前が何度でも復活出来ることはもうとっくに知ってるんだからね!」
「時間稼ぎしようったってムダだぞ、手当たり次第に探してブチのめすだけだからな!」
反撃を許さない怒濤の攻めで、まずは一度ユージーンをチリに変える。だが、これで安心することは出来ない。むしろ、本当に大変なのはここからだ。
「そうだな、ユーたちにはすでにミーのチートスキルを教えているからな。そのことはミーがよく分かっているとも」
「へえ……本当にチリから復活するとはね。半信半疑だったが、実際に見ると凄いものだ。私の中に流れる白き呪炎が疼くよ」
「格好つけてる場合じゃねえっての、第二ラウンド始めっぞ!」
ユージーンは自身のチート能力【不死鳥の生命保険】を発動し、現世へと舞い戻る。チリが集まり、再びその姿を現す様はまさしく……不死鳥の再誕と呼ぶべきものだった。
中二病の血が騒ぐミサキを嗜めつつ、チェルシーは先陣を切ってユージーンに突撃していく。だが、そう何度も同じ手を食らうはずもなく。
「食ら……ふべっ!?」
「チェル……きゃあっ!」
「ガールズ、ユーたちは一つ致命的な知識の欠如がある。ユーたちが奮闘すればするほど、カードの内容が判明する。最後にはミーに通用するジョーカーは全て無くなるのだ! ムゥゥゥン!!」
「まずい、避けきれ……うあっ!」
「ミサミサ! よくもやってくれたデスね、もう許さ……おぶえっ!」
都合三度目の戦いともなれば、ミサキ以外の三人の手の内はすでに粗方相手に理解されてしまっている。ことごとく行動を先読みされ、ミサキも含め叩きのめされてしまう。
「く、強い……! 油断はしていなかったかれど、やっぱりトップナイトは格が違うわ」
「ボーイの居場所を言え、そうすれば手脚の骨をへし折るだけで許そう」
「ケッ、ざけたこと抜かしてんじゃねーよこのタコ! 死んでも口は割らねえ、テメーにユウの居場所を言うわけねえだろ!」
「そうか、なら力尽くで」
【トリックモード】
『シャロさんたちから離れなさい、ユージーン! 一斉掃射を食らいなさい!』
「むっ……来たか、ボーイ!」
ダウンしたチェルシーたちに魔の手が伸びようとしたその時、彼女たちの気配をたどって現れたユウの攻撃が炸裂する。有効打にはならなかったが、ユージーンの狙いを変えさせることには成功した。
事前に銃の魔神に変化したユウは、宿敵を見ながら手招きする。相応しき場所にて、決着をつけようと誘っているのだ。
『ええ、いい加減この因縁を終わらせようと思いまして。さあ、こっちです! 着いてきなさいユージーン!』
「グッド、そのチャレンジ受けて立つ!」
その場から離脱し、街の外へ向かうユウを追いかけるユージーン。二人の最後の戦いがついに、幕を開ける。




