186話─狭間の戦い
「返り討ちだと? ホホホホ……笑わせてくれる、わらわが呼び寄せた異邦人どもを全滅させた程度で図に乗るでないわ! レッドハイドスフィア!」
「ん、こいつはちっとヤバそうだな。二人とも、俺の後ろに隠れてろ! そうすりゃ、例え爆発しようが問題はな」
「させると思うかえ? 曲がれ、紅の禍つ球よ!」
「んなっ!?」
攻撃を防がれたネイシアは、新たなる攻撃を行う。自身とほぼ同じ大きさの紅の球を召喚し、ユウ目掛けて射出する。ゾルネストが割って入り防ごうとする……が、今度は対策されていた。
ネイシアが指を鳴らすと、球の軌道が変化しゾルネストを迂回する。障害物を避けてユウに直撃する……と思われたが、ユウは上へ飛んで攻撃をかわす。
『っと、軌道が変わるくらいは予想してるんですよ! 食らいなさい、バレットレイン!』
「ワタシも殺ってやるデス! トマホークシャワー!」
「ホホホホ、ならこれは予想出来たかえ? レッドハイドキャプチュード!」
弾丸やトマホークが雨あられと放たれ、ネイシアに襲いかかっていく。ユウたちの反撃を前にしてもなお、彼女は余裕の態度を崩さず笑みを浮かべる。
自身の目の前に球を瞬間移動させ、再び指を鳴らす。すると、球が弾けて布のように広がり、ユウたちの攻撃を受け止めすっぽりと包み込んでしまった。
「ほれ、お返しだ。自分たちの放った攻撃を受けて死ぬがよい!」
「ほお、こりゃ面白えことするな。だがよ、この姿の俺には効かねえぜ! ボウズたちは離れてろ、俺が全部叩き落としてやっからよ!」
「オー、流石ぞるぞるデス。ゆーゆーから聞いてた通り、頑丈さが違いマスね!」
『ぞ、ぞるぞる……』
間髪入れず、布にくるまれ防がれたユウたちの攻撃が跳ね返される。が、その全てをゾルネストが超スピードの打撃の嵐で叩き落としてみせた。
かなりの数の弾丸やトマホークが直撃したというのに、イノセンスアーマーには傷一つない。それを見て感心していたブリギットに変な愛称を付けられ、イゼリアは困惑する。
「ま、いいじゃねえの呼び方なんてよ。イゼリア、そろそろいけるか?」
『ええ、魔力満タン、いつでもいけるわ!』
「っし、それじゃあ……」
「させると思うかえ? 精霊騎士……貴様らの存在は、あのお方からようく聞かされておる。わらわたちウォーカーの一族の前身、虚無の民の邪魔をし続けた愚物ども……ここで消えよ! レッド……」
『そうはさせません! ビーストソウル・リリース! ナインフォールディバスター!』
「ワタシもやるデスよ! ハイスイングチョッパー!」
細かいことは一旦置いておき、反撃に出ようとする精霊夫婦。そこにネイシアが追撃を放とうとするも、今度は銃の魔神に化身したユウとブリギットが阻止しにかかる。
「ぐうっ! チッ、どこまでも邪魔をしてくれおるわ……!」
「ありがとよ二人とも、少し離れてな……近くにいると火傷するぜ! エレメンタルアーマー、プットオン!」
【ELEMENTAL OPEN】
『さあ、ショータイムよ! 灼熱の刃で焼き尽くしてあげる!』
【CHANGE FRAME】
ユウたちの協力により、無事精霊の力を解き放つことが出来たゾルネストは炎の剣を構える。そのままネイシアに高速で接近し、一太刀で斬り捨てようとするが……。
「ボウズたちの手を煩わせるまでもねぇ、ここで……」
「ホホホホ、残念じゃがそうはいかぬな。奥義……輪廻零滅!」
「何を……!?」
『これは……! 気を付けろユウ、奴は……』
攻撃が届く直前、ネイシアは輪廻の星としての切り札を一つ発動する。ユウたちの身体を二重螺旋の形をしたリングが包み、あらゆる変化を解除してしまった。
『! 姿が元に……!』
「てめ、こんな……ぐおっ!」
「ホホホホ、五分の一の力しか持たぬ分身と侮ったな。その対価は三つの命で支払ってもらうとしようかの。奥義……」
「ネイシア? いつまで僕を放置して遊んでいるんだい。もう退屈で仕方ないんだけど」
変身が解けたゾルネストを蹴り飛ばし、ユウたち諸共一網打尽にしようとするネイシア。奥義の構えを取ったその時、どこからともなく少年の声が響いてくる。
ユウたちが周囲を見渡していると、時空の壁が砕け……その隙間から黒髪の少年が姿を現す。日本の学生服を着た、明らかに異邦人と見て分かる人物だ。
「おお、済まぬなコウキ……いや、魔魂片ルダよ。わらわの本体は疲れて眠ってしもうたようだな、ここに来たということは」
「そうだよ? 器の召喚と魂の融合を終わらせてすぐバタンキューさ。そのせいで退屈なんだよ、もう帰ろ?」
『彼は一体……?』
『感じるぞ、あの少年……ガワは異邦人だが、中身は魔魂片に完全に乗っ取られているな。ネイシアよ、貴様そやつに何をした!』
「ん? 決まっておるだろう。ユウと同じ轍を踏まぬよう、神々の感知を防ぎつつ転移させたのよ。新たなる魔魂片の器に相応しき者をな」
リングに拘束され、身動きすら取れないなかヴィトラが問う。すると、彼女の予想していた通りの答えが返ってきた。ユウの代わりとなる、新たなフィニスの器をネイシアは手に入れていたのだ。
「やあ、はじめまして。僕は有田コウキ……と融合を果たした魔魂片ルダ。役立たずの君に代わって、新たなフィニスとして目覚める予定の者さ」
「わらわは同じ過ちは二度犯さぬ。ただ単に魔魂片を植え付けるだけでなく、器の自我を完全に破壊した。これでもう、離反を招くようなことはない。ホホホホホ!」
『なんてことを……この外道め! そんなことをして許されると思っているのですか!』
「そうデス! 人を弄ぶなんて最低の行いデスよ! この鬼! 悪魔! サディスト! ウォーカーの一族! 小ジワまみれのババ」
「誰が小ジワまみれだ! その口を閉じろ矮小な人形め!」
「もがっ、もごっ!」
ユウとヴィトラが和解したことで計画が破綻したことへの対策として、ネイシアは新たな器の心を完全に破壊したらしい。怒り心頭なユウたちだが、リングのせいで動くことが出来ない。
罵詈雑言をぶつけたことで怒りを買い、伸びたリングで口を塞がれたブリギットはもごもごしつつネイシアを睨む。このまま万事休すか……と思われたが、相手は意外な行動を取った。
「ネイシア、もう帰ろう? いいじゃん、そんな奴らほっておけばさ。どうせあのリングで身動き出来ないんだし、ここに放置してればそのうち時空乱気流に呑まれてバラバラになるよ」
「むう……まあよい、あのリングはアブソリュート・ジェムの力でもそう容易く砕けるものではないからな。放置しても問題はなかろう」
「そそ、もう退屈でしょうがないんだよねぇ僕。というわけで、負け犬の皆さんはそこで死ぬまで浮かんでてよ。じゃーねー、あはははは!」
ネイシア本体が眠りに着いてしまい、退屈したルダが帰還を促したのだ。不承不承ではあったが、ネイシアは新たな器と共に姿を消した。
「おいてめぇ、待ちやがれ! ああクソ、消えちまいやがった」
『まずいな……このままここに留まっていれば、あの魔魂片の言う通り時空乱気流にやられるぞ』
『ヴィトラ、その時空乱気流ってなんなんですか?』
『簡単に言えば、これまで拭いていた風をさらに猛烈にしたものだ。まず間違いなく、直撃したら八つ裂きになって死ぬだろう』
『ええっ、それはまずいですよ! こうなったら四の五の言ってられません、破壊の力をフル解放してリングをぶっ壊します!』
ゾルネストが悔しそうに舌打ちするなか、時空乱気流の説明を受けたユウはどうにかリングを怖そうと試みる。指輪を取り戻すという任務を達成するためにも、ここで死ぬわけにはいかないのだ。
『ふぬぬぬぬ……ダメです、このリングかなり頑丈です……!』
「まずいわね、風が強くなってきた……。もうそろそろ、時空乱気流が吹くわ。ゾルネスト、私たちの魔力をユウくんに! そうすれば、リングを壊す役に立てるはずよ!」
「だな、ボサッとしてるよりは百倍いい。ボウズ、俺たちの魔力を受け取れ!」
「もがっ、もごっ、フゴッ!」
しかし、ネイシアが言った通りユウに宿る破壊のアメジストの力を以てしても簡単には砕けない。悪戦苦闘しているうちに、少しずつ風が吹き始める。
風が強まっていくなか、ゾルネストたちはユウに魔力を与え破壊の力を増幅させる。時空乱気流が吹く前に、リングを破壊出来るのか。それとも……。




