193話─指輪の行く末
「さて、始めるとするか。カトリーヌ、結界の展開と維持を頼む。記憶を抜かれないように、何か細工しているかもしれないからな」
「うふふ、任せて~ラインハルト。強力な氷の結界を張り巡らせるわ~」
ユウたちがのんびり休んでいる頃、ラインハルトたち星騎士はルネーアをアルソブラ城に移送していた。マリアベルが用意した大広間にて、記憶を抜き出そうとしているのだ。
コーネリアスの持つ記憶を抜き出す魔法の存在は、すでにほぼ全ての闇の眷属たちに知られている。ゆえに、対策を施している者も数多い。
下手に記憶を抜き出そうとすると、術者に害を及ぼす魔法が仕掛けられていたり……。最悪、秘密を守るため諸共自爆するようになっている場合もある。
「何かあった時に備えて、あっしも待機しやすんで。緊急事態になったら遠慮なく頼ってくだせぇ、ラインハルトの旦那」
「ああ、そうさせてもらうよ。ありがとう、ミスター・カトウ。……そういえば、貴殿も忍びだったか。テラ=アゾスタルにもエステルのような者たちがいるとは、実に興味深いものだ」
「ミスター・ラインハルト、そろそろ記憶抽出を始めましょう。敵がいつ動き出すか分かりません、急ぎ情報を抜き出さなければ」
「ん、そうだなマリアベル。では……始めるとしよう。皆、下がっていてくれ。何が起こるか分からないからな」
ユウの名代として参加した憲三を交えながら、ラインハルトとカトリーヌ、マリアベルの三人は仕事を始める。広間の中央に設置された拘束台に近付き、ルネーアを覗き込む。
眠りの魔法がよく効いているらしく、深い睡眠状態にあった。ラインハルト以外が拘束台から離れ、広間の端に陣取る。直後、分厚い氷のドームが形成された。
「これでよし、と。自爆魔法が仕込まれていても、ドームの外に被害は出ないわよ~」
「……それだと、中にいるラインハルトの旦那が死ぬんじゃあありやせんかい?」
「問題ありませんよ、ミスター・ケンゾウ。たかが自爆魔法如きで死ぬほど、ミスター・ラインハルトはヤワではありませんから」
「そういうモンなんでやすかねぇ。ま、あんたさんら星騎士のことはシャーロットの姐さんから聞いてやすから、そこまで言うなら問題はないんでしょうや」
氷の結界の外にて、ラインハルトの作業を眺めながら憲三たちはそんな会話を行う。そんな中で、ラインハルトはベルトで拘束されたルネーアの額に手をかざす。
「ふむ、なるほど。やはり記憶防護のための仕掛けがいくつか施されているか。だが、この程度ならばコーネリアスに習った魔法で解除出来る。そこまで時間もかかるまい」
彼の予想していた通り、ルネーアの体内には記憶の抜き出しを防ぐための防御術式がいくつか組み込まれていたようだ。それらを一つずつ、主より学んだ魔法で解除していく。
そうして、十分近く経った頃。ラインハルトは防御術式を起動させてしまうことなく、全て機能停止させることに成功した。早速記憶を抜き取り、どのようにして指輪の力を得たのかを探ることに。
「カトリーヌ、マリアベル。そしてミスター・カトウ。無事記憶を抜き出した、これからチェックを始める。手伝ってくれるとありがたい」
「へえ……流石でやすな。星騎士の中で最も有能だと、シャーロットの姐さんから聞いていやしたが……いやはや、お見それしやしたぜ」
「うふふ、コリンくんが右腕として信頼を寄せているのよ~。ちょっと嫉妬しちゃうくらいにね~」
「わたくしは特には。旦那様にとって、あらゆる一番はわたくしですので」
そんなことを話しつつ、氷の結界を解き拘束台に近付くカトリーヌたち。ラインハルトと共に、抜き取られた記憶を覗く。そこに映し出されていたのは……。
『よくやったわね、ルガンド。時空神の指輪を手に入れられなかったのは片手落ちではあるけれど、残りを持ってきたから任務達成ということにしてあげるわ』
『ハッ、寛大なる御言葉……感謝致します。フィービリア様。して、これらの指輪をどのようになさるので?』
『簡単な話よ。私の持つ念動力の魔法を使って……まずはこの邪魔な指輪を破壊するの。……ハァッ!』
抜き出された記憶に映っているのは、水鏡を通じてフィービリアと連絡を取っている簒奪者たち。時期的には、パラディオンたちを撃退した後のようだ。
水鏡の向こうにいるフィービリアは、自身の魔法を使い五つの指輪を宙に浮かべる。そして、濃厚な闇の魔力を注ぎ込んでいく。しばらくすると、指輪に亀裂が走り……。
「! 見て、指輪が……」
「砕けてしまいましたね。フィービリアの持つ力については存じていたつもりでしたが……神々の護りをも打ち破るレベルに到達しているとは……」
五つの指輪が粉々に砕け散ったのを見て、カトリーヌとマリアベルがそう口にする。指輪の中に封じられていた創世六神の力が解放され、霧散していく。
『これでよし。ふふふ、加護の力さえ消えてしまえばクァン=ネイドラの結界を反転させられる。天上の神々ですら、二度と元に戻すことは出来ないわ』
『鍋底の大地侵略の第一歩、ですね。さて、次なる指令は……』
『そうね、お前たちはそのまま現地に残って本隊を迎える準備をしなさい。そのためのご褒美をあげるわ。この指輪の残骸を送り返すから、体内に取り込んで力を得なさい。そうすれば、お前たちは手にできる。創世六神のパワーを、ね』
『それは素晴らしい……。指輪の残骸であれば、我々の肉体でも神の力を無理なく取り込むことが出来るでしょう。では、ありがたく頂戴致します』
『そうね、砕く前の指輪では力が強すぎてお前たちでは取り込みきる前に死ぬ。そうならないようにしてあげたわ、感謝しなさい? 追って指示を出す、まずは指輪の力に身体を慣らすこと。いいわね?』
『ハッ、かしこまりました』
ひざまずく六人の簒奪者の目の前に、水鏡を通して指輪の残骸が送り返される。それを取り込み、己が肉体と一体化させることで創世六神の力を我が物としたのだ。
「……なるほど、そういうカラクリだったわけか。これは不味いな、すでに指輪が失われているとなると……」
「ミスター・ラインハルト。このことをすぐに天上の神々に伝えるべきかと。指輪は六つ揃うことで、初めて機能するものだと……! 気を付けてください、女が意識を!」
事前にいくつか予想していた中で、最悪のパターン。すなわち、すでに奪われた指輪を破壊されてしまっていたことを知る四人。マリアベルが今後について話していた、その時。
「く、う……。よくもやってくれたわね。わたしの記憶を……ぐっ!」
「抵抗出来ると思うな、同胞よ。この拘束台はベルトまで含めて、全て金属製だ。磁力を操る私の前では、指一本動かせぬぞ」
「同胞? 笑わせないでほしいわね。お前たちのような元大地の民の非直系と、このわたし……生まれてついての闇の眷属たる、直系のエリートと同列に……ぐがっ!」
「あんさんよ、そこまでにしといた方がいいと思いやすぜ。そんなくだらねえ御託を並べられるような立場じゃあねえってことくらい分かるでやしょう」
ベルトをキツく絞められる中、ラインハルトを嘲るルネーア。さらにベルトが締め付けられ、呼吸が困難になっていく。そんな彼女に、憲三がそう声をかける。
「さて、と。残りの記憶の抜き出しとその後の『処分』はこちらでやっておこう。ミスター・カトウ、君ならグラン=ファルダにすぐ行けるだろう。至急、我々が見たことを報告してもらいたい」
「承知しやした。先に坊ちゃんに伝えてから超特急で向かいまさあ。そっちは頼みやしたぜ、ラインハルトの旦那」
「ああ、そちらも任せた。事は急を要する、敵の本隊もそろそろ動き出すだろう……その前に、出来ることはやりきらねばならないからな」
もっとも重要な情報を抜き出し、すでに最悪の事態になってしまっていることを知った以上やることは一つ。ただちに創世六神に指輪の喪失を伝えねばならない。
その役目を託された憲三がアルソブラ城を出た後、残った三人は拘束台を囲みルネーアを見下ろす。その冷たい視線が告げる彼女の未来は、たった一つ。……死、のみ。
「創世六神の力を抜き取れるか、いろいろと試さねばなるまい。マリアベル、頼めるか?」
「承知致しました。彼女と同じ直系のエリートであるわたくしが引導を渡しましょう。ふふふ、実に楽しみですね。本格的な拷問など久しぶりですから」
「あらあら、怖いわね~。じゃあ、わたしは他に有益な記憶がないかチェックを」
「……ふふふふ。わたしを捕らえたくらいでいい気にならないことね。残りの五人も、みんな指輪の力を持っているわ。お前たちなんてひとひね……ガハッ!」
「ん? 羽虫でも飛んでいましたかね? あまりにもか細い羽音なので聞こえませんでした。ま、静かになったのでよしとしょう。つふふふふ」
負け惜しみを口にするルネーアのみぞおちに拳を叩き込み、強制的に黙らせるマリアベル。そんな彼女の顔には、嗜虐の笑みが広がっている。
ルネーアの命の灯火は、じきに消え去るだろう。苦痛と恐怖の中で、ゆっくりと。




