168話─堕天の篭手・銀なる獣
「なるほど、そういうことでしたら自衛と坊ちゃんの護衛を兼ねてお側にいるとしやしょう。調査に駆り出してる若い衆のうち、異邦人の連中も撤収させやす。安全第一でやすからね」
『ええ、そうしましょう。相手はこれまでと違う異質な存在。念には念を入れておくのに超したことはありませんから』
アパートメントに戻ると、幸いなことに何事もなく憲三が待っていた。ユウはギルド本部での出来事を話し、転生・転移した異邦人が狙われていることを伝える。
ヴィトラの話していたおぞましい生物兵器の燃料にするため、義人の魂を奪ったと見て間違いない。そう判断し、憲三は自身とユウを守るため動く。
『これでひとまずは……! 小僧、気を付けよ。この気配……どうやら、噂のリーズ兄弟のどちらかが来たようだ。街の外にいるようだな……どうする?』
『敵の気配は動く素振りを見せませんね。もしたしから、ボクが出てくるのを待っているのかもしれません』
「なら、共同戦線を張りやしょう坊ちゃん。二人でかかりゃ、敵さんを倒せずとも撤退させるくらいは出来ましょうや」
『ええ、念には念を入れておきましょう。行きますよ、憲三さん!』
が、そんな彼らの元にも不穏な気配が現れた。早速決意を行動に移し、憲三はユウと共にニムテの外へ向かう。そこに待ち受けていたのは、銀のフォールンガントレットを身に着けたシュナイダーだった。
「Hey, I missed you. I'm Schneider, one of the last two Top Knights. Please remember, Yu Hojo.(やあ、会いたかったよ。俺はシュナイダー、トップナイト最後の二人の片割れさ。覚えといてくれよな、ユウ・ホウジョウ)」
『やはり貴様だったか、シュナイダー・リーズ。それにしても奇妙なことを言うな。トップナイトが残り二人だと? 小僧が倒したのはまだ四人だけのはずだが』
「Due to various reasons, I was left alone. Well, there's no problem at all. Project M is finally completed. That's why we don't need new executives(いろいろあってね、一人いなくなっちまったのさ。ま、問題は全くないよ。ついに完成したんだ、プロジェクトMがね。だからもう新しい幹部はいらないんだ)」
ヴィトラとシュナイダーが話をしているなか、ユウの視線は相手が身に着けているガントレットに注がれていた。どこか懐かしく、それでいておぞましい気配を放つソレに怖気を走らせる。
『シュナイダーと言いましたね、そのガントレットは一体なんなんです? まるで、パパの使うツイン・ガントレットのような……』
「Do you want to know? This guy is the ultimate weapon made using the Mazinphone stolen from the Palladion he killed two years ago. The culmination of Project M is the Fallen Gauntlet!(知りたいか? こいつはな、二年前に殺したパラディオンから奪ったマジンフォンを用いて作った究極の兵器。プロジェクトMの集大成、フォールンガントレットだ!)」
『マジンフォンを使った兵器……!?』
「こいつは……驚きやしたね。まさか、あっしらが知らねえ計画まで実行していやがったとは」
「Anyway, over the course of two years, I reverse engineered Mazinphone little by little. The power of the ultimate weapon was born! You should know for yourself!(そうとも、二年の歳月をかけて少しずつマジンフォンのリバースエンジニアリングをしてきた。そうして生まれた究極兵器の力を! その身で知るがいい!)」
驚愕するユウたちにそう叫んだ後、シュナイダーはガントレットに装着されたリングを回す。獅子の顔のようなマークが掘られた部分が手の甲にある三角形の先端に来るよう、セットする。
【BEAST POWER COMBINE】
「Let's get started. It's game time. Beast Soul... Overlord!(さあ、始めよう。ゲームの時間だ。ビーストソウル……オーバーロード!)」
「坊ちゃん、来やす! 気を引き締めなせぇ!」
『ええ、こちらも全力で行きます! ビーストソウル・リリース!』
魔神の力を秘めたオーブが顕現する代わりに、ガントレットから不気味な音声が鳴り響く。シュナイダーが叫んだ直後、ユウは拳の魔神へ化身して走り出す。
【アブソリュートブラッド】
『先手必勝! 食らいなさい、イノセンスインパクト!』
「It's too late, you can't hit me who has gained the power of a feline beast! That's such a lame attack!(遅いな、ネコ科の猛獣の力を得た俺には当たらないぜ! そんなすっトロい攻撃なんてな!)」
『なっ!?』
『! こやつ、ジャガーとチーターの力を宿したのか!』
「坊ちゃんあぶねぇ! 忍法、五月雨手裏剣の術!」
相手が動く前に、一撃必殺で仕留める。そのための拳を放つも、攻撃が標的を捉えることはなかった。シュナイダーはジャガーとチーターが混ざったような獣人へと変身したのだ。
そうして、人間では不可能な獣じみた身の捻り方で攻撃をかわし素早く後ろへと跳躍する。それを見たユウとヴィトラが驚くなか、憲三が手裏剣を大量に投げ牽制を行う。
「It's no use, now I can control the power of numerous creatures at the same time with the power of the Fallen Gauntlet! This kind of thing is possible!(ムダだ、今の俺はフォールンガントレットの力で数多の生き物の力を同時に操れる! こんなことも可能なのさ!)」
『こ、今度はアルマジロとカバ!?』
「あっしの手裏剣が通らねえ……! なるほど、アルマジロの甲羅の剛とカバの皮膚の柔による二重の防御……。こいつはぁ侮れやせんな」
手裏剣に貫かれる……かと思いきや、シュナイダーはさらなる獣の力を解放する。全身をカバの分厚い表皮で覆い、さらにダメ押しとばかりにその上にアルマジロの甲羅を纏って鉄壁の防御を敷く。
身体を丸め、憲三の放った手裏剣を全て弾いてしまう。手脚はジャガーとチーター、胴体はカバ、装甲はアルマジロ。様々な獣の特性を取り入れたその姿は……キメラそのものだった。
「What do you think? Isn't it great? This is the result of Project M! By absorbing the power of demons to transform into beasts, I have become a being equal to God! Come on, eat it! Chimera Tech Cannon!(どうだ、素晴らしいだろう? これがプロジェクトMの成果! 魔神どもの持つ獣へ化身する力を取り込み、俺は神にも等しい存在になった! さあ、食らえ! キメラテックキャノン!)」
『憲三さん、来ます! 避けてください!』
「I won't let you escape, I'll kill you both!(逃がさないぜ、二人纏めて轢き殺してやる!)」
身体を丸めたまま、シュナイダーは勢いよく回転しながら突進していく。自由自在に軌道を変え、ユウと憲三を轢殺せんと猛攻を繰り出す。
ガントレットの力で強化された甲羅は非常に硬く、逃げながら放たれるユウの銃撃や憲三の手裏剣がまるで効かない。予想を超える強敵の登場に、ユウは冷や汗を流す。
『シュナイダーめ、我がいた頃よりも遙かに強くなっているな。あのガントレット……あまりにも危険過ぎる。早急に奴を仕留め、破壊しなければ』
『ええ、危険だというのももちろんありますが……。あのガントレットは、魔神の存在そのものを貶めるおぞましいもの。この世にあっていいものではありません、必ず破壊してやります!』
今、静かに……パラディオンギルドとリンカーナイツの最終決戦、その火蓋が切って落とされた。




