183話─奪われた指輪を追って
緊急会議を行った次の日。ユウは仲間たちに事情を説明し、再びザノローア教国へ向かうことを告げた。リンカーナイツとの決戦の時は通過地点だったが、今回は目的地。
会議を終えて帰る際、ゼルヘナスに貰った即席の委任状兼認可証のおかげで現地の騎士団の協力を得ることが出来た。そうして、人里離れた山奥へ向かう。
『こんな山奥にあるんですね、例の神殿は』
「ええ、創世六神の指輪を守るため物理的にも情報的にも秘匿されています。この神殿のことを知ってるのは、法王猊下を始めごく一部の者だけです」
法王直属の騎士、最高機密を知る数少ない存在……カーディアルナイツ。その一人に案内してもらい、専用のワープマーカーで神殿にたどり着いた一行。
「これは……酷い有様だ。ここまで破壊されているなんてね」
「遺体の運び出しは完了していますが、神殿の修復作業までは手が回せず……。一応、内部に散乱している瓦礫の撤去は進めているので中での行動に支障はないかと」
『指輪を取り戻したら、ボクたちも神殿の復興工事をお手伝いしますよ。ここまで無残に壊された姿を見て知らんぷりは出来ません』
「ご協力感謝します、ユウ様。さ、指輪が安置されていた場所へご案内します。こちらへどうぞ」
そうしてやってきた神殿は、襲撃した闇の眷属たちによって半壊させられていた。ミサキの言葉に、騎士の青年は目を伏せ悲しそうにそう口にする。
あまりのいたたまれなさに、ユウは神殿復活への協力を約束しつつ指輪のあった場所へ案内してもらう。出入り口に近い場所から指輪の魔力を取り込み、先へ進む。
そうして最後に向かった先は、神殿の最奥部。時空神の指輪が祀られていた部屋だ。
「ここです、ユウ様。この部屋に時空神バリアス様より賜った指輪を安置していたのです」
『なるほど……。では、まずはこの部屋に残ってる指輪の残滓を取り込んで……と』
「ユウくん、何か異常があったらすぐに言ってね。マジンフォンの機能でフォローするから」
『分かりました、シャロお姉ちゃん。それでは……こゃーん!』
手始めに、部屋に僅かに残った時空神の指輪の魔力を取り込むユウ。少しずつ魔力を体内で増幅させていき、現在位置を特定すべく目を閉じて集中する。
『むむむ……ん? これは……』
『ほう、これは奇妙な。そこの騎士よ、指輪は闇の眷属どもに奪われたのだったな?』
「ええ、神殿に残留していた闇の魔力からしてそれは間違いありませんが……。何か異変でも?」
『ええ、他の五つは暗域にほど近い場所に存在を感じるのですが……。時空神の指輪だけおかしいんですよ』
「んん? そいつぁどういうことだよ、ユウ」
『……時空神の指輪だけ、時空の狭間に存在を感知したんです、チェルシーお姉ちゃん。たぶん、指輪を守っていた人が敵に奪われないよう転移させたのかと』
滝のような汗を流しつつ、指輪の痕跡をたどっていたユウは首をかしげる。ヴィトラも交え、ユウは仲間たちに話す。時空神の指輪は、まだ敵の手に渡っていないと。
「なんと、時空神の指輪は無事なのですか! てっきり、全て奪われてしまったのかと……」
「デモ、時空の狭間となると探し出すのにエレー苦労するデスよ。砂漠に落とした針を探すようなものデスからね」
『いえ、時空神の指輪は問題なく探せますよ。時空の狭間を移動する手段を用意すれば、痕跡をたどるだけでいいんですから。問題は……』
『残る五つの指輪だ。これらは今、この大地と暗域の狭間に留まっている。十中八九、神殿を襲撃した連中が持っているのに間違いない』
「妙ですわね、その者たちは何故暗域に戻らないのでしょう? 異種族が入り込めない今なら、わたくしたちの追跡を振り切るのは容易いはずですわ」
ユウの働きにより、神官長が命と引き換えに守り抜いた指輪の在処が判明した。だが、新たに疑問が生じることに。ジャンヌが言った通り、現在暗域はコーネリアスとフィービリアの内戦の影響で多種族の出入りが禁じられている。
暗域の最上層であっても、逃げ込んでしまえばユウたちは後を追うことが出来なくなるのだ。だが、指輪の気配は一向に暗域へ移動する素振りを見せない。
『ま、分からぬものは一度置いておけ。まずは所在がハッキリしている時空神の指輪を取り戻すのが先だ、そうだろう?』
「そこはヴィトラの姐さんの言う通りでさあね。問題は、どうやって時空の狭間とやらを移動するかでやすが……」
「おう、それなら俺とイゼリアに任せてくれよ。案内してやるぜ、時空の狭間にな」
五つの指輪の謎はひとまず置いておき、まずは時空神の指輪の回収をすることに。その手段をどうするか話し合おうとした、その時だった。
ユウたちのいる部屋に、三人の人物が歩いてきた。うち二人は、以前ユウを助けたゾルネストとイゼリア夫婦。もう一人は、炎に包まれた髑髏……ネクロ旅団の紋章が刻まれたオレンジ色のローブを着た人物だ。
「あら、貴方たちは……。前にユウくんを助けてくれた精霊騎士さんたち……と、ネクロ旅団の祭司さんね」
「よっ、久しぶり。リンカーナイツとやらの戦いは、部外者だから見守るだけにしてたがよ。今回は協力させてもらうぜ、なあイゼリア」
「ええ、闇の眷属が相手なら十全に力を振るえるもの。渡してとゾルネストが、時空の狭間を案内してあげる」
グランドマスターから事情を聞き、力を貸すことにしたと語るゾルネストたち。最後の一人、ネクロ旅団の祭司はフードを脱ぎユウたちに顔を見せる。
「私はジョゼフィン。ネクロ旅団の祭司にして、鱗組に属するシャークノスフェラトゥスです。以後お見知りおきを、小さな英雄さん」
『こちらこそよろしくお願いします、ジョゼフィンさん』
「命王アゼルの名代として、命を落とした人々を蘇生するため馳せ参じました。全て私にお任せください、必ず仕事は果たします」
「おお、心強いお言葉……。法王猊下に代わり、感謝致します」
フードの下から現れたのは、真っ赤なベリーショートヘアが特徴的な女性の顔だった。ジョゼフィンと名乗った超越者は、恭しくお辞儀をする。
騎士の青年が感謝の意を示した後、ユウたちは二人と別れ指輪捜索に乗り出すことに。神殿を後にし、適当な原っぱへと向かう。
「さて、はじめに言っておくことがある。俺たちと一緒に時空の狭間に行けるのは二人までだ、それ以上は人数オーバーで連れていけねえ」
「二人まで……ね。なら、まずユウくんは確定としてもう一人をどうするかになるわ」
「それならよ、ブリギットが適任なんじゃねえか? アタシらよりかはさ、なんかあった時に対応出来るだろ」
ゾルネストとイゼリア、それぞれが一人の移動補助が限界だと語る。そのため、追跡に必須のユウに誰が同行するかを話し合うこととなった。
「そうだね、私も賛成だよ。自動人形はいろいろな機能が組み込まれているから、捜索の役に立つと思う」
「あっしもそう思いやす。時空の狭間なんて勝手の分からねえ場所じゃあ、あっしは役に立てそうにねぇですから」
「わたくしも異論ありませんわ。未知のエリアの探索なら、ブリギット先輩の方が適任かと」
チェルシーの提案に、ミサキたちは賛同の意を示す。自力での飛行が可能で、耐久力や再生力もピカイチ、さらに内蔵された機能で探索のアシストも出来る。
と、同行するメリットが多いからだ。ブリギット本人も頷き、ふむんと気合いを入れユウに抱き着く。
「ふっふっふっ、ならばワタシがゆーゆーと一緒に行くデスマス! ゆーゆー、大船に乗ったつもりでいてくだサイ! 万事上手くいくデスよ!」
『そう上手くいけばいいが、な。時空の狭間はウォーカーの一族のテリトリーだ、油断すれば足下を掬われる。気を緩めるなよ』
「分かってるデスよ、もしウォーカーの一族が出てきたらみじん切りにしてやるデスマス」
「決まったな。んじゃ、早速出発するぞ。グズグズしてると、指輪の存在がウォーカーの一族に察知されかねないからな」
『分かりました、二人ともよろしくお願いします!』
こうしてユウとブリギット、精霊夫婦による時空神の指輪回収作戦が始まった。何のトラブルもなく、四人は無事に指輪を取り戻せるのか。それとも……。




