180話─輪廻の果てに得たもの
ユウたちパラディオンの活躍により、リンカーナイツは永遠に滅び去った。凱旋したユウたちを祝福するための宴は七日に渡って続き、人々は平和が戻ってきたのを心から喜んだ。
『ふう……凄いお祭り騒ぎでしたね。あっちこっちの国からお祝いの宴に招待されてへとへとですよ』
「それだけみんな喜んでいるのよ。ようやく悪夢が終わったんだもの」
「ああ、あのバケモンに燃料扱いされてた異邦人たちもみんな助かったし文句無しの大団円……には、ちっと足りねえか」
お祭り騒ぎに疲れたユウたちは、アパートに戻り仲間内でゆったりとした時間を過ごしていた。全てが解決し、ハッピーエンド……とは、チェルシーの言った通りまだなっていない。
クァン=ネイドラを覆う邪悪な結界は未だ健在であり、外部との行き来を遮断し続けている。そう、ユウにはまだ戦わねばならない相手がいる。
「魔戒王フィービリア……。次は彼女の結界をなんとかしないとね。ま、十分に休息を取ってからでもいいとは思うけど」
『そうですね、ミサキさん。特に、一番頑張ってくれたブリギットさんはたくさん労ってあげないと』
「うぇっへへへへへ、そうデスよゆーゆー。文字通り身体を張った大活躍をしたのデスから、膝枕のご褒美は当然なのデスよ!」
とはいえ、現状結界をどうにかするすべをユウたちは持っていない。今はまだ、ミサキの言葉通り力を蓄えるべきだとユウは考えていた。
そんな少年に膝枕をしてもらい、ブリギットは喜色満面のゆるっゆるな笑みを浮かべてデレデレしている。胴体はすっかり修復されており、傷は全くない残っていない。
「くうう……羨ましいですわ! わたくしもユウ様のおみ足をこころゆくまで堪能したいですわ! ついでに吸い……アバッ!」
「はいはい、戯れは一人でやってなさい。ところでユウくん? 私たちはもう婚約したわけよね?」
『え? はい。まだちょっと照れますが……えへへ』
「なら、そろそろさん付けで呼ぶのもおしまいにしましょう? 家族になるというのに、いつまでも他人行儀な呼ばれ方なんて……お姉さん泣いちゃう」
「確かに、シャーロットの姐さんの言う通りでやすな。坊ちゃん、そろそろ砕けた呼び方をしてもいい頃合いなんじゃねえですかい?」
一人よからぬ妄言を口にするジャンヌを引っ叩いた後、シャーロットはユウにもっとフランクな呼び方をしてほしいと頼み込む。憲三にも勧められ、ユウは照れつつ頷く。
『確かにそうですよね、じゃあ……ちょっと恥ずかしいですけど、ここはパパに習ってみます。えと、その……シャ、シャロ……お姉ちゃん』
「ん゛っっっっっっ!!!!!!」
『あれ? シャロさ……シャロお姉ちゃん!? 大丈夫ですか!? 息が止まってますよ!?』
少し考え込んだ末に、ユウは最愛の女性を呼ぶ。お姉ちゃん、と。結果、シャーロットは壊れた。汚い声を発した直後、ソファーに座ったまま動かなくなってしまった。
「あちゃー……こりゃいけねえな。見ろよシャーロットの顔、もう思い残すこたぁねえって感じだぜ」
『ククク、これはケッサクだ。そのマヌケヅラを写真にでも撮ってやったらどうだ?』
「ムムム、しゃろしゃろだけズルいデス! さあゆーゆー、ワタシたちも呼ぶデス! お姉ちゃんと! カモン! ナウ!」
「その通りですわ! ついでにちゅーも! ご褒美のちゅーも所望しますわ!」
ヴィトラが茶々を入れ、ブリギットとジャンヌが暴走を始め。もう、収拾をつけられる者がいなくなってしまった。あたふたしながら、ユウは憲三の方を見るが……。
『あの、憲三さん? みんなを止め』
「坊ちゃん。人は誰でも大人への階段を登るものなんでさぁ。坊ちゃんにとって、今がその時。あっしはお邪魔にならねぇよう、引っ込ませていただきやす。……お赤飯、用意しときやすので楽しみにしててくだせぇ」
居住まいを直し、三つ指付いて深々と頭を下げた後憲三は身代わり用の丸太を残して消えてしまった。これでもう、助け船を出してくれる者はいない。
『憲三さぁぁぁぁん!? くう、こうなったらミサキさんに助けを』
「それは聞けないねえ、ユウくん。ここにいるみんな、思いは一つだからね。さ、私もお姉ちゃんと呼んでごらん?」
「そうそう、いつ言いだそうかタイミングを窺ってたんだぜ? アタシらよ。つーわけで年功序列! アタシからお姉ちゃんと呼んでくれ! 恥ずかしいならアネキとかでもいいぞ! もちろんキスは唇にだからな!」
当然、ミサキもチェルシーもご褒美を待つ側だ。完全に退路を断たれ、四面楚歌状態のユウが出来ることは一つ。彼女らのおねだりに応えることだけだ。
『あわわわわわ……!』
『クハハハハハ! 実にいい、これでこそ貴様らの日常というものよ!!』
『笑ってないで助け……わひゃあああ!?』
「ゆーゆーからしてくれナイなら~、こっちからちゅーするデース!」
「……ハッ! 待ちなさいブリギット、抜け駆けは禁止よ!」
ヴィトラが大笑いするなか、チャンスを逃すまいと復活したシャーロットを皮切りに全員がユウに飛び付く。仲間たちに揉みくちゃにされながら、ユウは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
『うううう……こうなったらやってやりますよ! これからみんなをお姉ちゃんと呼びますからね! やっぱりやだは無しですよ!』
「ふふ、嫌だなんて言うわけないじゃない。これからもよろしくね? 私たちの可愛い旦那様?」
吹っ切れたユウはそう宣言し、九つの尻尾を伸ばしてシャーロットたちをまるごと包み込む。大切な仲間たちの温もりを感じながら、少年は微笑む。
かつて、あまりにも悲惨で短い生涯を終えたユウは……転生を果たし、二度目の人生でようやく手に入れた。愛する家族と、信頼出来る仲間たちを。
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「……ほおう。フィービリアめ、よほどこのわしを怒らせたいと見える。イゼア=ネデールを狙う……それが何を意味するのか知らぬわけではないというのに」
『いやあ、阻止出来てよかったよ。大地をまるごと消し飛ばすような自爆特攻なんて、まあ狂ったことをやるよね。僕、開いた口がふさがらないや』
ユウが婚約者たちとのイチャイチャタイムを楽しんでいる頃。アルソブラ城の玉座の間にて、コーネリアスは盟友たるリオとの通信を行っていた。
「リオよ、そなたには感謝してもし尽くせぬな。礼と言ってはなんじゃが、フィービリアはわしが全面的に受け持とう。そなたは息子の方をなんとかしてやるがよい」
『そうだねえ、クァン=ネイドラに入れないようにされちゃってるし。邪魔な結界をぶち壊してあげないと。……でも、ほんとに大丈夫? 出せる戦力いっぱいあるから、援軍を出すよ?』
「ありがたい申し出じゃが、それは承諾出来ぬ。わし自身の手であの【掲載禁止ワード】めに理解させねばならぬ。わしの逆鱗に触れた者はみな、例外なく惨き死の裁きが下るのじゃとな」
リオたち魔神との戦いの前に、フィービリアはコーネリアスの領地たるイゼア=ネデールへの攻撃を開始していた。幸い、動きを察したリオによって被害が出ることはなかったのだが……。
コーネリアスの怒りが頂点に達し、これまで頑なに拒んできたある行動を起こすことを決意させた。
『……ほんとに使うの? あんなに嫌がってたのに。混沌たる闇の意思に与えられた、魔戒王としての力をさ』
「こうなってはわしのわがままを通すわけにはいくまい。あまりにも忌々しいが、この力を使うしかないのじゃよ。……我が祖母、邪神ヴァスラサックの子たちが用いた神の力。こんなものを与えるとは、混沌たる闇の意思め……皮肉たっぷりな当てつけをしてくれおるわ」
魔戒王への即位が認められた後、闇の眷属の祖より与えられた王の力。それは、コーネリアスにとって忌まわしいものだった。かつて死闘を繰り広げた、邪神たちが持つ力をそのまま与えられたのだ。
当然、そんなものを振るうことをコーネリアスはよしとせず長い間封印してきた。しかし、そうも言っていられない事態に直面してしまったのだ。
『あんまり一人で抱え込まないでね? 僕たち友達だもの、いつでも助けに行くよ!』
「なに、こちらのことは気にするでない。そなたは自分のなすべきことをするとよい、キュリア=サンクタラムに向かっている連中は全てこちらで引き受けるでな。では、もう通信を終えるぞ」
最後にそう言葉を交わした後、コーネリアスは通信に使っていた水鏡を消失させる。少しして、マリアベルが姿を現し主に告げた。全軍の侵攻準備が整ったと。
「ご苦労じゃったな、マリアベルよ。では始めるとしよう。フィービリア領への不意打ち逆侵攻を、な」
「かしこまりました、旦那様。みな、いつでも発てます」
「うむ、奴が卑劣な手を使うなら相応の報復をするまで。……このわしの逆鱗に触れるとどうなるか、思い知らせてくれるわ」
ユウたちが平和を掴み取ったその裏で、新たな波乱が始まる。物語は、まだ終わらない。
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