177話─最後のトップナイト
死闘の末、シュナイダーを見事打ち倒したユウ。トップナイトの敗北を受け、観戦していたリンカーナイツの構成員たちの間に動揺が広がる。
ドーム状のバリアが消えていくなか、観衆は口々に不安を口にする。それだけ、シュナイダーが負けたのが衝撃的だったのだろう。
「おい、嘘だろ……。シュナイダー様がやられちまったぞ……」
「そ、そんな……! あんな強かったシュナイダー様が負けるなんてあり得ないわ……」
「俺らこのままあのガキにこ、殺され……」
『フン、情けない奴らめ。非戦闘員だそうだが、情けをくれてやる必要はあるまい。さっさと全滅させ──!』
『この気配……誰かが……来る!』
後は観客たちを全滅させ、シャーロットを助け出すだけ。そう思っていたユウは、一つの気配が近付いてくるのを察した。コロシアムの奥、閉ざされた出入り口が開き……。
「やるな、ユウ・ホウジョウ。我が弟シュナイダーを倒すとは。ただの異邦人ではなく、魔神でもあるのだ……やはり、そう簡単には破れぬか」
『……来たか。最後のトップナイト……レオン・リーズ。気を抜くな、小僧。奴は弟よりも遙かに強いぞ』
『ええ、気配だけで分かりますよ。あいつの力は……!』
一歩ずつ、高らかに足音を響かせながら歩いてきた。最後のトップナイト、レオンが。黄金色に輝く鎧を身に着け、威風堂々とした佇まいで。
左腕には、これまた黄金色に輝くフォールンガントレットが装着されている。レオンの姿を見て、観客たちは元気と勢いを取り戻したらしい。
「そ、そうだ! 俺たちにはまだレオン様がいるじゃないか!」
「レオン様なら絶対勝てるわ! なんてったって、最強のトップナイトだもの!」
「レオン! レオン! レオン! レオン! レオン! レオン!」
観客たちのコールに迎えられ、ユウの前に立つレオン。威圧感たっぷりな相手に上から睨まれるも、ユウはもう過去のトラウマに苛まれることはない。
「弟が世話になったな。今から礼をしてやろう。余さず受け取るといい、ユウ・ホウジョウ」
『お礼? お礼はお礼でもお礼参りの方でしょう。生憎、そんなのは……いりませんね! フォックスレッグ・ロケット!』
「フ、手荒な挨拶だな。ウォーミングアップにはちょうどいい」
軽く言葉のやり取りをした後、ユウは不意を突いてハイキックを放つ。脚部のブースターを用いて加速させた一撃を叩き込む……つもりでいたが、レオンは身体を反らして攻撃を避ける。
そのまま大きくバックステップし、着地するのと同時にガントレットのリングを回す。シュナイダーのものとは違い、リングには七つの武具のアイコンが刻まれていた。
ユウの父母、そしてきょうだいたる魔神たちの象徴。剣、斧、槍、鎚、牙、鎧……そして、盾。それが意味することは、たった一つしかない。
【SWORD POWER COMBINE】
「見せてやろう。私の持つ黄金のフォールンガントレットの力をな。そして……その威光にひれ伏すがいい」
『そうはいきませんよ、次世代を担う魔神の一人として……エセ魔神パワーになんて負けません!』
リングに刻まれた剣のアイコンを三角マークに合わせると、黄金に輝く長剣が出現しレオンの手に収まる。それを見て、ユウとヴィトラは理解した。
シュナイダーは魔神の持つ【獣の力】を使用していた。が、レオンはもう一つの権能たる【武具の力】をその身に宿し、使いこなしているのだと。
気を引き締め、ユウは地を蹴ってレオンへと飛びかかる。最後のトップナイトとの戦いの幕が、静かに上がった。
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その頃、城外での戦いもいよいよ終盤に突入していた。パラディオンたちの優勢が覆せぬものとなり、ついに大勢が決した……そのはずだった。
「よし、あらかた敵を始末出来たな。後はあのデカブツ……!? なんだ、あいつ仲間を食い始めたぞ!?」
「お、おい待て! オレは仲間だぞ、食うならあいつら……ひっ、うわああああ!!」
「クウ……クッテ、カイフクスル……。ゼンイン、カテニナレ……タマシイヲサシダセェェェェェ!!!!」
追い詰められたゼルヴェギウスが、数少ない生き残りのリンカーナイツの下っ端たちを捕食し始めたのだ。完全回復されたら、壊滅的な被害が出かねない。
そう判断したブリギットは、単身ゼルヴェギウスへ突撃する。捕食を中断させ、回復するのを阻止せんと執拗に頭部へ攻撃を加えていく。
「させないデスよ! 仲間を食べちゃうヨウな悪いコはバチボコに切り刻んでやるデス! トマホークスターレイン!」
「ブリギット、一人で突っ走ってはダメだ! 私たちも援護する、飛べるメンバー全員で」
「ジャマヲ……スルナアァァァァ!!! オオォォォォ!!!」
これまでの激闘で、すでに相手の核が頭部に内蔵されていることは暴かれていた。ブリギットに続き、ミサキたちも攻撃せんとしていた…、その時。
ゼルヴェギウスが後ろ脚で立ち上がり、絶叫と共に全身から黒い邪悪な波動を放ったのだ。ブリギットはなんとか耐えたが、他の者たちは吹き飛ばされてしまう。
「ぐうっ! くっ、何だい今のは……」
「危なかったデス、なんとか耐え」
「ブリギットの姐御、あぶねえ!」
「オマエカラ……シネ!」
「しま……アガッ!」
墜落したミサキたちへブリギットの意識が向いた、その刹那。唯一宙に留まっていた敵を仕留めるべく、ゼルヴェギウスが猛スピードで迫る。
憲三が叫ぶも時すでに遅く、ブリギットは角に貫かれてしまう。その様子を見てしまった仲間たちが、悲痛な叫びをあげる。
「ブリギットォォォォォ!!!」
「急いで助けませんと! 今ならまだ治療が間に合うはずですわ!」
「サセヌ……キサマラモ……ココデゼンインコロ……?」
「ぐ、ウウ……。まだ、デス……! ワタシはこんなところでくたばりマセン! ゆーゆーを遺して死ねるワケねーってんデスよ!」
生存は絶望的かと思われたが、驚くべきことにまだ息があった。自動人形ゆえの耐久力の高さが功を奏し、辛うじて即死を免れたのだ。
「ナゼ、イキテ……」
「そんなのは決まってるデス! ワタシはまだ死ねナイから! ゆーゆーやしゃろしゃろたち……みんなと一緒に勝って帰る! ソウ約束したんデス!」
「グウ、オオォ……」
ブリギットは角に貫かれたまま、トマホークを呼び出しては次々と投げ付けていく。波動を放って仕留めようにも、ゼルヴェギウスは頭部そのものから波動を出せない。
隙間なくミッチリと拘束具で覆われているがゆえに、内部に溜め込んだ力を口と首から下の胴体からでなければ放てないのだ。前脚で引き剥がそうとしても、他のパラディオンが阻止しにかかるので不可能。
「今のうちに総攻撃だ! さっさとデカブツを倒してブリギットを治療するぞ!」
「よくよく考えてみれば、あいつの鼻先ことが厄介な波動を食らわない死角になっているのか……。怪我の功名、というわけだ」
「そうデス! ワタシは転んでもタダでは起きマセン! 前脚の攻撃サエ封殺すれば、この場所こそが……絶好のポジションに早変わりするのデスよ! とおりゃあああーー!」
「グ、オ……ヤメ、ロ……! アグアァァァァ!!!」
マジンフォンを遠隔操作し、ヒーリングメイルを発動して無理矢理ダメージを凌ぎながら猛攻を加えるブリギット。彼女の執念が実を結び、ついにゼルヴェギウスの頭部に亀裂が走った。
「よし、今だ! トドメを刺しつつブリギットを救出するぞ! タイタンズハンマー!」
「ふふ、承知したよ。さあ……これでフィナーレだ! 九頭竜剣技、終ノ型……地砕下り龍!」
「行きますわよ、奥義……スパイラル・シェイブスピアー!」
「もう一息……あっしも押させていただきやす。忍法、脳天破砕拳の術!」
他のパラディオンたちが相手の反撃を封じている間にトドメを放つチェルシーたち。チェルシー、ミサキ、ジャンヌ、憲三……四人の奥義が、ゼルヴェギウスの頭部を貫き核を粉砕した。
「アアアァァァァ……!!! ……あり、がとう。これで、われわれは……やっと、かいほうされる……」
「! この声は……囚われてイタ魂たちの……オブフェッ!」
「ブリギット! ったく、無茶しやがってよこの野郎……! ヒーリングメイルがあるからって、土手っ腹貫かれたまま戦う奴があるか!」
断末魔の叫びをあげ、おぞましき怪物は崩れ落ちていく。その中で、もっとも近くにいたブリギットだけが聞いた。異邦人たちの魂の、感謝の声を。
そのまま地面に落ちた彼女の元に、大慌てなチェルシーが駆け寄る。角の残骸を引き抜き、自身のマジンフォンを押し当て追加のヒーリングメイルで傷を癒やす。
「本当だよ、死なずに済んだからよかったものの……。ほら、私たちのマジンフォンも使うといい。その方が早く傷も治るさ」
「えへへ……。マア、勝ったのデスからよしとしまショウよ。後は……ゆーゆーが勝ってくれれば……万々歳で……がい、せん……」
「ブリギット先輩!? ……気を失ってしまいましたわ。他の方々も大なり小なり損耗していますし……ユウ様への加勢は──!?」
仲間に怒られつつも、無事難局を乗り切った安堵の笑みを浮かべるブリギット。戦いが終わったことで緊張の糸が切れ、その場で気を失ってしまう。
ユウへの加勢に向かうメンバーをどうするかジャンヌが思案していると、突如リンカーナイツの城がバリアで覆われる。ユウを助ける者の侵入を阻むかのように。
「これは……坊ちゃん……」
ユウの身を案じ、憲三は主の名を呟く。最後の戦いの行方は、果たして……。




