169話─邪悪なる結合の獣
「飛び道具は効果無し……なら、こいつぁどうです? 忍法、刃脚斬蓮華の術!」
『ボクが援護します、思いっきりやっちゃってください! 今更ですが……【庇護者への恩寵】発動!』
『庇護者への恩寵を発動します。対象者へ腕力の大幅な上昇及びその他身体能力の向上を付与します』
「恩に着やす、坊ちゃん! こいつを食らいなせえ!」
遠距離攻撃では相手の守りを貫けないと判断し、憲三は危険を承知でシュナイダーに突撃する。突発的に戦いが始まったため使い忘れていた、自身のチート能力を発動しユウは援護を行う。
「Do you mean attack directly? Unfortunately, that's also meaningless. The power of the gauntlet is invincible! I am now a warrior who surpasses God and harbors an infinite beast! There is no defeat!(直接攻めるってかい? 残念だがそれも無意味だぜ。ガントレットの力は無敵だからな! 今の俺は無限の獣を宿す、神を超えた戦士! 敗北はないんだよ!)」
【REPTILES POWER COMBINE】
庇護者への恩寵によって身体能力が強化された憲三は、右脚を鋭いブレードへ変化させる。目にも止まらぬ速度でシュナイダーに肉薄し、首を狙った回し蹴りを放つ。
が、見てから回避余裕でしたとばかりに直前まで引き付けてから背後に跳躍し、憲三の攻撃を避けるシュナイダー。ガントレットのリングを操作し、今度はトカゲの模様を三角形に合わせる。
すると、シュナイダーの姿が大きく変貌する。哺乳類の化身だったこれまでと違い、今度は爬虫類の化身へと姿を変えたのだ。
『あいつ、今度は爬虫類に……!』
『ふむ、見たところリクガメとワニ……か? 奴め、獣の力を使いこなしているようだな』
手脚がワニ、胴体がリクガメのキメラとなったシュナイダーはニヤリと笑う。彼の変化は、まだ終わりではないらしい。そうはさせないと、憲三が攻め込むが……。
「It's no use, your attacks won't catch me! I'll show you the power of a chameleon, Invisible Body!(ムダさ、お前の攻撃が俺を捉えることはない! カメレオンの力を見せてやるよ、インビジブル・ボディ!)」
「! 姿が消えた……チッ、カメレオンと言やぁ体表の色を変化させての景色への同化。こいつぁ厄介な……」
『とはいえ、カメレオンの擬態は透明になるのではなくあくまで景色への同化です。よーく目をこらせば、相手の居場所を見破れるはず……』
「That's impossible. By combining the powers of many beasts, I can become completely transparent! Then...look, I'll inflict a fatal injury on you guys! Crocodile roll out!(そいつは無理な話だ。数多の獣の力が混ざり合うことで、俺は完全に透明になれる! そうして……ほら、お前たちに致命傷を負わせるんだよ! クロコダイルロールアウト!)」
姿を消して憲三の攻撃を避けたシュナイダー。ユウは相手を見つけ出すべく、目をこらしてどこにいるのか捉えようとする。が、それより早く敵が動く。
片腕の肘から先をワニの頭部へと変え、憲三の背後から強襲を仕掛ける。鋭い牙による噛み付きを受ければ、アストラルの身体を持つ憲三でも重傷は避けられない。
『させませんよ、チェンジ!』
【ブロックモード】
『それっ、インビジブルウォール・トライアード!』
「Are you trying to protect your friends with an invisible magic barrier? It's tearful, but no matter how strong the defense is! "You can't block my attack!(見えない魔法障壁で仲間を守ろうってか? 涙ぐましいな、だがどんな強固な守りも! 俺の攻撃を阻むことは出来ないんだよ!)」
三発の弾丸を放ち、憲三を守る三重の防御壁を出現させるユウ。目には見えずとも存在を感知出来るらしく、シュナイダーは笑いながらワニのパワーで障壁を噛み砕く。
『ええ、防ぐのは無理だと薄々思っていましたよ。ですが……お前の攻撃が憲三さんに到達するのを遅らせることは出来るんですよ!』
「what? It's gone!(なに? しまった!)」
「アシスト感謝しやす、坊ちゃん! 今度は外さねえ! 忍法、円月唐竹斬りの術!」
「Guaaaaaaaaaaaaaa! ! !(ぐ……おおおおお!!!)」
防御壁を砕く必要が出たため、シュナイダーの攻撃速度が鈍る。その結果、憲三が反撃に移る時間を稼ぐことに成功した。狙っていた策がハマり、ユウはニヤリと笑う。
跳躍した憲三はそのまま宙返りし、背後から迫ってきていたシュナイダーに逆襲の縦回転蹴りを叩き込む。直撃する寸前、シュナイダーはギリギリで身体をズラした。
正中線から真っ二つ……という事態は避けたが、右半身への被弾は避けられない。リクガメの甲羅装甲によって完全に両断されはしなかったが、腰まで切り裂かれる。
『よし、これだけの致命傷を与えれば一気に倒せます! 畳み掛けてトドメを……!?』
「You did it, you got one. But you're still naive, I have the regenerative ability of a demon god just like you! Yu Hojo!(やってくれたな、一本取られたぜ。だがまだ甘いな、俺にもお前のように魔神の再生能力が備わってるんだぜ! ユウ・ホウジョウ!)」
『チッ、奴め。相当強力な再生能力を手に入れたようだ。我の見立てでは……一撃で息の根を止めねば、またああやって復活するだろう。厄介な……』
「It's time to change the target, I'll take out the annoying Brain first! Prepare yourself, Yu Hojo!(標的変更だ、まずは目障りなブレーンから仕留めてやる! 覚悟しろユウ・ホウジョウ!)」
してやられたことに激怒したシュナイダーは、先にユウを倒すべく狙いを変える。憲三を突き飛ばし、両足をヤモリのソレへと変化させた。それも、ただのヤモリではない。
爬虫類の中でも最大級の跳躍力を持つ、クレステッドゲッコーというヤモリだ。目にも止まらぬ速度でユウに迫り、ワニに変えた腕を突き出す。
『は、はや……!』
「坊ちゃん! 今助けに……」
「Eat this! Crocodile neck hanging──! ?(こいつを食らえ! クロコダイル・ネックハンギング──!?)」
「そこまでだ、シュナイダー。ユウ・ホウジョウ一味は倒すべき怨敵だが、そのタイミングは今ではない。退くぞ、他の異邦人を狩り魂を集めるのだ」
もう少しで攻撃が届く……というところで、縫い付けられたかのようにシュナイダーの動きが止まった。そして、低く落ち着いた男の声が響く。
ユウたちのいる地点から数メートル離れたところに空間の歪みが現れ、その中から最後のトップナイト……。レオン・リーズが姿を見せる。
「身体が動かねえ……? チッ、新参の仕業か」
「Does that mean we're out of time? I can't help it, if you say so, I'll crush the others first. Yu Houjou, I'll leave this match to you, but next time I'll let you fight until it's decided. And I win!(時間切れってわけか。仕方ない、兄貴がそう言うなら先に他の連中を潰すぜ。ユウ・ホウジョウ、この勝負はお預けになるが……次は決着がつくまで戦わせてもらう。そして俺が勝つ!)」
『フン、兄の方も出てきたか。だが、おめおめ逃がすとでも? 小僧、我の身体を用意しろ! 貴様らの代わりに』
「シュナイダーが言っただろう? 時間切れなのだとな。我々リーズ兄弟の代わりを連れてきたから、そいつと遊ばせてやる。さあ来い……異邦なる者たちの魂を糧とする異形、ゼルヴェギウスよ!」
動きを止める魔法でユウたちの攻撃を封じつつ、弟を回収し新たな任務へ就かせようとするレオン。唯一動けるヴィトラが身体を創ってもらい、反撃しようとするが……。
新たに出現した空間の歪みの中から響くおぞましい叫び声に、ユウたちは凍り付いてしまう。そして、否応なしに悟らされる。禁忌の生物兵器が、現れようとしていると。
「つい先日、試作一号が完成してね。完全体を創り出すための実戦データが欲しかったところだ。存分に戦ってくれたまえ。では、さらばだ」
『待て! ……逃げましたか。追いたいところですが、まずは……これから来る敵を倒さないと』
『……気を付けよ、小僧。ここに現れようとしているのは……まともな存在ではない。正気を失わぬようにせよ』
リーズ兄弟が撤退した後、動けるようになったユウたちは脂汗を流しながら空間の歪みを見つめる。今……異形が、襲いかかる。




