172話─異邦の決戦
リーズ兄弟、そしてゼルヴェギウスとの邂逅及び交戦を行った日から三週間。ユウたちの報告を受けたパラディオンギルドは、総力を挙げてリンカーナイツの本部特定を行っていた。
非異邦人のメンバーが人海戦術を駆使し、クァン=ネイドラ全域の捜索を行った結果。ユウたちが暮らすリディード大陸の遙か南、どの国にも属しない人跡未踏の山中に本拠地を見つけたのだ。
『……ついに来ましたね、この時が。リンカーナイツとの最後の戦いがついに始まるのですね……』
「ええ、ここでケリをつけましょう。みんなやる気十分、いつでも出発出来るわ」
ギルドからの知らせを受け取ったユウとその仲間たちは、ガンドラズルへ集結する。そして、パラディオンたちが総攻撃を行う準備が整うのを待っていた。
そんななか、姿を見せないパラディオンたちがいることをユウは心配していた。清貴やグレイシーに俊雄……かつて共に戦った異邦人たちが消息を絶った。そんな知らせが来ていたのだ。
(義人さんの例を見るに、グレイシーさんたちも……。絶対に許しませんよ、シュナイダーにレオン。これ以上の暴挙、絶対に阻止してやる!)
未だ魂が戻らず、昏睡状態にある義人も合わせ必ず助け出すと決意を固めるユウ。リンカーナイツに魂を奪われた異邦人たちの一部は、試作型ゼルヴェギウス撃破により回復することが出来た。
だが、義人を含む大勢の異邦人は未だ眠りに着いたまま。【本命】となるゼルヴェギウスの糧とされている……ユウたちはそう推測をしていた。
「ゆーゆー、グランドマスターから出撃許可が出まシタ! フェダーン帝国の南にあるザノローア教国を経由シテ、リンカーナイツの総本山に殴り込みマスよ!」
「へへ、ついに出撃だな。覚悟してやがれ、一人残らずぶっ潰してやるからな……!」
「ああ、そうしよう。今日が彼らの命日さ。ふふふ、我が腕に封じられた呪われし竜の力が疼く……」
「……前から思っていましたが、ミサキ先輩って変わっていますわね」
ギルドが所有する巨大広場にて、フォックスレイダーやマジンランナーを展開して待機していたユウたち。そこに、グランドマスターからの知らせを受けたブリギットが戻ってくる。
これよりユウたちを含むパラディオンの大部隊は、ワープマーカーを用いてフェダーン帝国の南にある国。創世六神を崇める宗教国家、ザノローア教国の最南端へ転移するのだ。
そこからさらに南下し、リンカーナイツの本拠地を強襲して殲滅する。それが、ギルド上層部の計画した最終決戦のプランなのである。
『あー、あー。無事映像は投射出来ているかな? ……ふむ、問題は無さそうだ。勇敢なるパラディオンの諸君、今日は世紀の決戦に参加してくれたこと……グランドマスターとして嬉しく思う』
出陣の前に、魔法を用いた巨大な立体映像の投射によるグランドマスターの演説が始まる。集結したパラディオンたちは、皆静かに耳を傾けていた。
『リンカーナイツは、我らが偉大なる魔神より賜りしデバイス……マジンフォンを悪用した恐るべき武具。そして、異邦人の魂を糧とするおぞましき生物兵器を生み出し……踏み越えてはならぬ倫理の一線を越えた。これは許されることではない!』
「ええ、その通りでさぁね。……魔夜を思い出してけったくそ悪くなりやすぜ、ホント」
『今、我々は立ち上がらなければならない! 大地の民、そして善き者たらんとする異邦人たちの安息のために! 最後の戦いに打ち勝ち、邪悪なる者たちを討ち滅ぼすのだ!』
「オオオオーーーーーー!!!!!」
かつての主を思い出し、苦々しい顔で呟く憲三。そんななかでも、グランドマスターの演説は続く。ついに怨敵を滅せるとあって、パラディオンはみな雄叫びをあげる。
『勇敢なる戦士たちよ、恐れるな! 敵は強大なれど、正義は我らにある! 今飛び立つのだ、この大地の明日のために!』
『……ええ、やってやりますよ。リンカーナイツの悪行、全部清算させてやります。……さあ、出撃です!』
グランドマスターの演説が終わるのと同時に、広場を覆うように巨大なワープマーカーが敷かれ起動する。そうして、ユウたちパラディオンを誘う。最後の決戦の地へ。
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「あらあら、面白いことになってきたわね。あのパラディオンとかいう連中……ふうん、総攻撃を仕掛けるの。けっこうな退屈しのぎになりそう」
「よろしいのですか? フィービリア様。リンカーナイツとは同盟を結んでいる間柄、救援は……」
「不要よ。彼らには大々的に滅んでもらわないと私の計画が進められないもの。それに、今はキュリア=サンクタラム侵攻で忙しいから救援に軍を割く余裕は無いわ」
同時刻、暗域。自身の居城にて、フィービリアは水晶玉を覗き込んでいた。クァン=ネイドラの命運を決する戦いを、高見の見物と洒落込むつもりらしい。
側に控える闇の眷属の執事が問うと、気まぐれな女王はそう返す。彼女にとって、リンカーナイツとの同盟締結は彼らが滅びることを前提としてのもの。
それに加え、盾の魔神リオの故郷にしてヴェルド神族の拠点……キュリア=サンクタラムへの侵攻作戦が控えている。余計な事をしている暇はないのだ。
「左様でございますか。しかし、かのベルドールの魔神たちに宣戦を布告するということは、その……」
「コーネリアスを敵に回すのに等しい、でしょう? 大丈夫よ、そこも織り込み済み。魔神とコーネリアスの軍勢を同時に相手取るくらい余裕だわ」
「確かに、現在陛下の唱えるダーク・ルネッサンスに同調し配下となった諸侯はかなりの数に上りますが……」
もう数週間も経てば全面戦争が始まるというのに、自室でくつろぐ主を見て執事は心配そうに尋ねる。フィービリアは珍しく癇癪を起こすことなく、余裕の態度で答えた。
「問題なんて無いわ。これまでコーネリアスに睨まれ、フラストレーションを溜めてきた過激派がどれだけいると思う? 奴らにひと泡吹かせるためなら、命すら惜しくない狂人たちよ? つまりはそういうこと……ふふ」
「まさか、彼らに自爆特攻をさせるつもりですか!?」
「ええ、もちろん。この機会にコーネリアスも潰しておこうと思ってね、すでにイゼア=ネデールへの攻撃準備をせよと指示してあるわ」
「そ、そこまで戦線を広げなさるおつもりですか!? ネクロ旅団や他の神々側の戦力が参戦してきたら手に負えませんよ!?」
フィービリアのとんでもない発言に、執事は仰天し危うくひっくり返りそうになる。イゼア=ネデールはコリンにとってもう一つの故郷であり、触れてはならない逆鱗。
いたずらにちょっかいをかければ、冗談抜きで一族郎党纏めて根絶するレベルの報復が待っている。それでもなお、過激派を束ねる者として攻撃を仕掛けることを決めているのだ。
「ネクロ旅団や双子大地の連中は来られないわ。前者は理術研究院との戦争、後者はダイナモなんちゃらを巡る騒動でそれなりに消耗したから。しばらく動く余裕は無いもの」
「た、確かにそうかもしれませんが……」
「ああ、もう一つの……ガーディアンズ・オブ・サモナーズといったかしら? そいつらも動くのは無理よ、自分たちの問題で手一杯だから。ふふふ、各地の情勢の調査くらいちゃんとこなしているのよ」
自信満々な様子で答えた後、フィービリアは水晶玉を通したクァン=ネイドラの観察に戻る。邪悪なる魔戒王が見守るなか、ついに決戦が始まった。
その行方は、果たして……。




