181話─新しい時代の始まり……?
リンカーナイツとの最終決戦から、三ヶ月が経過した。誕生日を目前に控えたユウは、フェダーン帝国首都ティアトルルを訪れ女帝と謁見していた。
「ユウよ、やっと準備が整ったぞ。リンカーナイツのせいで長い時間を要したが、これでようやく……そなたの願いが叶ったな」
『はい、資金を出資していただいたクラネディア陛下たちには感謝してもしきれません。この時を待っていましたから。【児童養護ギルド】を発足させられる日を』
リンカーナイツと戦う傍ら、ユウはとある計画を練り続けていた。それは、かつての自分のように虐待に苦しむ子どもや、子育てに悩む人々を助け救うための組織の設立。
これまでの戦いで得た報酬や、理念に賛同した各国首脳陣の協賛金によってついにユウが思い描いた支援組織が誕生したのだ。その礼のため、ユウは帝都にやって来たのである。
「民はみな、そなたに感謝しているよ。この三ヶ月で、この国の子どもたちを取り巻く環境が大きく改善されたのだから」
『そう言っていただけると、身を粉にして働いた甲斐があります。一人でも多く、子どもたちを幸せにするためにも……もっとがんばらないといけませんね!』
ギルドが発足した後、ユウ自身が先陣を切って支援活動を精力的に行ってきた。クラネディアたちと協議し、児童保護や子育てに悩む家庭への援助を行う法律を施行し。
どう子育てをすればいいのか分からずに悩んでいる母親たちのため、子育て経験豊富な人々との交流会を計画したり相談窓口となる部署を設立し。
前世で学んだ知識を活かし、クァン=ネイドラ初となる幼稚園を作り保育士たちの育成を行いつつ、虐待に苦しむ子どもたちを救うための活動をする……と、この三ヶ月寝るのも惜しんで働いていた。
「ふふ、張り切るのはいいことだがそなたは少し休んだ方がいい。リンカーナイツとの決戦直後から、一番働いてきたのがそなただ。無理をして倒れるのは本末転倒であろう?」
『それはそうなのですが……。ようやく夢が叶ったのですから、どんどん活動をしていたくてたまらないんです。……虐待の悲しみを味わうのは、ボクだけで十分ですから』
「ユウ……。そなたの慈愛の深さには感服させられるものだ。私も見習わねばな」
城の庭園にて茶を楽しみながら、クラネディアはユウに微笑む。少年は照れて赤くなった頬をかきつつ、女帝に頭を下げる。
『クラネディア陛下。貴女や他の国々の王たちの協力がなければ、ボクは夢を叶えることが出来ませんでした。改めて、出資していただいたことを感謝致します』
「なに、そなたの唱えた理念は素晴らしいと思ったからこその出資さ。クリート王やガンドルク王も、みな同じ思いだよ」
『そう言っていただけると嬉しいです。実はですね、すでに新しい幼稚園の計画を進めていまして。今度はルケイアネス王国に作ろうと……』
和やかな雰囲気のなか、語らう二人。クァン=ネイドラを覆っていた邪悪な結界は、リンカーナイツとの決戦の少し後にやって来たリオに破壊してもらったためもう存在しない。
憂いがなくなったのもあって、ユウはこの三ヶ月の間自身の夢のため邁進出来たのだ。このままずっと、平和な時間が過ぎていく。そう思っていた……この時までは。
だが、ユウたちはのちに知ることとなる。フィービリアのさらなる魔の手が、すでにクァン=ネイドラに伸びていたことを。
◇─────────────────────◇
「ぐ、うう……」
「何故、この聖域に闇の眷属が……。この大地に悪意を持つ者は、入り込めないはずなのに……」
「リンカーナイツと言ったか。奴らが派手に暴れてくれたおかげで、我らの工作が厄介な連中の目に止まらずに済んだ。ただそれだけのことだ」
同時刻、ザノローア教国のどこか。教国の騎士たちによって厳重に守られた神殿を、不届き者たちが襲撃していた。全身を黒いフード付きローブで覆った数人の闇の眷属は、騎士たちを殺しつつ先に進む。
「これ以上先には……がはっ!」
「邪魔だ、我らの仕事を阻ませはせぬ。……お前たち、散れ。この神殿の各所に、創世六神による加護の指輪が安置されている。それを奪え」
「あいよ、了解。んじゃ、さっさと行ってくらあ」
神殿の奥へ踏み込んだ六人の闇の眷属たちの狙いは一つ。クァン=ネイドラを守る結界を生み出す、神々の指輪を奪いフィービリアに捧げること。
リーダー格の言葉に従い、残る五人は散開し捜索に乗り出す。神殿を警護する騎士や神官たちを殺しながら、闇の眷属たちは隠されていた指輪を見つけ奪っていく。
「ハハハ、見つけたぜ。光明神の指輪だ、こいつはいただくぜぇ?」
「そうはさせ……あぎゃっ!」
「っせえな、おとなしく死んどけ。雑魚のクセにしゃしゃってくんじゃねえよ」
まず最初に光明神の指輪が奪われたのを皮切りに、どんどん指輪が闇の眷属たちの手に渡っていく。そうして、ついに残るは時空神の指輪一つだけになってしまう。
「さあ、最後の指輪を渡せ。そうすれば命は獲らずに去ってやるが……どうする?」
「……この神殿を管理する者として、指輪は何としても守り抜きます。この命と引き換えにしてでも!」
「聞き分けのない女だ。ならば貴様を八つ裂きにしてから……むっ!?」
「ふふ、言ったでしょう? この命と引き換えにしてでも……指輪は、守ると……」
最後の生き残りとなった神官長の女は、闇の眷属の脅しに屈することなく指輪を守るための行動に出た。己の命と引き換えに、最後の指輪を時空の彼方へと転移させたのだ。
「貴様、指輪をどこに転移させた!?」
「お前たちでは……決して、手が出せない時空の狭間……。ウォーカーの一族ですら、探し出すのに悠久の時を要する……誰も知らない、場所。そこなら……指輪は、守られ……」
「チッ、死んだか。まあいい、残りの五つの指輪は手に入れた。一つ欠けたのは惜しいが問題はない。結界を弱め、同法たちを呼び込めよう。クククク」
崩れ落ち動かなくなった神官長を見下ろしつつ、忌々しそうに舌打ちをする闇の眷属。きびすを返し、仲間たちと合流するため神殿の出入り口へ向かう。
「よお、どうだ? 時空神の指輪は手に入ったか?」
「いや、最後の最後で出し抜かれてしまってな。指輪は時空の狭間へ飛ばされ、今の我々では奪取が出来ぬ状況になった」
「あら、それは困ったわね。でもまあ、フィービリア様には指輪を三つ以上奪えと命令されてたわけだし? 五つも手に入れられたんだもの、文句は言われないわよ」
「……だといいのだがな。魔神の子やパラディオンどもに感付かれると面倒だ、撤退するぞ」
指輪の完全なる奪取は叶わなかったが、主より言い渡された使命を果たした闇の眷属たちは魔力を集め創り出す。ウォーカーの一族だけが生み出せるはずの、黄金の門を。
「ケケケケ、神どもは夢にも思わねえだろうなあ。フィービリア様が捕らえたウォーカーの一族から、門を作る能力を奪い取ったなんてよ」
「そのおかげで、我ら六人は誰にも感知されずこの大地に入り込める。……劣化コピーゆえに並行世界は渡れぬが、結界を通り抜けるのは容易い」
フードの下であくどい笑みを浮かべた闇の眷属たちは、門を通って暗域へと撤退していく。そうして、残されたのはむせかえる血の臭いと数多の死体……そして、静寂だけ。
リンカーナイツは滅び、異邦人による脅威は去った。だが、新たなる敵がユウたちの前に立ちはだかる。地の底の闇より来たる、恐るべき覇道の魔女が。
◇─────────────────────◇
「まったく、腹立たしい。わらわがフィニスの器を確保せんとしている間に、リンカーナイツが滅ぼされるとは! 北条ユウ……ことごとく我が計画を邪魔してくれおって!」
クァン=ネイドラでとんでもない大事件が起きている頃。表舞台に姿を現さず、一人異邦人の転生や転移を行っていたネイシアは憤慨していた。
自身の配下であるリンカーナイツを滅ぼされたばかりか、魔魂片ヴィトラの完全なる離反によって計画成就が遠のいたからだ。時空の狭間にある自身の城で癇癪を起こしていると……。
「ずいぶんと荒れているな、ネイシア。私のように適度に暗躍せぬからそうなるのだ、愚かしい」
「……何の用かのう、タナトス。わらわは今、お前に構っている暇はない。北条ユウにこの落とし前をどう付けさせるかを思案せねばならぬのじゃ!」
「残念ながら、その暇は無い。我らが創造主からの償還令が下された。あのお方はたいそうご立腹だぞ、お前の失態にな」
漆黒のローブと、白い髑髏の仮面を身に着けた男……。ネイシアの同胞、渡りの六魔星の一角たる【謀略星】タナトスがどこからともなく現れた。
邪険に扱うネイシアに、タナトスは静かに告げる。彼の言葉を聞き、ネイシアはびくりと身体を震わせ冷や汗を流す。
「な、なんだと!?」
「当たり前の話だ、あのお方に賜りし魔魂片を敵に奪われる……いや、敵に寝返られるなど前代未聞の恥だ。今すぐ戻れ、さもなくば言い訳を並べる間もなく原子のチリにされるぞ?」
「くっ……! 仕方あるまい、一旦器探しは中断だ。おのれ……こうなったのも全ては北条ユウのせいじゃ……奴だけは許しておかぬぞ……!」
ユウへの逆恨みを呟きつつ、ネイシアは城を発った。一人残った死神は、闇に溶けるように消えていく。
「……北条ユウ。あの遺産騒動以来、密かに動きを見ていたが……実に面白い少年だ。彼にサモンギアを渡したらどう反応するか……見てみたいものだ。ククク……」
地の底、そして次元の狭間。それぞれに潜む悪が動き出し……新たなる戦いの日々が、始まる。




