188話─広がる闇の脅威
闇の眷属……プラウダーは己の名を告げた後、勢いよくローブを脱ぎ去る。そうして現れたのは、筋骨隆々の上半身を惜しげもなく晒した巨漢だった。
下半身と左胸を白い鎧とプロテクターで覆っただけの、ワイルドにして威圧感たっぷりな姿を見てユウたちは身構える。一旦シャーロットとの通話を切り、ユウは敵を睨む。
マジンフォンを使おうとするユウたちに、プラウダーは右手を突き出す。
「おっと待てよ、別に今すぐやり合おうってわけじゃねえ。今回は宣戦布告をしに来たんだ、この祭りの主役によ」
『祭り? 大地への侵略が、ですか。見た目通り血気盛んで野蛮なようですね』
「それにデスよ、宣戦布告ダケしてホイさよなら……。なんて、ワタシたちが許すとでも思うデスか? 今すぐ引きずり下ろしてミンチにしてやるデスマス!」
「ああ、三対一だぜ? 逃げ切れるならやってみやがれ」
余裕しゃくしゃくの態度でそう告げるプラウダーに対し、ユウたちは敵意を隠そうともせず答える。つまらない問答は終わりだと、戦闘体勢に入ろうとしたその時。
「言ったろ? 宣戦布告しにきただけだってよぉ。そのついでにだ、面白いショーも見せてやる。ハァッ!」
「!? 嘘、これは……光明神の力!?」
「このつる……あの野郎、まさか! 指輪の力を取りこみやがったのか!?」
プラウダーが指を鳴らすと、地面を突き破って生えてきた数本のつるがユウたちを絡め取る。つるを通して流れ込む神の魔力に気付いたイゼリアとゾルネストは叫ぶ。
「そうとも、今から三カ月ぐらい前……コーネリアス王が用意しやがった結界のせいで、俺たちは暗域から弾き出された。んで、いろいろあって俺たちは指輪に宿ってた神の力の一部を手に入れたってわけだ」
『そのいろいろの部分、是非とも聞きたいですね。一体何をしたんです、お前たちは!』
「やーだね、知りたきゃこれから起きる大戦争を生き延びてみな。っつーわけで、魔戒王フィービリアの名代として宣言する。現時点を以て、我らはクァン=ネイドラへ侵略戦争を仕掛けるとなぁ!」
ユウの質問に答えることなく、プラウダーはそう告げる。鍋底の大地を陥落させ、暗域の一部として取り込む。主であるフィービリアの宿願を果たすための、大戦争の始まりを宣言した。
「ムムム、そんなコトしてタダで済むなんて思わないことデスマス! どれだけ攻めてこようトモ、この大地を守り抜いてやるデスよ!」
『ええ、もちろん! お前が指輪の力をどうやって手に入れたのかも、いずれ吐かせてやるので覚悟しておきなさい!』
「ハッ、がんじがらめにされてるクセに威勢だけは一人前だな。ま、いいさ。明日から忙しくなるぜ? 何せ、フィービリア様の軍勢はふくれあがったままの数を維持してるからなぁ! いつまで持ち堪えられるか見物だなぁ、ヒャハハハハ!」
宣戦布告に負けず、勇ましく啖呵を切るユウとブリギット。そんな彼らをひとしきり嘲笑った後、プラウダーはポータルを作り出しその中へと消えた。
その直後、ユウたちを縛り付けていたつるが消滅し自由を取り戻す。即座にユウはシャーロットに折り返し電話をかけ、通話を再開する。
『もしもし、シャロお姉ちゃん? 途中で切っちゃってごめんなさい、今敵に襲われてたので……』
『突然通話が切れたから、何かあったのかと思ってたけど……大丈夫だった? 怪我はしてない? みんな無事かしら?』
『はい、プラウダーとか名乗った闇の眷属は宣戦布告だけして帰っていきました。……ついでとばかりに、指輪から引き出した光明神の力を見せ付けて』
『!? 指輪の力を!? なるほど、私たちが思ってるよりも事態は悪い方に向かっているみたい。ユウくん、疲れてるだろうところ悪いんだけどすぐガンドラズルに来て。そこで情報の擦り合わせをしましょう』
まずは合流が最優先、ということでユウたちはガンドラズルへ向かうことに。フォックスレイダーとマジンランナーを呼び出し、精霊夫婦と共に飛び立つ。
ザノローア教国の首都へ向かい、ワープマーカーを借りてパラディオンギルド本部へ転移する。そうしてようやく、クァン=ネイドラ基準で三カ月ぶりの仲間たちとの再会が叶った。
「ユウくん、ブリギット! よかった、無事再会出来てホッとしたわ」
『ボクたちもそう思います。……それにしても、ボクたちが指輪を探してる間に一体何があったんですか?』
「そうね、話すと長くなるから……場所を変えましょう。空き部屋で座りながら話すわ」
ギルド本部にある客室にて、ユウたち四人は出迎えたシャーロットから三ヶ月間の出来事を聞かされることに。なお、チェルシーたちは哨戒任務に出ているらしく不在らしい。
「ユウくんたちが出発してから、七日くらい経った頃のことよ。リンカーナイツの拠点があった場所から、突然強い闇の力が放たれたの。何があったのか、各国の連合部隊が調査しに行ったのだけど……」
「そこに闇の眷属たちがいたの。最悪なことに、奪った五つの指輪を物質転送用ポータルで主に届け終えた状況で、ね」
『あ、ジョゼフィンさん! まだ滞在されてたのですか』
「ええ、命王アゼル様の勅命を受けたの。事態の解決に助力せよ、と。ついさっき廊下を歩いるのを見つけたから、こっそり着いてきちゃった」
シャーロットが説明していると、部屋の扉が開きジョゼフィンが入ってくる。彼女も説明に加わり、闇の眷属たちを発見した後の出来事を話し出す。
「万が一の事態があった時に死者を生き返らせられるよう、私も同行していたんだけれどね……。連中、たった六人だというのにかなり強くて。負傷者が多発したから、やむなく撤退したの」
「ええ、ジョゼフィンさんの言う通り……指輪簒奪の任務に選ばれるくらいの精鋭、パラディオンが束でかかっても簡単には倒せなかった。悔しいものね……」
「ま、今更過ぎたことを悔やんでも仕方ねえわな。で、その後は何があった?」
「恐らく、フィービリアが指輪を闇の魔力で穢したのでしょう。大地を守る結界の作用が反転し、かの魔戒王とその配下たち以外の行き来を遮断するようになってしまったわ」
時すでに遅く、闇の眷属たちは指輪を転送し終えていたという。せめて敵の排除を遂行しようと戦いを挑んだが、フィービリアの選んだ精鋭だけあって敗れてしまったらしい。
さらに、フィービリアが指輪に何かをしたらしく再び邪悪な結界を張られてしまったようだ。外部からの援軍が望めなくなった、と思われたが……。
『結界に関しては問題なかろう、我らがこうして帰還出来たのだから。恐らく、次元の狭間を経由すれば結界に感知されずに通れるのだろう。そうでなければ、我らはここにおらぬからな』
『あ、そうですよ! つまり、外部との行き来はまだなんとかなります!』
「そっか、考えてみればその通りよ! ……じゃあ、喜びつつ話を続けるわね。邪悪な結界に閉ざされてから、フィービリアの配下たちが入り込み始めたの」
「彼らは各地に散発的な襲撃を行いつつ、リンカーナイツの本拠地へと集結しました。そして、あの巨大な塔を創り出したのです」
外部との行き来に関しての問題はアッサリと解決の目処が立った。が、問題はそれ以外にも山ほどある。その一つが、闇の眷属たちが創り出した塔だ。
ジョゼフィン曰く、塔の本体そのものはもっと小さく、あの天を衝く威容は単なる幻影に過ぎないらしい。だが、その幻影から放たれる闇の魔力が問題なのだという。
「あの幻の塔から放たれるチカラ……私の見立てでは、アレこそが結界を反転させている元凶。幻影を打ち消すことが、まず私たちよ為すべきことだと考えています」
「なるほどな……にしても、散発的にしか襲撃してきてねえってのが気になるな。よし、ちっと調査してくるか。イゼリア、俺たちで情報を集めてこよう。行けるか?」
「ええ、もちろん。あなたと一緒なら例え火の中……水の中はちょっと勘弁かしら」
シャーロットとジョゼフィンのおかげで、ひとまず現在の状況を把握出来たユウたち。そんななか、ゾルネストとイゼリアは調査に赴くことに。
何故襲撃の手を緩めているのか、その真意を探りつつ敵の規模や持ち込んできた兵器の類について調べてくると言う。調査を任せ、ユウは二人を見送る。
『さて、この状況を切り抜けるには……ボクたちだけだと手が足りませんね。それに……』
『ほぼ確実に、連中はまた持ち込んできているだろう。前にも使ってきた、アンチヴェルドコードなる兵器を』
ユウとヴィトラには、もう一つ危惧しなければならないことがあった。それは、以前苦しめられた敵の新兵器。魔神の力を弱める、対ユウに特化した戦略兵器だ。
『アレを使ってくると仮定すると、援軍を依頼するべきは……。そういえば、パパが結界を修復しに来てくれた時に教えてくれたことがありましたね……よし!』
「ユウくん、誰に援軍を頼むの? 一応、私の方もお父様に星騎士を派遣してもらえるよう頼んであるけど……」
『ええ、強力な助っ人に心当たりがありまして。彼も今、マジンフォンを持ってるってパパから聞いたんですよ』
マジンフォンを取り出し、ユウは助太刀を頼むべくとある人物に通話をする。コール音が何回か鳴った後、電話が繋がった。
『はい、もしもし。こちらキルトです。あれ、この番号……ユウくん?』
『お久しぶりです、キルトさん。実は、あなたにお願いしたいことがあるのです』
反撃に向け、少しずつ布石を打つ。絶望するだけでは終わらないのだ。




