175話─決意と、使命と、闘志と
『食らえっ! エクステンドブレード!』
「Are you trying to tear me apart? I'll easily parry such an attack! Toad Matador!(俺を切り裂こうってか? そんな攻撃、軽く受け流してやるよ! トードマタドール!)」
僅かに先行したことで、ユウの攻撃が一歩早く炸裂する。横薙ぎに払われた刃がシュナイダーを捉え切り裂く……。と思われたが、そうはならなかった。
体表を覆うぬめぬめとした粘液を利用し、ユウの攻撃を受け流してしまったのだ。その姿は、まるで闘牛士のよう。剛に対する柔の戦術だ。
『ぬるぬるした粘液のせいでかわされてしまいますね。さて、これをどうやって攻略するか……』
「There's no need to think about that, right? I'll knock you out with this one blow! Hopper break!(そんなことを考える必要はないぜ? この一撃でブチ抜いてやる! ホッパーブレイク!)」
『見切った、今です! ダウンダウンスラッシャー!』
自分から攻撃を仕掛けても、虫の俊敏さとカエルの粘液による回避戦法であらゆる攻撃を避けられてしまう。そこでユウは、一つの作戦を編みだした。
それは、わざと攻撃を回避させ自身の隙を作る。そこを突いて反撃してきたシュナイダーの攻撃動作中に、不可避の一撃を放ちぬめり戦法を封じるのだ。
いかに回避に長けているといっても、攻撃をしている最中では話は違う。さらに、粘液に滑らされないよう攻撃を垂直に叩き込むことを意識していた。
『せいりゃああああ!!!』
「ああっ、シュナイダー様がやられた!」
「落ち着け、まだ片脚を斬られた程度だ! 大丈夫、ここから逆転してくれるって!」
「いいわよユウくん、そのままペースを握ればいけるわ!」
その目論見は見事に当たり、カウンターの蹴りを放ってきたシュナイダーにユウの攻撃がようやく炸裂する。観客たちがざわめき、シャーロットは喜びの声をあげた。
「Argh! Damn it, you just cut off my leg!(ぐあああ! クソっ、よくも俺の脚を切り落としてくれやがったな!)」
『ハッ、獣の力を得て慢心するからそうなるのだ。貴様の持つ魔神の力は所詮まがい物に過ぎん。頼り切ればいずれしっぺ返しを食らうぞ?』
「shut up! If you say that, the same goes for that kid! Everything is covered in afterthoughts and cheats, what's the difference between you and us? It's no different, after al(黙れ! それを言うなら、そのガキだって同じだろうが! 何から何まで後付けのチートまみれだ、俺たちと何が違う? 違わないさ、所詮)」
『同じ? それは違うな、小僧は貴様らとは決定的に異なるものがある。与えられた力を己が血肉へと変え、自らの持つ技として磨き上げる努力だ!』
脚を切り落とされたシュナイダーは、粘液を利用して床を滑りユウの攻撃範囲から離脱する。即座に脚を再生させ、怒りに満ちた目で少年を睨む。
そんなシュナイダーに対し、ヴィトラが嘲りの言葉を投げかける。反論するシュナイダーに、ヴィトラはそう答えた。
『ええ、ヴィトラの言う通り。ボクがこの世界で生まれた時に持っていたものは、魂の強さくらい。このマジンフォンも、ファルダードアサルトも、チート能力も。全てもらい物です』
「But what? Do you think it's okay to open up again like that?(でも、なんだ? そうやって開き直ればいいとでも?)」
『でもね、シュナイダー。ボクは力に溺れませんでした。お前たちのように、勝手気ままに欲望を満たすためじゃなく! この大地に暮らす人々を守るため! 磨き上げ振るってきた!』
『そうだ。我が小僧の内に封じられた時からずっと見ていた。小僧は一度たりとも、貴様らのような狡い力の使い方をしなかった。元敵の我が言うのも滑稽だが、傑物かくあるべし……ということだ』
シュナイダーに肉薄し、連続で斬撃を繰り出しながらユウは口撃も交え攻めていく。ここに来て、少年は初めて精神的にシュナイダーに対して優位に立った。
おぞましき力に酔いしれ、慢心しきっていたがゆえの失態。その事実がシュナイダーの自尊心を傷付け、少しずつ心の余裕を奪い始めていたが……本人は気付いていない。
「They're the ones who irritate people to no end, just kidding! If this happens, the trump card will be unlocked! I'll beat you up completely and then kill you!(どこまでも人を苛つかせる奴らだ、ふざけやがって! こうなったら切り札解禁だ! 徹底的にブチのめしてから殺してやる!)」
『切り札、か。少しは我らを楽しませてくれるものであることを期待しておくとしよう』
『どんな切り札でもムダですよ! ボクたちの強さを超えることはない、そう断言してやります!』
苛立ちを掻き消すように、シュナイダーは叫ぶ。城内の戦いがクライマックスに差し掛かろうとしているなか、城の外では……。
「奴の出す波動に気を付けろ! ユウが耐性を付与しちゃくれたが、直撃を食らえばタダじゃ済まねえぞ!」
「了解、チェルシーさん! オラッ、食らえリンカーナイツのクズども!」
「うぎゃあっ!」
ユウを送り出したチェルシーたちが、リンカーナイツの大部隊……そしてゼルヴェギウスとの激戦を繰り広げていた。少しずつ下っ端たちを倒していき、数では優位だが……。
「グゥゥゥ……オオオォォォォ!!!」
「っぶね! チッ、ホントめんどくせぇ。あの野郎が口から出す波動が直撃したら、魂をあん中に囚われちまうなんてよ」
「そうですわね……口から放出するだけならまだしも……ハァッ! 頭部以外の全身に纏っていてはどう攻めたものか……」
最後の壁として立ちはだかってくるのが、やはりゼルヴェギウスだった。完全体は試作体と違い、触れた者の魂を糧として取り込む力を宿している。
タチの悪いことに、異邦人であろうがなかろうがお構いなしだ。試作体よりも大きさを増し、体高が二十メートルを超えるとあっては弱点と思わしき頭への攻撃手段も限られる。
「まずいでやすね……。こんな時に坊ちゃんがいてくれりゃあ、自慢の射撃であいつのドタマを撃ち抜いて楽にケリを着けられたんですがねぇ。こいつぁ骨が折れまさぁな!」
「誰か! マジンランナーのミサイルのクールタイムが経過した者はいないかい!? 手当たり次第撃ち込めば……」
「ダメですミサキさん、まだミサイルが……うわああああ!!」
「オォォ……ゼンイン、クラウ……タマシイヲ……ヨコセェェェェェ!!!!」
空を飛べるパラディオンは優先的にゼルヴェギウスに狙い撃ちされ、ほとんど残っていない。頼みの綱のミサイルも、まだ再使用までの時間制限を満たせていない。
数少ない飛行可能な者の一人であるミサキも、怪物とリンカーナイツの構成員の連携で空へ飛び立つことが出来ずにいた。万事休すかと思われた、その時。
「ミンナ! 諦めたらダメなのデス! ワタシたちの役目は、ここにいる敵を全滅させるコト! 活路は……必ず拓けマス! トマホークイルージョン!」
「グゥ……ジャマナ、オノダ……!」
一足先に空へ舞い上がったブリギットが、大量のトマホークを叩き込みゼルヴェギウスを後退させる。彼女の叫びが、パラディオンたちに勇気を与えていく。
「そうだ、ここで尻込みしてる場合じゃねえんだ! 飛べねえ奴は敵の排除に集中しろ、飛べる奴らが空に向かう隙を作れ!」
「怪我した人は下がりなさい! マジンランナーに魔力をチャージしてミサイルのクールタイムを縮めるのよ!」
「へっ、やるじゃねえかブリギット。そうだよな、誰が相手だろうがよぉ。立ち向かうのがアタシらパラディオンだ!」
敵の増援は、もう来ない。戦える者は全て戦場に現れ、そうでない者はユウとシュナイダーの戦いを観戦している。後は密な連携をもって、敵対者を全滅させるだけ。
それぞれのすべきことを見つけ、パラディオンたちは最後の一押しを始める。おぞましき怪物を打ち倒し、糧として囚われた魂たちを救う。
今が、使命を果たす時だ。
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