178話─堕天の篭手・金の武神
「どうした? その程度の攻撃など私には届かないぞ? もっと力を込めたらどうだ。その貧相な肉体で可能ならば、だがな」
『ハア、ハア……。ここまで追い込まれるとは……やはり、ガントレットの力は侮れませんね……』
城の外でチェルシーたちが勝利を収めていた頃、ユウはレオン相手に劣勢に立たされていた。フォールンガントレットで呼び出した剣の力に押されているのだ。
『レオン自身の剣の腕は中の上くらいだが、あの剣が厄介だな……。振るう者の身体能力を劇的に引き上げる力強いがあるようだ』
『そのようですね、これはちょっとしんどいですよ。剣一本でこれじゃ、先が思いやられますね……』
レオンの一撃を食らって吹き飛ばされたユウは、どうにか着地しつつヴィトラ相手にぼやく。憎たらしいことに、相手はまだ全然本気を出していないのだ。
ユウをいたぶるでもなく、ただ戯れているだけ。その気になれば、いつでも目の前の敵をひねり潰せるとでも言いたげに。
「どうした? シュナイダーにやったみたいに加速攻撃をしてこないのか? それとも、あれで打ち止めかな?」
『見ていたんですか、さっきの戦いを。なら何故、シュナイダーがやられる前に加勢したかったんです? 二対一ならボクを倒せたはずでしょう』
「確かにそうだ。だが、奴がガントレットを機能不全にされるという失態を犯したのを見てその気が失せたのだよ。あんなくだらない失態をする者など、弟とはいえ助ける価値など無い」
『随分な物言いですね。弟の仇を討つとか、そういう家族への愛情は無いんですか!』
「愛情? そんなものは無い。優れた人間はそんな不合理なものでは動かないものだ、ユウ・ホウジョウ! エアソニックスプラッシュ!」
消耗した体力の回復と敵の足止めも兼ね、ユウはレオンに問う。その答えは、あまりにも薄情なものだった。身内への愛など無意味と断じるレオンに、ユウは怒りをあらわにする。
一閃された剣から飛んでくる衝撃波をしゃがんでかわしつつ、そのまま走り寄る。狙うのは、レオンの脚。機動力を削ぎ、相手の択を一つ潰すのが狙いだ。
『そうですか、ならボクはお前を心から軽蔑します。家族すら平然と見捨てるような奴なんかに絶対負けません! サブマリナースラッシュ!』
「くだらん、家族への愛だと? そんなものに縛られる者はただの弱者だということを教えてやる!」
【ARMOUR POWER COMBINE】
怒れるユウの攻撃が炸裂する直前、レオンはガントレットを用いて鎧の力を解放する。すると、レオンが身に着けている鎧が分厚く強固なものへ変貌した。
ユウが放ったバヨネットの斬撃が直撃してもものともせず、逆に刃を欠けさせてしまうほどの耐久性を見せ付けた。驚くユウを蹴り飛ばし、レオンは剣を掲げる。
「見ているだろう? リンカーナイツの同志諸君。この力を得た私は無敵だ! たとえ真なる魔神が相手であっても敗北などないのだ!」
「うおおおおおお!! やっぱりレオン様はすげぇや!」
「このままあのガキをぶち殺せー!」
余裕たっぷりの態度で、観客たちにアピールを行う。再びのレオンコールでコロシアムが湧くなか、シャーロットは一人心配そうにユウを見つめる。
「ユウくん……! いつまでも見てるだけじゃダメだわ、この檻を壊して加勢しないと!」
このままではユウが倒されてしまう、とシャーロットはひたすら檻を殴り付けて破壊しようと試みる。外に出ることさえ出来れば、ユウに力を貸せる。
そんな彼女の抵抗に気付き、レオンは薄ら笑いを浮かべる。何かよくないことをしようとしている……そう察したユウは再びレオンへ突撃していく。
『何をするつもりかは知りませんが、シャロさんに手出しはさせません!』
『レオンよ、貴様が自慢するその武具……果たして終焉の力に抗えるのかを見せてもらおうか! オニキスイリュージョン!』
「何を……」
『食らいなさい! アッパードストラッシュ!』
「ぐうっ!」
終焉の力の一つたる【境界のオニキス】の力を発動し、堅固な守りを崩さんと試みるヴィトラ。流石の装具も終焉の力には抗えないようで、その耐久力をある程度落とすことに成功した。
が、それでもレオンに与えられたダメージは致命傷となるにはほど遠い。ユウが第二撃を放つよりも先に、レオンは剣を消しバヨネットを殴り砕く。
『なっ……!?』
「いけない刃だ、この私に手傷を負わせるとは。だが、これでもう……お前は何も出来ない!」
【HAMMER POWER COMBINE】
「吹き飛べ、女共々始末してやる! アイアンバルトクラッシュ!」
『う……がはっ!』
ユウが驚いて動きが止まった隙を突き、リングに魔力を流し込んで自動回転させる。そうして生み出した、打面が鋭く尖ったハンマーを呼び出し反撃を叩き込む。
胴体へモロに攻撃を食らったユウは大量出血しながら吹き飛ばされ、シャーロットが閉じ込められている檻に叩き付けられた。呻きながら崩れ落ちる少年に、シャーロットが声をかける。
「ユウくん! この距離ならマジンフォンを使える、すぐ手当をするわ!」
『う、けほ……。ありがとうございます、シャロさん。でも、このままじゃ……あいつには勝てないかもしれません……』
檻の隙間から腕を出し、マジンフォンをユウに押し当ててヒーリングメイルを発動する。そうして治療を行い、どうにか敗北の危機は免れた。
だが、魔神の武具を自在に操るレオンを倒すすべを見出せずユウは考え込む。対するレオンは、またしても余裕の笑みを浮かべて直立したまま動かない。
『腹立たしい奴だ。完全に遊んでいるな、いつでも我らを纏めて殺せると思っているようだ』
「ヴィトラ、何とか出来ないの? たとえばあなたの力で、あのガントレットを破壊するとか……」
『無理だ、残滓たる我ではそこまでの出力は出せぬ。……ただ一つの、最後の手を使えば話は別だが』
『最後の手……?』
シャーロットに問われたヴィトラは、静かにそう答える。ユウが重ねて問うなか、返ってきた言葉は……。
『……我が小僧に取り込まれる形で融合すれば、終焉の力が新たな主体。すなわち小僧へと移り、その力を増すのだ。もっとも、それでも全盛期のように全ての力を扱えるわけではない。【破壊のアメジスト】の力を解き放つのが限界だろう』
「破壊……それならきっとあのガントレットもどうにか出来るはずよ! なら」
『だが、代償に我の意識は完全に消えるだろう。小僧の一部となるのだからな。もう二度と、話をすることは……叶わなくなる』
『そんな……!』
最後の切り札。それは、ヴィトラが当初計画していたのとは真逆の方法。ユウの魂をベースに、己を融合させることで終焉の力を強化するというものだ。
だが、その代償もまた大きい。この方法を取れば、魔魂片ヴィトラという存在は……永久に消え去る。ユウの一部となる形で。
『どうした、何をそんなにショックを受ける必要がある? 元はと言えば、我と貴様は敵同士だったのだぞ? ……基底時間軸世界の脅威が一つ消えるのだ、喜ぶべきことだろうよ』
『喜べるわけないじゃないですか! 出会った頃ならともかく、今のボクとあなたは……相棒なんですよ! その消失を悲しむな、なんて……無理に決まってるでしょう!』
「そうよ、確かにあなたは敵だった。でも、あなたが力を貸してくれたからユウくんはマヤを倒して過去を断ち切れたのよ。もうあなたは敵なんかじゃないわ!」
ヴィトラの消滅と引き換えに、終焉の力を受け継ぐ。その選択を、今のユウには決断出来ずにいた。だが、悩んでいる時間は彼らに残されていない。
いずれ、飽きたレオンがトドメを刺すため攻撃を再開するだろう。そうなれば、ガントレットの力で蹂躙され敗れることになる。そうなれば、全て終わりなのだ。
『迷うな、小僧! 終焉の力を継承出来るのはお前しかいない! 勝たねばならぬのだろう? なら……先に進め。我を失うことになっ……? 待て、小僧。貴様何を……?』
『……嫌なんですよ、ボクは。何かを得るために、すでに得た大切なものを失うなんてのは。欲張りだと罵られようとも、ボクは選びます。何も失わず、終焉の力を継ぐ未来を!』
「ユウくん……!」
ユウを叱咤し、励ますヴィトラ。が、その途中で異変に気付く。以前、終焉の力が暴走しないようユウへかけたリミッターが外れていることに。
ヴィトラを失うことなく、終焉の力を継承する。第三の選択を実現させるべく、ユウが無理矢理リミッターを消し去り【境界のオニキス】の力を発動したのだ。
「……? 何をしているのだ、奴らは。まあいい、何をしようとも私に勝つことはない。しばしの余興だ、じっくりと見物させてもらおう」
その様子を遠くから見ていたレオンは、あえて妨害せず静観することを決めた。絶対強者の驕りが、致命的な間違いを生んだことを知ることもなく。
『ボクの魂の力で、【境界のオニキス】のパワーを増幅させれば! ヴィトラの存在を保ったまま融合出来るはず……いや、絶対にしてみせます!』
『……フ。本当に欲張りな奴だ、お前は。せっかく、貴様のために自己犠牲の覚悟を決めてきたというのに。なら……これからも共に在ろう。貴様の望むがままに! さあ、我が終焉の力……受け継ぐがいい!』
「まぶしい……! 紫色の光が、ユウくんから溢れてくる……!」
誰一人欠けることなく、勝利を収めるために。今、少年は受け継ぐ。終焉の力を……その魂の中に。




