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170話─聖の乙女と邪の乙女

 ユウたちが身構えるなか、空間の歪みの中から……【ソレ】は現れた。地を揺らしながら、ゆっくりと……異形がおぞましいその姿を見せる。


 さび色の金属を用い、細長い板とリングを組み合わせて作られた、手脚と胴体を形作る拘束具。その中に閉じ込められた、炎のようにうごめく青白いナニカ。


 鼻先に鋭いツノを備えた、拘束具製のサイのような頭部を持つもの。異邦人の魂を糧に動く、理を超えた外法の産物。その名は……ゼルヴェギウス。


「オオ、アアァ……」


「くっ……。今までいろいろとエグいものを見てきたしたが……こいつはダントツでやべぇ。心臓を氷水にブチ込まれたみてぇな……寒気を感じまさぁ」


『ええ、これは……。あまりにもおぞましくて……痛ましいです。あの青白いのは……取り込まれた異邦人たちの魂の集合体、でしょう。よくもこんな酷いことを……!』


『……小僧、アレをさっさと仕留めるぞ。燃料にされている魂がどうなるのかは分からぬが……ああやって苦しめられ続けるよりはマシだろう』


 怪物が呻き声を上げるなか、ユウの耳には別の声が聞こえていた。痛い、苦しい、助けて、ここから出して。声なき声として、囚われた魂たちの悲痛な叫びが届いたのだ。


『ええ、もしかしたらあの怪物を倒すことで魂を解放して生還させられるかもしれませんからね。行きますよ、ボディ……』


「ユウ様? お帰りが遅いのでシャーロット先輩に様子を見……ぎにゃああああ!? か、怪物がいますわあああああ!!」


『おお、新参の小娘。いいタイミングで来たな、アレを倒すのを手伝え』


 決意を固めたユウが、ヴィトラの肉体を顕現させようとしたその時。彼らのすぐ側にシャーロット製のポータルが現れ、ジャンヌがやって来た。


 なかなか戻ってこないユウと憲三を心配したシャーロットが、迎えを寄越してきたらしい。ゼルヴェギウスに気付き、ジャンヌは、仰天し絶叫する。


「オオ、アアァァァ……!!!」


「来やすぜ、坊ちゃんにジャンヌの姐さん! あの脚に踏み潰されたらミンチにされちまいやす!」


 ゼルヴェギウスは後ろ足だけでゆっくりと立ち上がり、そのままユウたちへ歩み寄り両の前足を叩き付ける。憲三の叫びを合図に散開し、攻撃を避けた。


 が、攻撃によって発生した衝撃波が直撃しポータルが破壊されてしまう。シャーロットが異変に気付いて再度ポータルを作るまで、援軍が来ることはなくなってしまった。


『説明は戦いながらします、力を貸してください!』


「わ、分かりましたわ。とにかくアレが敵だというなら……容赦はしませんことよ! 最初からフルスロットルで行きますわ!」


【2・8・1・6:マジンエナジー・チャージ】


「ビーストソウル・リリース!」


 右脇腹に取り付けられたホルダーからマジンフォンを取り出し、素早くマジンコードを入力するジャンヌ。直後、槍のアイコンが納められた水色のオーブが出現する。


 オーブを取り込み、獣の力を解き放つジャンヌ。そうして現れたのは、下半身が水色のクモそのものに変化し……アラクネと呼ばれる魔物によく似た姿となったジャンヌであった。


「破槍バルファラートがあるので、普段はこの力を使いませんが……よほどの強敵であらば話は別ですわ。さあ、クモの化身となったわたくしの戦いを見せて差し上げましてよ!」


『ほう、面白い姿になったな。小僧、我も負けていられん。早く肉体を寄越せ!』


『はいはい、そう焦らないでくださいよ! ボディ・クリエイション!』


「グル……ルル、ウウウアアァ!!!」


 本気を出したジャンヌを見てやる気をみなぎらせたようで、ヴィトラはユウを急かし再び肉体を創らせる。その時、ゼルヴェギウスが咆哮を放った。


 ユウ……正確には少年が創り出したヴィトラの肉体へ狙いを定め、憑依する前に仕留めんと突進をかます。鋭い角を向け、ユウごと串刺しにする勢いだ。


「坊ちゃん! 今助けに」


「ここはわたくしにお任せを。見せて差し上げましょう、変幻自在のスパイダー・マジックを! ユウ様、失礼致しますわ。レディファスト・トリップ!」


 ジャンヌは胴体にあるクモとヒトの部分の境目に小さな蜘蛛の巣模様の魔法陣を作り出し、そこから糸を発射する。着弾地点は、ユウの腹。


 ユウを固定地点とし、糸をワイヤーリールのように魔法陣の中に巻き取ることで走るよりも速く少年の元に到達したジャンヌ。槍を振るい、異形に向ける。


「ググルアァ!」


「フッ! かなりの膂力がありますが……押し留めるのに不利というほどではありませんわ。さあ、今のうちに!」


 バルファラートを叩き付け、ゼルヴェギウスの突進を食い止める。八本の脚に力を込めて踏ん張り、ユウたちへ到達させまいと逆に相手を押し込む。


 その間にヴィトラは受肉を終え、再び現世に顕現する。今回は宇野戦と違い、赤を基調とした海賊衣装に身を包んでいた。


『ククク、よくやったぞ。褒めてつかわそうではないか。褒美をやろう、我が奴を仕留める姿を照覧するという最上の報償だ!』


「あら、貴女一人に活躍なんてさせませんわよ。未来の旦那様にわたくしの凜とした美しき強さをお見せするチャンス、逃すわけがないでしょう?」


『フン、まあいい。なら足を引っ張らぬようにしておくのだな。小僧、忍び男。貴様らは手を出すな、のんびり我らが勝利するところを見学していろ』


『また好き勝手なことを……。ま、そこまで言うならそうさせてもらいます。ニムテに向かわないようにだけ、相手の動向を見晴っておきますよ。ね、憲三さん』


「ガッテン!」


 背中に銀色のドクロが描かれた海賊コートの裾をひるがえし、地に降り立つヴィトラ。一人で敵を片付けようとするも、ジャンヌはそれを拒む。


 ユウに獣の力を纏う自分の強さをアピールしたいジャンヌに鼻を鳴らしつつ、ひとまず共闘を受け入れるヴィトラ。左手を巨大なフックへと変え、腕を伸ばし投げ縄のように放つ。


『おぞましき異形よ、挨拶代わりの一撃をくれてやろう! キャプテンクック・アームアンカー!』


「ガルッ……ギアッ!?」


『ククク、捕らえたぞ。今の貴様は捕鯨船に拿捕された鯨も同じ。辿る道は一つ……死あるのみ! ギガホエール・フレイル!』


 碇のような形状に変化したフックが、ゼルヴェギウスの左前脚の付け根を構成する拘束具にヒットし引っ掛かる。凄まじい膂力で腕をぶん回し、巨体を軽々と宙に浮かせた。


「ギルルルルルルァ!!!」


『ただ振り回すだけではないぞ、こうやって魔力を使えば! 貴様を叩き付けるためのクリスタルを作り出せるのだ!』


「随分とド派手なことをなさいますわね。こちらも負けていられませんわ! 行きますわよ、スパイダースライダー!」


 ただ振り回すだけでなく、空中にいくつもの黒いクリスタルを浮かべそこに敵をぶつけまくる。あまりにも滅茶苦茶な攻撃に、ジャンヌは呆れつつ自身も動く。


 あっちこっちに振られるヴィトラの腕をスライディングでくぐり抜け、ゼルヴェギウスの下に潜り込んだ。狙うは一カ所、フックが刺さっていない右前脚だ。


「破槍の一撃、受けてみなさい! 気刃金剛斬!」


「ガウアアァァァ!!」


「おお、やりやした! やっこさんの脚を切り落とし……!?」


『切り落とした腕が動いた!? ジャンヌさん、避けてください!』


 槍を一閃、見事脚の付け根にクリーンヒットさせ両断してみせたジャンヌ。が、喜んでいたのも束の間。本体から離れた右前脚がひとりでに動き、襲いかかったのだ。


「ギャシャアアア!!」


「くっ! この腕、自立行動が出来るというわけですわね。これは厄介ですわ」


『フン、お返しのつもりか我の腕を切り落としたな。くだらぬ、仮初めの肉体なぞいくら欠損してもすぐ再生出来るわ』


「あら、心強いですわね。いざという時は盾にさせていただきますわ。盾の魔神の運命変異体なのですから冥利に尽きるでしょう?」


『勝手に抜かしていろ、小娘。逆に貴様を肉の盾にしてくれるわ』


 ジャンヌへの逆襲は避けられたため、ヴィトラの腕を爪で切り裂き怪物はフックから逃れる。前脚が元の場所に戻り、断面同士を合わせて傷を修復してしまった。


 それでも、ヴィトラやジャンヌは慌てることはない。相手がおぞましい生物兵器であっても、ペースを乱さず立ち向かう。軽口を叩き合い、二人は獲物を見つめた。

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― 新着の感想 ―
怪物退治にキャプテンヴィトラが挑むか(ʘᗩʘ’) 海賊衣装なら海賊帽で眼帯か?(゜ο゜人))
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