184話─挾間への旅立ち
「よし、ボウズは俺と来い。イゼリア、もう一人は任せるぞ」
「ええ、分かったわ。さ、こっちに来て。今から魔力の鎖で繋ぎ止めるから」
「準備出来たな、んじゃ行くぞ。精霊魔法……流転空閃!」
ゾルネストはユウを、イゼリアはブリギットを魔力を用いて作った鎖で自身と繋ぐ。しっかり繋がっているのを確認した後、二つの赤い光の柱を降り注がせる。
あまりの眩しさにシャーロットたちが目を閉じ、少しして……。光の柱が消えると、ユウたち四人もまたいなくなっていた。指輪を取り戻すため、時空の狭間に転移したのだ。
「坊ちゃんとブリギットの姐さん、無事に帰ってこられりゃあいいんですがねぇ……」
「信じて待つだけよ、ケンゾウさん。私たちに出来ることはね」
ユウたちが無事、指輪を取り戻す。そう信じて、シャーロットたちは祈りを捧げた。
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「やれやれ、参ったものだ。コーネリアス王め、こんな手の込んだ小細工をするとは」
「どうすんだ? スターナイツの連中がうじゃうじゃしてるぜ、これじゃあ暗域に入れねえぞ。いっそ全員殺して進むか?」
「やめておけ、こちらは六人……向こうの方が数が圧倒的に多い。星騎士に出張られたら勝ち目はない、強行突破は下策だ」
一方、神殿から五つの指輪を奪った闇の眷属たちはフィービリアの元に帰還出来ず足止めを食らっていた。その理由は単純明快、コーネリアスの差し金だ。
謹慎処分にされたのは、魔戒王二人だけ。戦争再開以外の目的であれば、部下を動かしても咎められはしない。ゆえに、配下を使ってフィービリアがよからぬことをする。
そう考えたコーネリアスが対抗し、暗域の第一階層世界に自身の配下、スターナイツに所属する騎士たちを派遣したのだ。その数は数千を超え、包囲網を敷いている。
「チッ、面倒くせぇな。じゃあどうする? いつまでもここにいたっていずれ見つかるぜ?」
「やむを得まい、クァン=ネイドラに引き返すとしよう。連中が撤退するまで、身を隠すしかない」
「まあ……仕方ないわね。あれだけいたんじゃあ、見つからずに潜り込むのは無理だものねぇ」
本来であれば、ウォーカーの一族から奪った門の力で主のいる階層世界に帰還出来ていた。……のだが、劣化版ゆえにコーネリアスが部下を使い手配した結界に阻まれた。
途中の階層世界で転移を止められ、そのまま暗域の外へと強制的に排出されてしまったのである。暗域に戻れない以上、彼らの採れる選択は一つだけ。
クァン=ネイドラに戻り、帰還出来るようになるまで待機する。それだけだ。
「しかしだ、クァン=ネイドラに戻ったところで安全に身を隠せる場所はあるのかね? 連中もすでに指輪を奪われたことに気付いているはず。ほぼ確実に、ユウ・ホウジョウが動くと思うが」
「問題はない。リンカーナイツどもの本拠地を再利用すればいいのだからな。あそこには異邦人どもに気付かれぬよう、密かに設置した物資転移用のポータルがある。それを使って……」
「なるほど、指輪だけをフィービリア様に送り我々はほとぼりが冷めるまで待機すると」
「そういうことだ……と言いたいが、指輪の力は強大だ。ポータルが耐えられるかは分からぬが、いつまでもここでウダウダしているよりはよほど建設的な行動だろうよ」
暗域への帰還が叶わないため、リーダーはサブプランへと切り替える。かつてリンカーナイツが住んでいた城に隠した、同盟の証たるポータルを用い指輪だけ主に転送しようと目論んだのである。
とはいえ、指輪には創世の神々の力が宿っている。神と魔の力が反発し合い、転送が失敗する可能性もあった。が、彼らにはもうそれしか手が残されていない。
(……ユウ・ホウジョウがすでに動いている可能性もある。奴がリオたち親世代の魔神に協力を要請したら面倒な事態になるな……。そうなる前に、排除することも検討せねば)
リーダーはそう考えながら、仲間たちを連れてクァン=ネイドラへ戻っていった。
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『着きましたね。ここが時空の狭間……』
「の中の、大地同士を繋ぐ場所だな。俺たちは『ロード』って呼んでるよ」
「ほえー、身体がフワフワして変な感じデスマス」
「気を付けてね、ロードの中は時間の流れが大地と同じだけど……。外に出ると時の進み方が変わるわ。うっかり落ちたら外では数千年経ってた、なんてことになるから」
『き、気を付けます……』
ところ変わって、ユウたち四人は時空の狭間の中にある異空間の通り道。通称『ロード』と呼ばれるに転移していた。ゾルネストたちから説明を受けた後、指輪捜索を始める。
『さて、指輪の気配はっと……向こうの方ですね。みんな、行きましょう』
『警戒を怠るな、ユウ。ここはすでにウォーカーの一族のテリトリー。いつどこから出てくるか分からん、用心しておけ』
「問題ないデスよ、何が出てこようとゆーゆーはワタシが守るデスマス」
「ああ、俺たちもいるしな。そんじゃ、出発だ!」
ユウを先頭に、一行は指輪の気配をたどってロードを進んでいく。そんな彼らを、時空の狭間にある小さな亀裂から覗き見る者たちがいた。
「モロク様、薄汚い大地の民どもを発見しました。殲滅しますか?」
『あー? いい、いい。放っておけ、わざわざヴルルカンを出すまでもねえ。そいつらはこっちの担当じゃない、どうせすぐ帰るだろうから関わるな』
「よろしいので? もし連中が『ジャンクション』にたどり着いたら……」
『問題ねえ。よく見ろ、進路が違うだろ。それに、万が一たどり着いたとしても、だ。その時は無理矢理ネイシアを呼び出して始末させりゃいい。あいつの案件だからな』
「……かしこまりました。ジャンクションに到達しそうになったらまた連絡します」
招かれざる者たちの侵入を感知したウォーカーの一族に属する男たちが、自身の主へと報告をしていた。が、彼らの主は対応する必要はないとのんきなものだ。
心配する部下の言葉にも、ネイシアを呼び出して対処させればいいとのたまう始末。不承不承ではあるものの、部下たちはそう答え連絡を終えた。
「やれやれ、モロク様のものぐさにも困ったもんだ。流石、あのお方から【堕落星】の名を授けられるだけあるな」
「ま、何もしなくていいってんならそれでいいんだろ。……ところで、モロク様はどうやって連中の向かう方向を確認したんだ?」
「さあ? 渡りの六魔星はみんな、俺たちじゃ使えない魔法やら技術を持ってるからな。たぶんそれ使ったんだろ」
そんな会話をしつつ、ユウたちの監視は続ける。一方、途中までロードを進んでいた一行はとある地点で立ち止まる。ユウが異次元の壁を指さし、仲間に伝える。
『この先から指輪の気配がします。ロードから外れてしまいますが、どうしましょう? 迂回路を探しますか?』
「いや、俺とイゼリアを鎖で繋いで飛び込んだ方が早えだろうな。ロードの外なら、ウォーカーの連中もそうそう襲ってこねえから」
「へえ、そうなんデスか?」
「何でなのかは分からないけどね。まだまだ解明されていないことが多いのよ、ウォーカーの一族については。……さて、これで鎖の用意はよしっと。いつでも飛び込めるわよ」
「うっし、じゃあ行くぜ。ボウズ、道案内よろしく!」
『分かりました! とつげーき!』
壁の一部をゾルネストが破壊し、ロードの外に広がる異次元へ飛び込むユウたち。そんななか、ヴィトラがユウに心の中で警告を発した。
(気を付けろ、ユウ。何か嫌な予感がする。今回の任務、そう簡単には遂行出来ぬかもしれん。今のうちに腹をくくっておけ)
(分かりました、そうします。……ボクも僅かですが感じてるんですよ。じめじめした嫌な気配を。この感覚は一体なんなのでしょうね)
一抹の不安を抱きつつ、ユウたちは先へと進む。無事に指輪を見つけ出し、持ち帰ることが出来るのか。それとも……。




