162話─切り札たるZ
「ああ、そういえば君の体内に魔魂片が取り込まれているんだったっけねぇ。ちょうどいい、取り返せばさらに私の地位が盤石なものになろうさぁ! お前たち、行け! 数の暴力で蹂躙してやれぇ!」
「おおーっ!」
『ハッ、今更にもなって単なるゴリ押しか。くだらぬ、その程度なら我が力を貸すまでもない。そうだろう? 小僧』
『もちろん! ……相棒に認定したんですから、そろそろ小僧呼びはやめてもらいたいんですけどね! ビーストソウル・リリース!』
『我にとって小僧は小僧、もはや愛称のようなものだ。気にするな』
宇野が配下の者たちをけしかけるなか、ユウはヴィトラとそんなやり取りをしつつ獣の力を解き放つ。そうして、銃の魔神へと変身したユウは早速敵の殲滅を始める。
【ブレイクモード】
『今日は最初から大盤振る舞いしちゃいますよ! ナインフォール・ディバスター……大かいてーん! こゃーーーん!!!』
「げえっ!? あいつレーザー撃ちながら回り出したぞ!」
「焦るな、飛んでくるのは水平方向だけ! 上や下にかわしぐぎゃあ!」
『そう簡単にはいきません、上にも下にもぐーるぐるですよ!』
『我の中に宿る【境界のオニキス】の力で連中以外には当たらんようにしてやった、被害は出ぬから思いっきりやるがいい』
今回は敵の数が多すぎるため、魔力の消耗など構わず初っ端からフルスロットルだ。ブレイクマガジンをセットし、極太のレーザーを放ちながら回転するユウ。
もちろん、単に回転するだけでは水平方向にしか攻撃出来ないためあらゆる方向に身体をぐるんぐるんさせている。ヴィトラがアシストしており、家屋や地面は透過しているため二次被害は出ない。
闇寧神の破壊のパワーを宿したレーザーに耐えられる者はほぼおらず、立ち向かう者も逃げ出そうとする者も等しく蒸発していく。ただ一人、宇野を除いて。
「ふぅーむ! 流石これまで我々を苦しめてきた英雄! やはり数のゴリ押しじゃあ勝てないねぇ! なら…投入するとしよう! 来い、アストラルZ・オメガ!」
『む……小僧、気を付けろ。あの魔力反応の主が来るぞ』
『望むところです、あの宇野とかいううるさい人と一緒に返り討ちにしてやりますよ!』
強固なバリアと部下の肉壁によって攻撃を凌いだ宇野は、最強の切り札を投入する。ユウたちの前に、起動状態となったアストラルZ・オメガが転移してきた。
「オオオォォ……! ミツ、ケタゾ……ユウウゥゥ!!!」
『やはりいましたか、ラディム! それにしてもまあ……凄い姿になりましたね、これ』
『随分と醜悪な肉の塊になったものだ。ヴェルダンで焼いて消し炭にするとしよう』
巨大な肉塊の前面に埋め込まれ、胸から上だけが見えている状態のラディムがユウを見つけ吠える。人ならざる存在に改造されてなお、ユウへの恨みは尽きないらしい。
もっとも、ユウからしても第三者から見ても単なる逆恨みでしかないが。ヴィトラの言葉に頷き、ユウは大きくジャンプして天高く飛び上がる。
『再会したばかりですがここで消えてもらいます! ナインフォール・ディバスター!』
「ソンナ、モノ……キカネェェェ!!」
『! 攻撃を吸収した……!?』
『ほう、あのムダにデカい図体……なるほどなるほど、魔力を蓄えるためのものか。ここから何をしてくるのかが見物だな』
素早く総大将を撃破することで、敵の士気低下を狙うユウ。即座に魔力をブレイクマガジンに注ぎ込み、ラディム目掛けてレーザーを放つ。
が、ラディムことアストラルZ・オメガはレーザーで傷一つ付かず破壊の魔力を全て吸収してしまった。それを見たヴィトラは、カラクリを看破し呟く。
『一撃で仕留められないとなると……ここは相手の手札を暴いて、弱点を見付け……!? 肉塊の表面が、波打ってる……?』
「ハアッハハハァ! さぁ、目覚めの時間だぁアストラルZ・オメガ! お前の中に封じた、過去の巨悪たちの力を! 見せ付けてやれぇぇぇ!!」
「コロ、ス……ユウ、ハココデ……コロシテヤルゥゥゥゥ!!!」
一撃必殺が不可能であるなら、時間をかけて相手の手札と弱点を暴いていくしかない。そう考え、ユウが作戦を練ろうとした……その時だった。
巨大な肉塊の右側面が不気味に波打ち始めたのだ。地上にいる宇野が叫ぶと、ラディムは吸収したユウの魔力を変換して創り出す。いにしえの昔に暗躍した、悪の虚像を。
『うわっ! な、何か出てきましたよ! ううっ、気持ち悪い……ヒト? なんですかアレは』
『なんだ? 奴は。キッチリ左右を赤と青に塗り分けた鎧など……フン、珍妙なものを着ておるわ』
『赤と青の鎧……まさか!? ヴィトラ、一旦距離を取ります! ボクの推測が正しければ、アレはかなりまずい存在です!』
肉塊の表面が盛り上がり、ヒトの形を成していく。そうして現れたのは、右半分が青、左半分が赤に染まった鎧を着たヒトの上半身であった。
首から上は顔も髪も存在しないのっぺらぼうだが、ユウはアストラルZが創り出した存在を知っていた。かつて父から思い出話として聞いた、遠い昔に戦った宿敵。
魔戒王グランザームの配下……炎と氷、相反する二つの力を操る大魔公。『氷炎将軍』の二つ名で恐れられた猛将、グレイガを再現してみせたのだ。
「ニガ、サナイ。シネ、ユウ! ツイン・デストラクション!」
『まずい、アレを着弾させたら何もかも消し飛んじゃいます! ヴィトラ、【境界のオニキス】の力を使います! どうにかあの攻撃を止めないと!』
『何が何やら分からぬが、あの攻撃を不発にさせねばならぬということだけは理解した。よかろう、我が魔力を貸してやる。好きなだけ使え!』
『ええ、ではやりますよ! タイミングを見計らって……』
ラディムはグレイガもどきを動かし、右手に氷、左手に炎の魔力を集め凝縮させる。そして、両手を握り合わせて無理矢理対極にある二つの魔力を融合させユウへ放つ。
直撃すれば、かつてリオがそうなったようにユウも消滅することになってしまう。かといって避けてしまうと、着弾地点が消滅することになってしまう。
触れるもの全てを消滅させる攻撃をどうにかして防がねば、未曾有の被害が出る。そこで、ユウは終焉の力を使い無理矢理相手の攻撃を掻き消すことを選ぶ。
「おやぁ? 何をするつもりかなぁ? まあいいかぁ、データを採れるなら問題はなぁし! このまま静観するとしよう!」
『今です! リアルシフト・ウォール!』
「ムウッ……!? キサマ、ナニヲ……シタァァァ!!」
『はあ、はあ……。どうにか成功しました、今の攻撃は……現実改変を応用した防御壁を使って、存在自体をなかったことにさせてもらいましたよ!』
ユウは終焉の力の一つを使い、目の前に漆黒の壁を作り出す。そこに魔力の砲弾が直撃し、しばらくせめぎ合う。少しして、ユウの方が打ち勝った。
終焉の力を用いて無理矢理現実をねじ曲げることで、ラディムの放った攻撃を存在しなかったことにして不発にさせたのだ。かなりの魔力を使い、脂汗を流しつつユウは笑う。
「なるほどなるほど! いやぁ驚いたよ。まさかこんな方法で……おっと!」
『うるさいですね、なんていうものを創り出しているんですかお前は! 下手をすればこの大地が消滅するんですよ、よくもこんなふざけたことを!』
「ハハハハ! そんなのは知ったことじゃあないのさ! 私はね、誰よりも優れたこの頭脳を使って! 倫理だの道徳だのくだらないことに囚われない研究を! 永遠に続けていければそれでいいんだよぉ!」
『チッ、我が言えたことではないが何とも邪悪な性根をしておるな。その成果物があのアストラルどもか……なるほど、子は親に似るというわけだ』
予想外の方法でツイン・デストラクションを攻略したユウに感心していた宇野に、弾丸が数発撃ち込まれる。とんでもない超兵器を生み出したことに、ユウはかなりご立腹だ。
一方の宇野は、悪びれることなくそんなことをのたまう。ヴィトラが呆れるなか、ユウは完全にブチ切れた。
『そうですか。反省の色は無し、と。パパから聞きました、グレイガはグランザームさんの配下の中で唯一自分を死に追い込んだ、敬意を払うべき猛者だったと。そんなヒトの力を悪用するなら、僕たちはお前を許さない!』
「許さない? ならどうするのかな。言っておくけどねえ、アストラルZ・オメガにインプットした強者のデータはグレイガだけじゃあないんだよ! もっと味わうがいいさ、私の最高傑作の恐ろしさを!」
「ソウ、ダ。ユウ、ボクノアジワッタクツジョク……オマエモアジワエ!」
『フン、くだらぬな。味わった屈辱の質で小僧を上回れるとでも? 愚かな、貴様如き贅肉なぞ恐るるに足らぬわ!』
『ええ、一欠片も残さずチリにしてやりますよ!』
怒れるユウの反撃が、始まる。




