表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/188

38話─乙女は天を舞い、少年は地を駆ける

 帝都ティアトルル北の草原で、シャーロット&ブリギットと憲弘の激しい戦いが始まった。分銅付きの鎖鎌を操り、憲弘は二対一の不利な状況でも互角に立ち回る。


「食らいなさい、ディザスター・アロー【急旋回(ブーメラン)】!」


「っと、そんなの当たらな……むんっ!」


「死角に回り込んだのに、するっと対応してきマシたか。やっぱり、カテゴリー6は別格な強さしてマスね」


 分銅を振るって矢を叩き落とし、返す刀で死角から不意打ちしてきたブリギットのトマホークを鎌で受け止め攻撃を防ぐ。


 反撃を防ぐため、即座にバックステップしたブリギットはそう呟く。彼女はすでに、何人ものカテゴリー6を相手にしてきた。


 ファティマの命令により、ユウを守る者として相応しい実力を得るため。そして、クァン=ネイドラの外で暗躍するリンカーナイツを止めるために。


 その過程で多くのカテゴリー6と戦ってきたが、そんな彼女でも憲弘の強さは別格に感じられるものであった。


「……十分に身体も温まってきた。ここからはチート能力も交えさせてもらう。卑怯とは言わないな?」


「ええ、もちろん。どんな能力か知らないけれど、私たちは必ず勝つわ!」


「フ、その大口が真実になるか試してやろうではないか! 【目に見えぬ恐怖の鼓動(サイレンスグレイモア)】発動!」


 憲弘がチート能力を発動した瞬間、不穏な空気が周囲を包む。能力を警戒したシャーロットが一歩後ろに下がった、次の瞬間。


「今だ! 身を焦がす電撃に痺れるがいい!」


「え……あぐっ!?」


「好機! 食らえっ!」


「シャーロット! 大丈夫デスか!?」


「くうっ、今の電撃は一体……」


 何かを踏んでしまったシャーロットの身体を、電流が駆け抜ける。ダメージそのものはほぼなく、身体が痺れるだけ。


 だが、動きが止まり致命的な隙を晒してしまった。分銅が放たれるも、ブリギットが割って入ったことで直撃は避けられた。


「ありがと、ブリギット。気を付けて、あいつ何かを地面にバラ撒いたわ」


「デスデス、なんかヤバい雰囲気をそこかしこから感じマシた」


「先に種明かしをしよう。俺の能力は不可視の電撃地雷を設置するものだ。一度踏めば、さっきみたいに痺れて隙を晒す羽目になる」


「……どういうつもり? 自分から能力をバラすなんて」


「俺はアンフェアなのが嫌いでね、一方的に優位に立つようなやり口はしないようにしてるんだ。それがユージーン様の教えなんでな」


 引き戻した分銅を振り回しながら、憲弘はシャーロットの質問にそう答える。何か裏があるのかと邪推するシャーロットだが、相手にそんな素振りは見られない。


 そこにあるのは、強者だけが持ち得る矜持のみ。そのことをシャーロットもブリギットも理解させられた。


「それにだ、そっちの鳥女は飛べるからそもそも地雷にかからないだろ? 教えなかったところで、警戒して滞空するだろうことは分かってるんだよこっちは」


「む、確かに。危険な罠があるなら、飛んで逃げちゃえばいいだけデスマス。というわけでシャーロット、合体するデス!」


「え? 合体ってな……きゃあ!?」


 ついでに、そんなぶっちゃけたことを口にする憲弘。チート能力自体は強力だが、飛べる相手には致命的に相性が悪い。


 ゆえに、バラそうがバラすまいが今回の戦いで自身のチート能力があまり役に立たないのを最初から理解していたのだ。


 指摘されたブリギットは、両足の爪でシャーロットの肩を掴み空へ舞い上がる。これならば、不可視の地雷も意味を成さない。


「全くもう、いきなりこんなことして……。まあいいわ、これで厄介な地雷は封じたも同然よ」


「デスデス、上から矢をやー! って射って射って射ちまくるデスよ!」


「……今のギャグは聞かなかったことにしてあげる。あなたの名誉のためにね」


「オゥ、辛辣デース」


 ブリギットとコントみたいなやり取りをしながら、上空から矢を放ちまくるシャーロット。憲弘は攻撃を避けながら、新たな武装を召喚する。


「なら、こちらも飛ぶとしよう。フンッ!」


「!? ば、バックパック!? リンカーナイツはそんな装備まで持ってるの!?」


 飛行用の小型ジェット二つを両サイドに備えた、ランドセル型のバックパックを身に着けた憲弘はシャーロットたちを追い空へと舞い上がる。


 ついでに分銅を飛ばし、攻撃を叩き込む。ブリギットは急加速し、分銅を避けつつ相手の背後へと回り込み反撃を行う。


「空飛んだくらいでワタシたちに勝てると思うなデス!」


「そうだな、油断はしない。この鎖鎌のサビにしてやろう!」


 舞台を空中に移し、第二ラウンドが幕を開けた。



◇─────────────────────◇



『よし、街の外には出られました。ここまで来れば、誰にも迷惑は……うひゃっ!?』


「避けた……か。背後からのジャベリンを。なかなか……やる」


 一方、ティアトルルを出たユウは帝都の南にある森へと向かう。森の中ならば、身を隠しながら銃撃することが出来るからだ。


 逃走中にチェルシーとの連絡も済ませており、森の中で合流までの時間稼ぎをする魂胆でいた。そんな彼を、アストラルAの投げ槍が襲う。


 風切り音で攻撃を見切ったユウは、身を捻り攻撃をかわす。アストラルAは感心したようにそう呟きつつ、槍を手元に引き戻す。


「森には……行かせない。ここで捕らえる。まずは脚を潰す」


『そうはいきません、チェンジ!』


【トリックモード】


『それっ、ファントムシャワー! さあ、誰が本物か当ててみなさい!』


 分身を五人呼び出し、バラバラの方向へと逃げていくユウたち。今はとにかく時間を稼ぎ、チェルシーと合流するのが最優先。


 本物はあえて森の方へは逃げず、相手の裏を掻こうとする。が……彼はまだ知らなかった。アストラルAの力を。


「分身……? ムダだ、私には『視える』のだ。どれが本物かが……な!」


『!? ま、真っ直ぐこっちに来た!?』


「私には解る。お前が……本物だ!」


 即座に本物を見抜いたアストラルAは、ユウに肉薄し槍を突き出す。辛うじて避けることには成功したものの、ユウは狼狽を隠せない。


『ど、どうやってボクが本体だと見抜いたんです!? 簡単に見分けられないように、魔力で分身をコーティングしていたのに!』


「私は……むぐおっ!」


「ッラァ! ユウから離れやがれ、この気味悪ヤロー! 遅れて悪かったな、ユウ! 怪我ァねえか!?」


『チェルシーさん! ありがとうございます、助かりました!』


 そんなやり取りをしつつ、アストラルAの追撃が放たれようとしたその時。ユウの元に馳せ参じたチェルシーがハンマーを振るい、敵を吹き飛ばした。


 窮地を逃れたユウは、チェルシーにお礼の言葉を述べる。そして、アストラルAの底知れなさを彼女に警告した。


『気を付けてください、あいつ……ただの異邦人じゃありません。これまで戦った敵とは何かが違うんです。得体の知れない不気味さがあるというか……』


「ユウがそこまで言うなんて、よっぽどヤベェんだろうな。ま、いいさ。二人なら油断しなきゃなんとかなるだろ」


「新たな敵を……確認。こちらは排除する。私の任務の邪魔は……させない」


 アストラルAは立ち上がり、巨大なタワーシールドを呼び出し左腕に装着する。こちらも二対二となり、戦いが本格化する。


【9・6・9・6:マジンエナジー・チャージ】


【0・0・0・0:マジンエナジー・チャージ】


「来やがれ、テメェなんざ返り討ちにしてやらぁ! ビーストソウル・リリース!」


『今回は、ボクも全力です! ビーストソウル・リリース!』


 ユウとチェルシーは獣の力を解き放ち、連携してアストラルAに襲いかかる。ここは相手に何もさせずに倒す方が得策。


 そう判断し、チェルシーが相手を痛め付けている間にユウは奥義の準備を行う。猛攻を防ぐのに手一杯なアストラルAに、ユウは攻勢に出た。


『今です! これを食らいなさい!』


【レボリューションブラッド】


『それっ! デッドエンドストラッシュ! こゃーん!』


 銃剣を振るい、突撃していくユウ。無事にアストラルAを撃破出来るのか、それとも……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] チート能力で地雷原展開したけど空中戦になっちゃってるけど(٥↼_↼) まさかこの地雷、一度展開すると敵味方の区別つかなくて踏んづけたら自分も感電するからジェットパック自前で用意してたとか?(…
[一言] あ、駄目だこれ・・・
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ