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179話─終焉の継承者

「ユウくん、大丈夫!? 結果は……どうなったの!?」


 紫色の光が収まっていくのとは対照的に、ユウたちを取り巻く観客たちの間に動揺が広がっていた。ただ一人、レオンを除いて。


「レオン様、止めなくていいんですか!? あのガキ、何かしようとしてますよ!?」


「そうです、今の無防備な状態なら苦労せずトドメを刺せますよ!?」


「構わん。奴らが何をしようと、絶対強者たる私に勝つことはない。死ぬ前の最後の茶番劇くらい、完遂させてやるのが礼儀というものだ」


 部下たちからの至極真っ当な進言受けたものの、レオンは意に介しない。シュナイダー以上に、彼は酔っていた。自身が手にした魔神の力に。


 今の自分ならば、創世の神々や魔戒王……それどころか、主たるネイシアやその同胞たる渡りの六魔星。その全てを滅ぼせるだろうと自惚れていたのだ。


『……ヴィトラ。まだ、ボクの中に存在していますか?』


『……ああ。全く、貴様も随分と強欲なものだな。え? どこの誰に似たのやら、親の顔を見てみたいものだ』


「よかった……! 成功したのね、ヴィトラの自我を消滅させることなく……終焉の力の継承を」


『ええ、なんとかやり遂げました。シャロさん、もう少しだけ待っててください。レオンを倒してきますから』


 継承を終えたユウの言葉に、シャーロットは頷く。左目の瞳が紫色に染まり、オッドアイになった少年には覇気が宿っていた。その様を見て、彼女は確信したのだ。


 今のユウならば、自分が手を貸さずともレオンと互角に渡り合える。いや、打ち勝つことが出来るのだと。ゆえに、乙女は待つ。愛する者の勝利を。


『ここからは貴様のショータイムだ。初陣くらいは一人でもこなせよう? 存分に暴れてくるがいい。……ユウ』


『! ええ、今日はクァン=ネイドラの歴史に残る日になりますよ。リンカーナイツの終焉という、最高の記念日に!』


 敵ではなく、相棒としてようやく己が名を呼んだヴィトラに破顔しつつ、ユウは立ち上がり一歩を踏み出す。対するレオンは、余裕の態度を崩さない。


「何やらピカピカやっていたようだが、茶番はもういいのか? あの女とはそれなりの仲なのだろう、別れの言葉を交わしてからでも私との戦いは遅くないぞ」


『必要ありませんよ、そんなもの。むしろ、お前の方が辞世の言葉を考えておくべきだと進言します。……勝つのはボクですから! ビーストコンバート!』


「くだらぬ、私が貴様に負けるとでも? オリジナルを超えた魔神の力を手にしたこの私に! 敗北の二文字は無い!」


 拳の魔神へと姿を変えたユウに突撃し、レオンは鉄鎚を振り抜く。再び胴体を穿ち、吹き飛ばしてやろうと渾身の力を込める。しかし、その一撃が当たることはなかった。


『今のボクには当たりませんよ、そんな大振りな攻撃なんてね!』


「! ほう、速さを増したか。なるほど、なら……こちらもそのスピードに対応出来る武器へ持ち替えればいいだけのこと!」


SPEAR(スピア) POWER(パワー) COMBINE(コンバイン)


「風穴を開けてくれる! サウザンドスピアマシンガン!」


 終焉の力を得てパワーアップしたユウは、華麗なフットワークを駆使して怒濤の攻撃を全て皮一枚で避けてる。対するレオンも、漆黒の槍を突く速度を速めていく。


 回避速度に追い付き、ユウを槍が貫くか。両者の対決は、十分もせずに決着がつくこととなった。それまで回避に徹していたユウが反撃に出たのだ。


『見切った! イノセンスナックル!』


「ぐうっ……! なるほど、終焉の力とやらを得て多少は強くなったようだ。だが!」


AQX(アックス) POWER(パワー) COMBINE(コンバイン)


「それでも私には及ばぬと知れ! ギガスクランブルアクス!」


『己惚れるのはそこまでです、レオン。終焉の力の一つ、【破壊のアメジスト】を継承したボクの真価は! こんなものじゃありません! アメジストナックル!』


 相手の攻撃パターンを読み切ったユウのカウンターが放たれ、レオンが纏う鎧に初めて亀裂を生じさせた。槍を消し、両刃の斧による反撃を放つレオン。


 が、ヴィトラから力を受け継いだユウには効かない。右腕が神々しい紫色に染まり、破壊の力を乗せた一撃が放たれる。レオンの振るう斧を粉砕し、そのまま振り抜かれる。


「な……がはっ!?」


『ククク、どうした? 自慢の鎧もついに粉砕された感想はどうだ、ん? せっかくだ、本家本元にレクチャーでもしてもらったらどうだ』


「くっ……調子に乗るなよ、鎧はいくらでも創り出せる! このガントレットの力がある限り!」


FANG(ファング) POWER(パワー) COMBINE(コンバイン)


 ついに鎧をも粉砕され、吹き飛ばされるレオン。絶対の神話が崩れつつある現実を見た観衆に、何度目かの動揺が広がっていく。その最中、ヴィトラの煽りが炸裂する。


 対するレオンは起き上がりざまにリングを操作し、今度は牙のような鋭い突起が全身に生えた金色の鎧を纏う。それを見たユウは、静かにマジンフォンを取り出す。


「まだこれで終わりではないぞ。剣と盾……さらなる武具を手にすることで、私の強さは完全なものとなるのだ!」


『なら、ボクも見せてあげますよ。ヴィトラから受け継いだ、破壊の力。悪しき者たちの野望を打ち砕き、平和を守るために!』


【6・6・6・6:エンドオブワールド】


『ビーストソウル……オーバーロード!』


 マジンフォンに新たなパスコードを打ち込み、ユウはオーブを顕現させる。そうして現れたのは、銀と紫のグラデーションに彩られた神々しいオーブ。


 これまでのものとは違い、オーブの中にはシンボルとなるものは何も入っていない。オーブを満たしているのは……純粋な破壊の力だけ。


 オーブを取り込んだユウから再び紫色の光が放たれ、コロシアムを満たしていく。今度は慢心せず、レオンは剣と盾を呼び出し攻撃を仕掛ける。


「させぬ! このまま我が剣の錆となれ!」


『フン、今更動いても遅い。刮目して見るがいい、お前が最後に相見える戦士の姿を!』


「ぐ……おおおっ!?」


 だが、刃がユウに届くことはなかった。凄まじい魔力が放たれ、レオンを遠くへ吹き飛ばしたのだ。同時に光が収まっていき……新たな姿になったユウが現れる。


 そこに立っていたのは、銃と拳……二つの魔神形態の融合を果たした少年だった。両の腕と左目が紫色に染まり、ヴィトラとの融合を果たしたことを見せ付けている。


「凄い……これが、パワーアップしたユウくんなのね……!」


『さあ、行きましょうヴィトラ。この戦いを終わらせて、みんなで帰るために』


『ああ、存分に力を振るえ。見せ付けてやるがいい、荒波の如く渦巻く破壊の力を!』


『ええ、もちろん!』


 シャーロットが見惚れるなか、ユウは両脚のブースターを起動させ突撃する。対するレオンは迎撃の構えを取り、青色のカイトシールドを突き出す。


「私は負けぬ、負けるはずがないのだ! シュナイダーやユージーンと共に、この身一つで組織を育てここまでの規模にしてきた! その私に敗北などない!」


『なら刻み込んであげますよ、お前の魂に敗北の二文字を! アメジストストラッシュ!』


「そんな攻撃、我が盾で防……!?」


『てやあああああ!!!』


 盾でユウの攻撃を防ごうとするレオンだったが、叶うことはなかった。破壊の力を宿したバヨネットは、いとも容易く盾を切り裂いてみせたのだ。


 幸い、咄嗟に腕を引っ込めたため盾諸共両断されはしなかった。しかし、そんなのは何の慰めにもならない。裁きの時が、もうやってくるのだから。


「お、おい……やべぇんじゃねえのか? レオン様が押されてきてるぞ」


「このまま負けちまうなんて、そんなことないよな? そうなったら、俺たちもう終わりだぞ……」


「レオン様、負けないで! 私たちの未来はレオン様にかかってるのよ!」


 レオンへの声援が送られるも、これまでのような余裕はもう無い。戦うことが出来ない以上、レオンが敗れればもう手詰まりだと理解しているからだ。


『フン、ピーピーやかましい奴らだ。……そろそろ終わらせよう。ユウ、準備は出来ているか?』


『もちろん! ボクの持てる力、その全てを使って……決着をつけます!』


【オーバーロードブラッド】


「まだだ、まだ終わらぬ! 我が切り札で返り討ちにしてくれるわ!」


 盾を破壊されたレオンは後ろへ大きく跳躍し、追撃から逃れる。ユウはマジンフォンを操作した後、オーブのように自身の体内に取り込む。


 レオンもまた、ユウを葬るべくフォールンガントレットのリミッターを解除する。ありったけの魔力をガントレットに込めつつ、腰だめになり腕を後ろに引く。


MAZIN(マジン) POWER(パワー) ALL(オール) COMBINE(コンバイン)


「この一撃で屠ってくれる! ゴルドライトブラスター!」


『ボクは負けません、絶対に! ……奥義、アメジストブレイカー!』


 垂直に飛び上がったユウは、九つの尻尾で己を包み白銀のドリルと化す。直後、尾が紫色に染まると同時にレオン目掛けて急降下していく。


 対するレオンは腕を突き出し、ガントレットから黄金のレーザーを放つ。が、破壊の力そのものとなったユウにはまるで効かない。


 黄金の波動を切り裂きながら、ユウは突き進む。その最中に放たれた破壊の魔力が観客席に放たれ、観戦していた者たちの肉体ごと魂を消滅させてゆく。


「ひいっ、何か来る! 逃げ……」


「ダメだ、こんなの避けられ……あああああああ!!」


「嫌だ、嫌だ……こんなところで、死にたくな……」


『安心してください、一人残らず消し去りますから。最後はレオン……お前の番だ! クァン=ネイドラに住まう全ての命の怒りを! その身で思い知りなさい! こゃぁぁぁぁぁん!!!』


「バカな、バカな! この私が敗れる……? プロジェクトMを完成させ、究極の力を手にしたはず……ぐ、ああああああ!!!」


 雄叫びを上げ、ユウはついにレオンの元へ到達し……その身体を貫いた。断末魔の叫びを上げながら、レオンの身体が少しずつ原子のチリへと還る。


『ボクから言わせれば、そんなものは究極でもなんでもありません。本当の強さは、たった一人じゃ得られない。信じ合える仲間たちがいたから……ボクは、ここまで来られたんですから』


 地に降り立ち、レオンの消滅を見届けたユウは左腕を伸ばし弾丸を放つ。シャーロットを閉じ込めていた檻を破壊し、愛しき婚約者を救い出した。


「ユウくん!! よかった、本当によかったわ……無事に勝ったのね」


『ええ。ようやく終わったんです。長い長い戦いが』


『こんな場所に長居する必要はあるまい。外にいる連中と合流してさっさと帰るぞ。我は疲れたからな』


『もう、少しくらい余韻に浸ったっていいじゃないですか。……今日は、この大地が平和を取り戻した特別な日になるんですから』


 変身を解いたユウは、駆け寄ってきたシャーロットに抱き締められながら感慨深げにそう口にする。クァン=ネイドラを蹂躙し続けてきた悪逆の組織、リンカーナイツ。


 長きに渡る戦いの果てに、完全に滅び去る日を迎えた。もう二度と、悪しき異邦人がはびこることはない。新たな時代が、幕を開けたのだ。

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― 新着の感想 ―
武器の力だけで、獣の力だけで魔神には至らない(´-﹏-`;) 武器であり獣、獣なれども人として人を愛し、人を守る為にあるのが魔神なのだよ(◡ω◡)
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