189話─集結するチカラ
『なるほど、そっちはそんなことが起きてるんだ……。こりゃあ大変だ、なら僕たちが助けに行くよ! 遺産騒動の時に力を貸してくれたお礼にね』
『ありがとうございます、キルトさん。サモンマスターの力があれば怖いもの無し、ですよ!』
ユウが助力を乞うたのは、以前起きたフィルとアンネローゼの遺産を巡る騒動で共闘した戦士。別の大地であるメソ=トルキアにて活躍するサモンマスターの少年、キルトであった。
クァン=ネイドラ基準で半年ほど前、結界問題を解決するためやって来たリオから聞いていたのだ。キルトがウォーカーの力を覚醒させたことを。
『エヴァちゃん先輩との結婚式やら戴冠式やら、いろいろ終わったとこだし。友達の頼みとあらば、いつだって駆け付けるよ!』
『心強い言葉、ありがとうございます。……ところで、エヴァンジェリンさんのやったアレ……お咎めとかはなかったんです?』
『んー、まあ……。混沌たる闇の意思から注意というか、関心は向けられたみたい。即位早々に大粛清なんてやったら、ねぇ……』
電話で現在の状況を伝え、協力を取り付けたユウ。すでにキルトたちは己の為すべき戦いに決着を付け、アフターライフを満喫していたようだ。……一部、雲行きが怪しい部分もあるが。
『パパから聞きましたよ、その話。不正を働いてたり、おべっかばかりで実務能力の無い貴族たちを全員集めて粛清しちゃったって』
『そうなんだよ、もうやることなすこと滅茶苦茶だよ……エヴァちゃん先輩ったら。戴冠式の最中にいきなり皆殺しだもん、流石の僕も驚いちゃったよ』
キルトの仲間に、エヴァンジェリンという闇の眷属がいる。とある魔戒王の娘である彼女は、戦いが終結したのちに父の跡継ぎとして王位を継いだ。
まではよかったが、そこで早速やらかしたようだ。徹底的な事前調査によって炙り出した無能な貴族たちを選別して集め、近年まれに見る虐殺により粛清を行ったのである。
『ま、それは置いといて。これからグラン=ファルダに行って、ウォーカーの力を使う許可を貰ってくる。明日か明後日には行けると思うから、それまで待って……わ、ちょっといきなり抱き着かないでルビィお姉ちゃん!?』
『キルトよ、いつまで話しておるのだ? 我は退屈で仕方ないのだ、そろそろ相手してくれてもいいだろう? ん?』
『ごめんユウくん、一回切るね!』
『あ、切れちゃった。あっちもあっちで、いろいろ大変そうですね……』
キルトの伴侶、ルビィの声が聞こえた直後通話が切れた。慌ただしくはあったが、ひとまず協力を取り付けることは出来たためユウは胸を撫で下ろす。
とはいえ、喜んでばかりもいられない。チェルシーたちが戻り次第、闇の眷属たちとの戦いに備えキルトたちと合流してからどう動くかを相談せねばならないのだ。
『ふう。やること盛りだくさん、ですね。シャロお姉ちゃん、ブリギットお姉ちゃん、ジョゼフィンさん、ヴィトラ。敵の鼻を明かしてやるためにも頑張りましょう!』
「ええ、これ以上連中の好き勝手にはさせないわ!」
「やーってやるデス! フムン!」
「ネクロ旅団の一員として、この力をお貸ししましょう。愚劣なる侵略者たちに、超越者の裁きを」
『ま、大船に乗ったつもりでいるがよい。貴様の人徳があれば、多くの者が力になるだろうからな』
ユウに声をかけられ、シャーロットたちは頷く。新たな脅威が襲い来るのならば、返り討ちにして平和を取り戻す。それが自分たちの使命なのだと、みな決意を新たにするのだった。
◇─────────────────────◇
「よーう、戻ったぜ。あのガキと無事コンタクトしてきたぞ。わざとガキとその仲間だけ結界を通れるようにしといてよかったよかった」
「首尾よくいったようだな。で、予想通りの結果だったか?」
「ああ、ビンゴだ。あのガキ……ユウから感じたぜ、時空神の指輪の気配を。お前の指示通り、あいつを泳がせておいて正解だったなぁオイ。おかげでよ、労せずして指輪を射程圏内に入れられたからな」
その頃、基地に戻ったプラウダーはリーダーの男に目的を果たしてきたことを報告していた。彼らが何故、三ヶ月もの間大規模な襲撃を起こさず、ユウの帰還を待ったのか。
そして、わざわざ宣戦布告だけをして帰っていったのか。その理由は一つ、自分たちでは見つけられない時空神の指輪をユウに回収させるためだ。
「ご苦労、これで我らの計画は最終段階に入る。明後日、ベウゼリス将軍の現地入りを以て……クァン=ネイドラの本格的な侵攻を行う。他の者らにも通達せよ」
「あいよ、そうしておくぜ。しかしだ、あのガキだって宣戦布告されてのほほんとしてるほどバカじゃあねえだろう。オヤジ共を救援に呼ばれたらキツいんじゃねえか?」
「問題はない、フィービリア様が指輪の力を利用して生み出したり結界がある。奴らはそれを通れないし、無理矢理通り抜けてきたところで勝てはせん。こちらには量産したアンチヴェルドコードがあるからな」
すでに一万を超える大軍が暗域に待機しており、着々と出撃準備を進めている。それに加えて、対ベルドールの魔神用の兵器であるアンチヴェルドコードもすでに大量生産されていた。
フィービリアの本来の目的、クァン=ネイドラ侵略のためにしてきた準備。それも最終段階を迎え、プラウダー含む闇の眷属たちは自信に満ちていた。
「我らに敗北は無い。フィービリア様の施した結界がある限り、何者も奴らの救援に来ることは出来ぬ。数の力で蹂躙してくれよう……フフフフフ」
二日後の大攻勢に向け、準備を進める闇の眷属たち。だが、彼らはまだ知らなかった。ユウたちもまた、大地を守るため手を尽くしているのだと。
◇─────────────────────◇
「なるほど、そういうことならウォーカーの力を使う許可を出そう。我々としても、クァン=ネイドラを落とされるわけにはいかないからね」
「ありがとうございます、バリアス様。いやー、これで許可降りなかったらユウくんに顔向け出来なくなるとこでした」
「あやつにはエヴァたちを助けてもらった恩があるからな。我としても、ここで力添え出来るなら喜ばしい」
数時間後、キルトはルビィを伴い早速グラン=ファルダを訪れていた。創世六神にウォーカーの力を使う許可を貰い、ユウの救援に向かう準備を整える。
「我々も加勢に向かいたいが、暗域の情勢やウォーカーの一族との戦いもあってな……。直接彼らの助けにはなれそうにない。だからこれを、ユウくんに渡してあげてほしい」
「……ルービックキューブ?」
「これは私の空間支配の力を凝縮させて創ったものだ。これを用いれば、一度だけだが空間の繋がりを断ち切ることが出来る」
「ほう、なるほど。大方、それを使って敵の増援なり撤退を阻止しろというわけか」
「そうだ、エルダードラゴンよ。使い捨てゆえに使いどころを見極めねばならないが、上手く活用すれば戦局を有利に運べる。それは保障しよう」
直接介入すれば、事態を余計ややこしくしかねないため神々は動けない。その代わり、バリアスは自身の司る力の一端を込めた使い捨てのアーティファクトをキルトに渡す。
「ありがとうございます、ユウくんも喜びますよ。こんな心強いアーティファクトを貰ったら」
「だといいのだが。ああ、そうそう。つい先ほど、コーネリアス配下の星騎士から連絡があったんだ。彼らもウォーカーの力でクァン=ネイドラに連れて行ってあげてくれないか? 大地防衛に加わりたいが結界を通れないと困っていたのでね」
「分かりました、じゃあメソ=トルキアに来るよう伝えてください。そうしたら、明日みんなでクァン=ネイドラに行きますよ」
「済まないな、必要な連絡はこちらで担当しよう。鍋底の大地の防衛、頼んだよ」
こうして、ユウ陣営の準備も進んでいく。守る者たちが勝つか、侵略する者たちが勝つか。新たな大戦争が、静かに始まろうとしていた。




